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10 私は、パーティに行きました(後編)

10 私は、パーティに行きました(前編)の続きです。

 広い王宮の庭園を、ロマンが待つ場所へと急いで足を運ばせる。


 早く行って鬼を交代しなくてはと、咲き乱れる花の間をかいくぐりながら進む私は……これでも走ってるつもりなんだよ!


 そうして目的地に向かう最中(さなか)

 今回まみえたのがアベルでなくラウレンツだったことから、一応ラウレンツルートのストーリーを思い出してみたりした。



 ――ゲームが始まる当初。

 私はデフォルトでアベルの第一婚約者候補だけど、序盤に用意されたラウレンツと主人公のヒロインが対面するパーティイベントを期に、ラウレンツの婚約者候補へ変わる。

 彼がティアナとのダンス中に申し出るのだ。


 理由はプリンセスになりたいだけのやっかいな悪役令嬢を兄に変わって引き受けようとするため。

 それだけなのに(ティアナ)は、『あらやだ。ラウレンツは私のことが好きなのね!』と、その時点から順調に思い上がる。


 ……勿論、即答で乗り換えるんだよ。このティアナは!


 ラウレンツの美しい見た目と綺麗な笑顔にあっさりさっぱり心を変え、第二王子でも、自分がプリンセスになれるのは同じと判断して。


 すべての思考が残念すぎる……。こんな自分に溜め息が出た。



 それはそうと、ゲームのラウレンツはそのあと結局、パーティで出会ったヒロインと心を通わせていく。

 以降ティアナはお決まりのごとくヒロインを散々いじめ倒し、当然、婚約者発表時に選ばれることなく待っているのは自業の断罪。

 皆様には素敵な憧れの王子様でも、私にとってはデッドなエンドを下さる恐怖の攻略キャラ以外の何物でもない。


 今考えるとラウレンツもひどい気がするよ。

 設定とはいえ、思わせ振りに自分から誘いをかけて選ばないとか……嫌な男だと思います!



 当然、私に問題がありすぎなのはわかってる。けど承知で第一婚約者候補にしておいて、ヒロインも結界生成できる魔力があるとわかれば迷いなく切り捨てる非情さは――さすが利害優先の冷徹王子。


 うん。何となくこのルートは避けようと思った。



 ゲームが始まるのはまだ先だから、同じ王宮で開かれるパーティでも今日は関係ないはずだ。

 何よりダンスをしなければ、現況これ以上王子に関わることはない。

 ひとまず安心するも、やはりエンドまでの自由は確実に守りたいのが心情で。脅かす要因を作らないためには、少しの接触もなくすことが一番だと思い至る。


 なので、『ラウレンツがいる室内での滞在は出来るだけ避ける』を、私は今日の課題に決めた。



***



 それから今度は隠れるロマンを私が探して遊び続けるも、繰り返すうちに走り回ったせいか少しお腹が減ってきた。



 ――そうだ。今日は王宮の美味しい料理を食べて帰らねば!


 思い立つ私は、少し休憩しようとロマンに言いながら大広間を覗く。見渡すかぎりラウレンツがいないことを確認して室内に入り、二人で軽食が用意された別室に向かうと――……敵はその扉の前に立っていた。


 私は口端がひきつるのを感じたが、もう挨拶はしたからと気づかない振りで通りすぎる。


 ……はずが、なぜか呼び止められてしまった。



「お待ちください。大切な話があるのですが、少し時間をいただけませんか?」


 伺う言葉とは裏腹に、有無を言わせずバルコニーへと促される。

 ――ああ、やっぱり攻略キャラに会うと何もないままには終われないんだね。

 覚悟はしてるし気にしないけど。



 私は、悪役令嬢はどうしてもエンドフラグが立つ仕様みたいだ、と思った。



***



「――こんな場所で何のお話ですの?」


 人波から少し離れたそこへ二人きりになるよう連れていかれた。



 足を止めたラウレンツは、声をかけた私にようやく向き直り発する。


「ティアナ嬢。ご存知の通り、あなたは今、第一王子である私の兄、アベル・カイザーリングの第一婚約者候補でいらっしゃいます」



「……そう、みたいですね」

 いきなり振られた話題だったけど、案の定その事かと思った。それと同時に、あわよくば断れないかなーと考えたりもする。

「ですが、現在の兄は公務に忙しく、婚約者を決めることにさく時間などはない状況です」

 よし来た! 全然問題ないよ!

 本人に言わなくても、このまま断れそうな流れに心が弾む。


「致し方ないことです。それよりご公務のほうが大切ですもの」

 私は緩みそうになる顔を抑えつつ、ことさら殊勝に言葉を選んだ。

 さあ、今すぐ断るぞ!


「そこで。突然ではありますが、あなたには兄ではなく、私の婚約者候補になっていただきたいと考えております」



 せっかく開こうとした口のままで固まってしまった。――……いま、何とおっしゃいました?


「後日、改めてレハール家へ正式に通達を出す予定です。よろしいですね?」

 綺麗に笑ってそう言った。伺ってるけど断言されてる。

 ……いやいやいや、なんでそうなる!

 よろしくないから!



「――お断り致します」

 何でか思ってない方向に話が進み、白紙に出来ると信じた流れをさらわれかけたけど。

 せっかくの機会を(のが)すものかときっぱり断らせていただきました!

 ……瞬間、「ちっ」と言う音がした。


 あれ? 何か聞こえたよ。いまこの人舌打ちしたよね?


『第二王子ラウレンツ・カイザーリング』――。

 利害優先で行動する無駄のない頭の切れる王子様。そう小説には書かれていたけど――……要するに腹黒。さすが腹黒! 絶対舌打ちした!



