夜露死苦ファッションの美少年
振り返ったハルミは、
「……」
と、思わず息をのんだ。
それほどまでに美しい瞳の持ち主が、そこに立っていたからだった。
身長は、ハルミよりも頭二つぶんほど高い。
見つめられているうちに体が内がわから凍りついてしまいそうな、青みがかった灰色の瞳。
手入れが行き届いていることがひと目でわかる、くせのない栗色の髪。
そして陶器でできた人形みたいな、透きとおった白い肌。
まるで王族のような気高さを見る者に与える少年だった。
ただし、その少年が着ていた服は、
(ざ、残念!)
うす紫色の生地に入った「喧嘩上等」や「暴走命」といったケバケバしい刺繍。
足もとには真っ白な地下足袋を、おなかには白のサラシを巻きつけている。
おなじみ、暴走族の特攻服すがたである。
けれども。
(気のせいかな……)
少年がハルミの顔をのぞきこんだり首をかしげたりするたびに、服の上に浮き出るシワ。
それが、まるで着られていることが嬉しくて着物がはにかみ、ほほ笑んでいるように見えるのは。
「み、、み、みず……」
あまりに美しいものに、唐突に出くわしてしまったせいだろうか。
ハルミはポケットに突っ込んでいたミネラルウォーターのボトルを取り出すと、
「ぷはあっ!」
と、ひと息に飲んでしまった。
(それにしても、めっちゃスタイルいいな)
ペットボトルを飲み干したハルミは、高貴な顔だちとは裏腹のゴリゴリのヤンキーファッションに身をつつんだ少年の姿を見て思った。
ブカブカの特攻服に身をつつんでいてもスタイルの良さは隠しようがなく、長い足の股上はハルミのおへそよりも位置が上だった。
ファッションモデルか、あるいは俳優かもしれない。
道を行きかう人たちからは、
「えっ?すごいイケメン?」
「け、けど、暴走族だよ?」
「映画の撮影か何かかしら?
という声が聞こえてくる。
「変わった服を、着ているな」
ハルミの着ているハッピをまじまじと見つめながら、ヤンキーファッションの少年が言った。
(お前にだけは言われたくないわい)
と心の中でツッコミを入れながら、
「こ、この服のこと?これはハッピっていうんだけど」
とハルミは答えた。
「Happy?」
「じゃなくって、法被!お祭りとか、おめでたいときに着る衣装のことよ」
「なるほど、ハッピーな時に着る服か……」
ひとり合点したように少年がうなずいた。
「それにしても、面白いかたちをしているな。ボタンがないところをみるとガウンの一種か?しかし室内着でもなさそうだし……」
外国人かな、ハルミは思った。
とてもきれいな日本語を話すが、言葉づかいやものの考え方、どことなくちぐはぐである。
最近は、このえびす橋商店街にも、外国から訪れる観光客が増えていた。
理由は、この商店街の記事が国際的に有名な食べ歩きガイドブック「メシュラン」に掲載されたからだ。
以来、海外からおしのびで有名シェフやセレブが訪れるグルメの町として知られるようになってしまった。
えびす橋商店街は、瀬戸内海に面した船着場から、山の手に向かって伸びている神社へお参りするための参道が発展してできたものだ。
波止場に至るまでの界隈は大手の造船所を中心に鉄工所や鋳物工場、運送会社の倉庫が立ち並び、さらにそのまわりには鮮魚や青物の卸売市場、湾口で働く人たち相手の食べ処や飲み処がひしめき合う、食べ歩きには最適の町である。
この少年もガイドブックを見てやって来た異国から訪れた旅人かもしれない、そんなことを考えていた時だった。




