26.プロローグをもう一度
満開の桜が自分を祝福するように散ってゆく姿を、ダイヤは混乱と共に眺めていた。
平凡な学園の制服が視界に映る。
手のひらは昔と変わらないように瑞々しく美しい。
続々と学園の門をくぐる生徒の流れに抗うように足は動かない。
振りかざされた刃と黄金の瞳を鮮明に思い出すと身震いすらする。
なのに、なんで、なぜ私は学園の前に立っているんだろう。
思わず、身体を抱き締めるように丸まる。
視界には、美しいピンクブロンドが軽やかに揺れている。
微かに震える身体に、やがて誰かが触れた。
余りの恐怖にうずくまり、ごめんなさいと叫ぶ。
全てが怖かった。
そんなダイヤに誰かが同じように膝をついた。
「…驚かしてしまったようだね。そんなに怯えなくていいんだよ」
優しい声色と懐かしい感覚が急速に蘇る。
「………シトリン、王子殿下…?」
涙でぼやけた瞳で見上げれば、シトリンが困ったように涙を拭った。
恐がらせるつもりはなかったんだ、と落ち着かせるように背中を撫でてくれる。
気が付けば、周囲にはシトリンとガーネットがおり、他の生徒から羨望の声すら聞こえてくる。
「大丈夫かい?医務室に行こうか?」
「……いいえ、ごめんなさい」
そう言いながらも、震えの止まらないダイヤを見かねて、シトリンはダイヤを抱き上げる。
「……っ!!!!」
瞬間、沸き上がったのは歓喜の感情だった。
これは、入学の導入だ。
——知っている。
脊髄が歓喜によって震えを起こす。
それをまだ怯えていると勘違いしたシトリンは背中を優しくさする。
自分に向けられる優しい瞳。
攻略対象に守られる自分。
周囲から向けられる羨望。
これこそ、ヒロインだった頃の自分だ。
ーやり直せる
瞬間、恐怖もどこへやらと霧散していく。
やっぱり、この世界のヒロインはわたしなんだ!
ちらりとシトリンの瞳を見れば、優しさにあふれている。
そのあどけない瞳の奥に黄金の瞳がよぎっては震えてしまうが、その度にシトリンが優しく撫でてくれる。
思えば、今までは何もかも本来のストーリーとは異なっていた。
医務室で手厚い保護を受ける頃には、ダイヤは上手く笑えるようになっていた。
ありがとうございます、神様――――!
もう、間違えない。
そう思いながら、震えながらシトリンの手を取った。
「ありがとうございます、王子殿下」
緊張してしまって動けなかったんです、でも、もう大丈夫ですと
告げれば、強がらないんでいいんだよとストーリー通りにシトリンが微笑んてくれた。
ああ、わたしの物語が戻ってきたんだ――――――。




