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デッドエンドな未来は受け入れたので、麗しの王国で『悪役令嬢』満喫します!  作者: 梛(仮)


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10 私は、パーティに行きました(前編)

 王宮の一室。まばゆい日射しを映す窓が、周りを柔らかく照らしている。


 窓辺に面して座る王子が、書類作成に落としていた目をふとあげれば、後背から光をあびて輝く長い髪が銀糸(ぎんし)のように流れた。


 高くまとめ上げられる毛筋は、彼の耳元をはらりと撫でて静かに落ちつく。

 それと同時、執務机の前で直立した燕尾服を装う目元の優しい側近に向けて話し出す。



「そう言えば。最近、ベッシュ伯爵が自邸の庭に咲き始めた花々を、いたく自慢していたと耳にしましたが」

「はい。ラウレンツ王子のおっしゃるとおり、皆にも是非見せたいとそれは得意げに話しておられました」

「では花の調達は彼に依頼してください。それから料理の材料は一部、ノイナー卿に手配を任せます。詳しくは書類に記載の通りです」

「承知致しました」


 アンテウォルタの第二王子ラウレンツ・カイザーリングは、週末に王宮で開くパーティの準備を、執事エトガーに指示していた。



 彼が官僚に任せるでなく自ら取り組むのは、この国の貴族社会にある利害を掌握するためだ。


 花の依頼も優しさからではなく、開花を喜ぶベッシュ伯爵の自己顕示欲を満たすことが目的であり。多少でもノイナー卿にわざわざ食材の確保を任せる理由も、彼が最近、物流業に着手した情報を掴んでいたから。

 決して心遣いではなく、恩を与えておくに値する両者の持てる権力を理解してこその行為だった。


 ラウレンツは賢く、時に冷たいほど平静に、利害優先で物事を進める。だが浮かべる表情は、常に崩れることない綺麗な笑顔。

 そのため、誰も彼の本心までをも知るすべはない。ごく少数の官僚とラウレンツ専属の執事であるエトガーを除いては。



 そうして進むパーティの用意は順調だった。

 招待状はすでに送達済みであり、最終の細かな用件も唯今エトガーへと伝えられた。


「――これであらかたは終えたでしょう」

 エトガーが用命をこなすべく退出したあと、ラウレンツは残された執務室で確かめるように言い、机に置く招待客のリストを手にする。


 それから、招待者に漏れがないかと確認を始めた彼は、ある人物の名前に目を止めた。



 ――『ティアナ・レハール』。



 この国の宰相を勤め、現在、結界を単独で担うレハール卿の一人娘。また、ラウレンツの兄アベルの第一婚約者候補でもある令嬢。

 その姿は、王宮で何度か目にしていた。



「……はっきりした目鼻立ちですが、特段に美しいとは思いませんでしたね。何よりあの大きな琥珀(こはく)の目が、気の強さを表すように幾分きつかったものですから」


 印象をひとりごちるラウレンツは、ティアナの少しきつめの猫目を頭に浮かべているようだった。


「綺麗にカールするたっぷりとした金髪が自慢といったところでしょうか? たたずまいは貴族らしく、良く言えば高貴。むしろ傲慢と思える振舞いは、高飛車そのものです。とてもレハール宰相の令嬢とは信じがたい我が儘な方でした……」

 彼は顎に手をあてて、自身の記憶を確かめるように呟くと、何かを考える様子で口を閉じた。


 そうしてティアナのことを、おそらくはお姫様扱いで育てられたどこにでもいるつまらない令嬢と推察したのだろう。



「アベルには到底、――……相応(ふさわ)しくありません」


 少し眉をしかめてそう言った。



 彼の兄であり、いずれこの国の王となる第一王子アベルといえば。

 すでに国の重責を背負うことも使命と受け入れ、常に賢く強くなるための向上をかかさない人物。


 ラウレンツはそんな兄を尊敬し、弟として支えられる存在になろうと努めていた。

 だからこそ、アベルが一度も愚痴をこぼさず、ささやかな願いさえ口にしなくても、その内心を誰より理解しているつもりでいたのだ。


「ティアナ嬢か……」

 ラウレンツは先ほど思いを巡らせていただろう人物の名を口にした。



 何より兄の負担を少しでも軽くしたいと思うだろう彼は、今回のパーティで自身がやるべきことを、改めて強く決意したようだった。



***



 パーティが開かれる王宮の大広間。

 ミモザやフリージア、ラナンキュラスの花々が飾られる室内は、暖かな春を閉じ込めたみたいに優しく感じる。


 その中でダンスを舞う令嬢たちを眺めれば、色とりどりの華やかなドレスが、まるでお花畑にいるような気持ちにさせた。



 仲良くなったロマンとの毎日が楽しくて、あっという間に時間が過ぎた今は週末。ダンスパーティ当日です。

 いやあ、すっかり忘れてたよ!

