異界への通路「黄昏回廊」
「……ところでさあ、ウォルフィ。どうしてこの世界の人たちは、もっとわたしたち人間の世界にやってこないの?」
さきほどから気になっていたことを、ハルミはたずねた。
「カンパネアと人間の世界とは、昔から交流があったんでしょ?
だったら、わたしたちの世界の人間だってもっとこちらに来てると思うんだけど」
「それは……」
なぜだか、言いにくそうにウォルフィが顔をくもらせた。
「……かぎられた種族だけしか、『黄昏回廊』を通り抜けることができないからだ」
タソガレカイロウ?何それ?
「このカンパネアと、それ以外の世界をつなぐ通路のことだ。
ここに来るまでに俺たちが通ってきた道だよ。あの道を、われわれ以外の種族が通ることは、ほぼ不可能だ」
「ほぼ不可能?どうして?」
「黄昏回廊の入り口は、常に場所や形を変えて出現するからだ。
回廊がどこにどんな形で現われるのか、それを探し当てるのはものすごく難しい。
ぐうぜん入り口を見つけることができたとしても、、その道がどんな世界に通じているかは分からない。
だから、ほとんどの種族が中に入りこんだまま行方不明になる」
そ、そんな恐ろしいところを通ってきたの?
「けど、俺たちの種族ならば迷うことはない」
どうして?
「……匂いだ」
さきほどよりも、さらに顔をくもらせてウォルフィは言った。
「……われわれの種族は、お前たち人間の一万倍ちかい嗅覚を持っている」
い、一万倍?
「だから、どこに黄昏回廊があるか、その回廊がどの世界に通じているか、匂いで判るんだ。
もちろん、嗅覚が鋭い種族はほかにもいるが、我々ほどの―」
その時だった。
「あっ、ここは!」
タブレットの画面に映った、狼とハサミをかたどった看板。
そこに書きこまれている文字が『デュエマ』とカタカナで変換されていることにハルミは気がついた。
堂々とした、石づくりの建物だった。
花や蔦といった伝統的な植物のもようが彫りこまれた壁や柱に、むき出しの鉄やガラスを組み合わせた近代的な外観。
なめらかに流れる植物の曲線と、硬くて平らな鉄やガラス。
異なる時代の特徴や性質を互いに引きたて合う組み合わせを追求した時代の建築物だという。
「ここは、百年ほど前にできた店だ」
建物を見あげながらウォルフィが説明した。
「それまでデュエマは人間のすがたをした、いわゆるヒト型の種族向けにしか服を作っていなかった。
けれども、この時代からゴブリンやオークやドワーフといった、違う種族が着ることを念頭に置いて服を作り始めた。
そんな風にカンパネアの何もかもが一斉に動きはじめた時代の建物なんだ」




