土曜日と日曜日だけ開いているお店
このたび、瀬戸内海に面したとある港町に一軒のお店がオープンする。
洋服の仕立てとお直しを専門とする、小さな店だ。
ちなみに仕立てとは、お客さんの体の大きさに合わせて切り出した布を縫いあげて、一から服を作り上げること。
お直しとは、着る人の体に合わせて服の大きさを直したり、着ごこちを良くするための工夫をすることだ。
ただしこのお店は、土曜日と日曜日しか開店していない。
なぜかって?
それはー
☆ ☆ ☆
「お買いものちゅうのみなさーん!」
春休みが始まったばかりの、土曜日の昼さがり。
高校一年生の瀬戸宮ハルミは、商店街を行きかう人たちに向かって声を張りあげていた。
「ただ今、えびす橋商店街では、『新生活お買いものスタンプラリー』を開催ちゅうでーす!」
きりりと角度のついた眉と、力づよい光を宿したとび色の瞳。
負けん気の強い性格だと、人からはよく言われる。
それは世話焼きなくせに意地っ張りな商売人たちや、喧嘩っ早いくせにお人よしな職人たちの集まる、港町で生まれ育ったせいだろうか。
ただし、身だしなみには、それほど気をつかわないタイプらしい。
伸ばしっぱなしの黒髪に、中学生のころから着ているスウェットパーカーと穿き古したジーンズにサンダル履き。
その上から、襟もとに「えびす橋商店街」という文字が入った真っ赤なハッピを羽織っている。
頭には白いハチマキを巻き、首から下げた黄色いメガホンを握りしめて、
「スタンプ五つでくじ引きが一回、十個で三回引くことができます。抽選会場は恵比寿川神社の境内です。みなさんどうぞ、お越しくださーい!」
と、道行く人びとにスタンプカードを配ってまわる。
といっても、春休みを利用してアルバイトをしているわけではない。
この商店街で、「せとみ屋」というお好み焼き屋をやっているハルミの家が、三年に一回まわってくる「世話役」の当番に選ばれたからだ。
世話役というのは、商店街で行われるさまざまなイベントの準備をする人たちのことだ。
お祭りに屋台を呼んだりフリーマーケットの場所を決めたり、運動会で配るお弁当や飲み物を注文したりそれにかかった経費を勘定したりと、なかなか忙しい仕事である。
このスタンプラリーの呼びかけも、そのひとつだ。
本当は大人がやるべき仕事なのだが、なにしろ春やすみの土曜日だ。店を構えている大人たちはみんな忙しくて、とても顔を出せない。
そこで、ハルミたち子どもの登場である。
「一等賞の方には、三日間この商店街でお使いいただける食べ放題チケットを進呈しまーす!」
「ほかにも洗濯機に冷蔵庫など、新生活に必要な豪華賞品をプレゼント!」
「お買いあげ、よろしくお願いしまーす!」
商店街のあちこちからは、ハルミと同じように親が世話役をつとめている子どもたちの声が聞こえてくる。
おさないころからずっと目にしてきた、生まれ育った下町の光景だ。
ハルミも負けじと、
「抽選は明日までとなっておりまーす!ぜひぜひお買いあげお願いしまーす。
と、元気のかたまりをぶつけるみたいな声で呼びかけていた時だった。
「何をお願いするって?」
不意に、後ろから声が聞こえた。




