すご腕の、職人がいる
「すご腕の、職人がいる」
うわさは、あっというまにえびす橋商店街に広がった。
「いやあ、ウォルフィくんに仕立ててもらったこのポロシャツ、すごく着ごこちがいいよ!」
と、ニコニコ顔でお好み焼きのコテをふるうのは、ハルミの父さんだ。
「おかげで、すっかり肩こりが無くなっちゃった。何てていう名前だっけ、ラララン袖?」
「ラグラン袖です。最初から肩を動かしやすい形に裁断した布で作ったシャツです」
フリーマーケットの一日目が終わった後、「せとうち」でハルミとウォルフィは打ち上げを行った。
おかげさまで、お直し屋さんの売れ行きは上々。
その場ですぐにお直しができるということで、フリーマーケット全体の売り上げも好調らしい。
「へえ、肩こりが治るの?」
と、常連席のカウンターから身を乗り出してきたのは、会長のマダム華子だ。
「だったら、あたしの服も見てくれないかしら?
最近ネットショップを始めたんだけど、パソコンに入力するたびに肩がこってしょうがないのよ」
「どれどれ……ブラウスのアームホール、つまり腕を通す穴の位置が合ってませんね。腕を動かすたびに布地が引っぱられているのが肩こりの原因です」
と、寸法を取るなりアドバイスをするウォルフィ。
「自転車を修理するときにしゃがむと、腰が痛いんだけど」
というコジマ自転車さんには、
「ズボンの後ろにⅤの字型に切り込みを入れてみるのはどうですか。
しゃがむ時に浮き出てくる背骨まわりの筋肉を押さえつけないので、楽にしゃがめますよ」
「ジャンパーやシャツの脇の下がすぐに破れちゃうんだよ。
電灯やクーラーを取りつける時に腕を上げるからだと思うんだけど」
という赤西電気店のオヤジさんには、
「脇の下に伸び縮みのする布で切り替えを入れてみましょう。
通風性のよい生地にすれば、脇の下のムレも防げますよ」
「宿題をしなくてもいい服ってある?」
と尋ねるのは弟のユースケだ。
「あと、忘れものをしても怒られない服とか」
そんな服、あるかい。
ほかにも、
「痩せて見える服ってあるかしら?」
「背が高く見える服、作れるかい?」
「髪の毛が増える服って……ないよね?」
と、口々に相談してくる「せとうち」のお客さんたち。
「ちょっとみんな、いいかげんにしなさいよ!ウォルフィくんがご飯を食べられないでしょ?」
と、ウォルフィの前に大盛りの焼きそばを盛りつけながら、
「……ところで、小ジワが目だたなくなる服って、ある?」
などと、ささやき声で尋ねる、ハルミの母さん。
その夜の「せとうち」は、いつにもまして賑やかだった。
そして次の日。
「売り切れだよ」
お昼ごはんを食べるために、フリーマーケットのホットドッグ屋さんに行った時のことだった。
筋肉ムキムキの店員さんが、ハルミに向かって肩をすくめた。
「お昼になる前に、ぜんぶ売り切れちゃったよ。あのボーイのチケットを持ってきたお客さんたちに買い占められちまった……」




