崩壊
「え?不正解って…???」
「君はこの問いの本質を分かりきっていない。それがわかっていないからこそ、何も犠牲にしないと言える」
どういう事なんだ…?
「…よく…わからないです」
「わざわざ犠牲という言葉を使ったのは何故か。そして俺が示した3つの選択肢に、君はどう思ったのか。もう一度最初から考えてみようか」
「犠牲…」
何かを得るために、何かを失う。
「ベラキサム、父さん達、俺…」
その何かを得るために友達、親族、自分を失ってしまう…?
「少々分かりづらい質問だっただろうか。では質問を変えよう。君が得ようとするものはどこから得られる?」
「俺が…得ようとするもの?」
ガルロさんは俺の目を見て、まるで鋭い剣のように貫き通す。
「君がイマジーネで望むものを得るために、どうしてもそれを叶えるための犠牲が必要となる」
まずその考え方がおかしいんじゃないのか…?
「そんなの…残酷すぎますよ…」
「いいや、悲しいことにこれが世界の理であり、真実なんだ。例えば俺のことだが…」
『隷従の首輪』を摩りながら、神妙な顔で話し始めるガルロさん。
「俺を売ることで、俺の親は金を得た。逆に貴族は金を支払うことで俺を得た。その後の話もそうだ。俺はマーシャを犠牲にして、ノイタークに逃げ延びることが出来たんだ」
「…」
「自分の願いを叶えるために、君や、君に関係する者が犠牲にならないとなれば、誰かが代わりに犠牲を払うということに他ならない」
「誰かが…?」
俺が父さん達の汚名を晴らしたり、マーシャさんを救うことで誰かが犠牲になってしまう…???
「ようやく分かってきたようだな、君が成そうとしている事の重大さに」
「…ガルロさんは俺の覚悟を試していたわけですか?」
ガルロさんはさっきの表情のまま、こくりと頷く。
「だから3つの例を出したんだよ。誰かの親族、友達、その誰か本人を犠牲に、君はさせるんだ」
「…!?」
ふぅ…と一息つくと、ガルロさんは話を続ける。
「心を強く保ち、自分の周りの人を傷つけさせないという強い意志が君にはあるか?」
「強い意志…」
「誰かがその大事なものを失う事になるという現実を、君は最初は投げ出そうとした。それは全てが大事なものだからだ」
なんなんだよ…!それじゃまるで…
「ガルロさんは…!俺に誰かの大事なものを奪えというんですか!?」
「…ああ。奪わなければ、奪われるだけだ」
「そんな…」
そんな悲しいことって…!!
「だからこそ、君が奪われないために強くなることを誓わなければ、真っ先に君が死ぬことになるだろう」
ガルロさんは微笑みながらも、彼の言う強い意志をその目から感じさせる。
「この世界…『イマジン』とはそういう犠牲のもとに作られている。君はそれを理解し、大事なものを守るために、強くなり続けなければならない」
「…」
俺には…わからない。何かを成し遂げようとすることで、犠牲は必ず出てしまうものなのか…?
「君が考えていることはわかる、だが何に対しても犠牲はつきものだ。心を強く持つことがイマジーネで生き延びるのには必要不可欠なんだよ」
俺は…
「ガルロさん」
「覚悟が…出来たか?」
そんなこと、受け入れられるはずがない。
「それこそ不正解ですよ…!!」
「!」
――――――――――――――――――――――――
「…?」
スーマは飛翔しつつ、何かに目を凝らしていた。
「何か…よくない事が起きそうだな…!」
その視線の先は、ノイタークを含む山々を囲んでいるバリアだった。
「急がねば…!!」
ビュオオオオオオ!!
――――――――――――――――――――――――
「逆に俺が不正解だとはな…何が間違っているというのか、君は答えられるんだろうな?」
さっきとは一変して、鋭い眼光が俺を突き刺す。
「自分の望みを叶えるために何かを、誰かを犠牲にするなんて!俺はそんな覚悟なんかしたくない!!」
「甘えた事を言いやがって…!それじゃあ君の両親やマーシャを救うなど唯の絵空事でしかないんだぞ!?」
「いいや、それも違う!!!!」
「何がだ!?」
俺は…
「一人も犠牲を出さずに、俺は全てを救います!!」
「なっ…!?そんな事が出来ると本気で思っているのか!!?!」
「そうしなければこの世界を変えるなんて不可能なんですよ!!!!」
違う。
「犠牲にし続けた結果が、この世界が歪んでしまっている証拠じゃないですか!!俺は何も犠牲にせずとも願いを叶えてみせます!!」
「それは綺麗事でしかない!!そんな甘い覚悟で務まるなら、誰かがとっくに成し遂げているに決まっている!!」
ただの人とは、俺は違う…!
「でも、それが俺の答えなんですよ!!なぜ信じてくれないんですか!?」
「信じられるか!!何も失わずに世界を変えるなんて、人の身で出来るわけがない!!」
なぜなら…俺は…!!
「俺は!!天才です!!!!」
ボゥッ…
「な、何だ…それは…?」
「えっ…?」
ボォォォ…
「なんだこれ…?」
気が付くと、俺の体を白い霧のような何かが包んでいた。
「やめろ!!」
ビュオッ!!
「やめるんだ、ジーニス!!!!」
「えっ!?」
どこかから目に見えぬ速さで飛んできた黒い影が俺の目の前に現れる。
「ス、スーマさん!?」
それは黒い何かに身を染めたスーマさんだった。
「それ以上スキルを使…!!」
バリィィイイイイイイン!!!!!!
突然、何かが割れる大きい音が鼓膜に響く。
「なんだこの音は!?」
「し、しまった…!!」
ギャリギャリギャリギャリィ!!!!!!
あれって…スーマさんのバリア…???
「崩れているのか…?」
半透明の紫色のバリアが遠くで音を立てながら崩れているのが見えた。
「早くバリアを直さねば…!お前達は早く里に帰り、一緒に家にいるんだ!!私の呼びかけがあるまで待機していろ!!」
「は、はい!」
「なにやらただ事じゃ無さそうだが、大丈夫か?」
「お前達は気にしなくていい!絶対に家を出るんじゃないぞ!!」
ビュゥゥウウウン!!!!
スーマさんは慌てつつもどこかへと飛び去っていった。
「とりあえず里に戻りましょう、ガルロさん!!」
「あ、ああ…!」
タッタッタッ…
俺とガルロさんは共に里へと走り始める。
「一体、何が起きているんだ…?スーマさんは君にスキルを使うなと言いかけていたようだが…」
「俺にもわかりません…なぜバリアが…?」
ガラララララララ…
幻聴なのか、それとも俺の思い込みなのか。バリアの崩壊していく音が、誰かの悲鳴のように聞こえた。