 思っていると笑顔から一変。ラウレンツは目の前で眉を下げた悲し気な顔を作った。


「やはりあなたは第二王子の私では足りないと、第一王子である兄を望むのですか?」

 そこらの令嬢なら思わずきゅんとしてほだされるんだろうけど、その表情さえも腹黒く見える私は迷いなく答えることが出来る。

「いえ、それもお断りしますわ」


 私の返事に、何か駄々をこねてるとでも思ったのか苦笑するように見えた。

 再び向けてきた笑顔からは、その意図を掴もうとする様が伺える。



「兄から直接の言葉ではなく私から申し出たことで不快にさせたかも知れません。本日、第一王子がこの場に出向かなかったこともあわせてお詫び致します。そして私は第二王子ですが王族に変わりはなく、いずれあなたをプリンセスとして迎える折りには最善を尽くす所存です」


 最大級の譲歩の姿勢を見せてくれたけど、そのすべてに私がどれだけ阿呆な令嬢だったのかと思う。


 プリンセスの地位や王族に憧れるだけの子だったんだろうなあ、と改めてがっかりした。


「そのような事を望んではおりません。王子様の婚約者候補となれば、これから王族としての教養やマナーなど、今以上に学ぶ必要に迫られると存じます。現在の日々の勉学さえ持て余す私は、元よりプリンセスの器ではないのですわ」


 そうなんだよ。今の私は忙しい。

 やりたいことがいっぱいあるんだもん! エンドまでを満喫しようとする私に余計な時間はないの。


 だから婚約者以前の候補からも外していただきたい。


「それに、ご心配なく。王族に入らなくとも結界をはり続けます。人々がいるおかげで私の生活は成り立ち、この国があるから私はここで生きていられる。だから誰かのためでも、あなた方王族のためでもなく、私自身のために結界をはる義務に手を抜くことはないですわ。どうぞご安心くださいませ」



 ――結界。婚約者候補話の根底にあるのは国にはられた結界のことで、ラウレンツが危惧する一番はそれだろうとわかっていたけど。

 一瞬言葉を止める様子に確信となる。


 やっぱり結界は国民を守る王族にとって不可欠で、優先順位が高いものなんだね。


 ティアナが王子の、しかも本来は婚約者間違いなしの第一候補に選ばれるのは、結界に適した魔力を持つからなんだなーと改めて思った。

 まあ、それがなければ私の場合、例え宰相の令嬢であろうが望んでも候補にさえなり難いと思う。

 王族となるには支障がありすぎて、まったくもって不似合いときっぱり言えるから。



 人格者の父に代わって任される予定の人物が私とくれば、策を講じるのは頷けた。

 機嫌を損ねて許否するだけならまだしも、その必要性を理解したら、扱いに困るような面倒を起こすのが悪役令嬢な気がする。


 だから、余計なわずらわしさを生み出さないためには、手元に置いて懐柔するのが吉。という判断のもとで。

 気質を知った上でひねり出されたのが王子との結婚に繋がる婚約者候補にすることだったかと思う。


 王族になり国を守らせる……というよりは。

 念願のプリンセスにすることで充足させるか、王子に惚れさせておとなしくさせるつもり。

 ついでに結界も従順にはらせておくことが出来たら万々歳! ……こんな感じかなあ?



 利害優先のラウレンツなら、アンテウォルタを守るべく私に迎合するようにみせることも、アベルより尚更よしと考えそうだ。


 でもすごいよね。国とみんなの事だけ考えて、自ら私を婚約者候補にしようとするなんて。

 好きでもないのに利害勘定で成り立たせる姿に、王子様ってのは大変だなと思った。


 だけどいずれは、代わりになる真のプリンセスが現れるから気にしなくていいんだよ! ということは言えないから。

 とりあえず、プリンセスにならなくても結界をはるから大丈夫! っていう思いを伝えた。

 今の私はそんなことで左右されないからね。



 ともかく、それを話せば王子の心配事もなくなったに違いないと考えた私は、もうそっとしておいてねと願いつつ去ろうとした……。


 次の瞬間、――ぐんっ! と腕を引かれる。


「!?」

 何が起こったかと考える隙も、振り返る暇もなく、目の前にはラウレンツの顔があった。

「……っティアナ嬢、明日のご予定は?」



 一転して、詰め寄るように言葉を投げかけられた。いや、実際に近寄りまくられてる。


 いきなり腕を掴まれ、その場を過ぎることは叶わず。どころか間近まで迫るラウレンツの勢いに押されて、咄嗟にたじろぐ。



「え……あ、えっと。別に予定は、ない……けど」

「では、待っていてください。必ずお伺いします」

 ついため口になってしまった。そして重ねて伝えられた来訪の予告にも思わず頷いてしまう。


「それと、これからは王子様ではなくラウレンツとお呼びください。私もあなたのことはティアナと呼びます。いいですね?」

「う、うん」



 決定事項で紡がれる発言にも、また頷くことしか出来なかった――。



***



 そうしてやっと離された手に、私は急いで広間へと向かって逃げ出した。



 平穏無事に終わらせようとおとなしく庭でかくれんぼしてたのに、何でかやってきたラウレンツ。

 おまけにダンスもしてないのに婚約者候補に勧誘されるとか!

 すべてが、悪役令嬢たる所以(ゆえん)とでもいうようなデッドエンドへのルート補整。うん。まったくもって求めてない。


 だけどラウレンツに断ったのはゲームのティアナと違うところ。

 五年の自由は死守できたと信じてる!



 癒しのロマンの元へ辿り着き、ちらと振り返れば。出会ってから一番綺麗なんじゃないかという笑顔を向けてくるラウレンツが目に入る。


 ……恐ろしい……その笑顔が!



 私は、なんのフラグを立ててしまったんだと戦慄しながらも、残り五年はちゃんと生きられることを心から祈るのだった。

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