 興味なさすぎて。


 面倒という思いしかなかったのだけど、父に新しく用意された若草色のドレスがロマンとお揃い仕様なことにテンションが上がり。

 その服で一緒に出掛けるのが嬉しくなって、気づけばパーティに参加している現在。

 さすが我が父、よく心得ていらっしゃる。



 まあ、エンドフラグが立とうが気にしないし。

 王宮で美味しいものが食べられるかなあ、と思いながら場内を歩く。


 出会う人との挨拶などは存外にそつなくこなせてる。ティアナもこういうマナーや知識だけはしっかり身につけていたらしい。ほんとわかりやすく片寄ってるよね。

 それより私は先ほどから、ロマンが優雅に身をこなす仕草すべてにときめきを隠せません。

 立派な小さい紳士姿にお姉ちゃんはにまにまが止まらないよ!

 もう、なんて可愛いのっ!


 そうやって萌えを満喫していると、不意に令嬢たちの色めく空気を感じた。



 何の気なしに目をやれば、その一点に一際輝くオーラを放つ人物が見える。遠目でも目を惹くその人物が、王子様だということはすぐにわかった。

 挨拶に行くべきだろうか? とも思ったが、私はすぐに目の前の愛でたい存在へと視線を戻す。


 ――『触らぬ神にタタリなし』その言葉が頭に浮かんだから。


 運動神経が引きちぎれている私は、このパーティでダンスをするつもりはない。なので王子と絡むこともない。

 わざわざ自分から危険に近づく必要もないだろうと考えた。


 とりあえず参加するという責務は果たせたし、あとは何事もなく過ごすことに従事して、今日のパーティイベントはさらっと終わらせよう、ということにした。



***



 そうしてダンスパーティにも飽きてきた頃、私はロマンにこっそり抜け出して二人でかくれんぼをしようと提案する。



 じゃんけんで最初の鬼になったのはロマン。

 はじめてかくれんぼをする王宮内で、なかなかいい隠れ場所を探せなかった私は、ふと思いつき庭園の木に登った。


 ここなら木の葉に紛れて隠れる上に、ロマンの動向も観察可能だ。

 我ながらいいところを見つけたと一人にやけていた。


「――ティアナ嬢」

 思いがけず声を掛けられ、呼ばれた木の下に目線を落とせば。

 いつの間にかきらめくオーラと舞うエフェクトに身を包んだ王子様がそこに立っている。

「げ」

 人間嫌なものに出会うと本当に「げ」とか言うんだと初めて知った。



 真っ直ぐに伸びる青みをおびた銀髪を耳の上あたりで一つに束ねる。いわゆるポニーテール姿の王子を、イケメンじゃないと出来ない髪型だよねーなんて漠然と眺めた。

 目が隠れるほどに長めの前髪をさらりとなびかせて、現れた目はガーネットのように透き通る美しい赤だった。


 幸いなことに私が思わず洩らした声は聞こえていなかったようで、澄んだ目をすっと細めて、それは綺麗な笑顔を作り出す。


「ご挨拶が遅れてしまいすみません。はじめまして、ラウレンツ・カイザーリングと申します」

 きらきらと麗しく微笑みながら『ラウレンツ』と名乗る人物はアンテウォルタの第二王子だ。

 ――ああ、アベルじゃなかったんだね。

 ティアナが会うのは初めてだし、私も小説の中でしか知らないからすぐに判断は出来なかった。



「いいえ。私からご挨拶に伺うべきでしたのに申し訳ないことでございます。はじめまして。レハール宰相の長女、ティアナ・レハールです」

 私は隠れてる最中なので、仕方なくその場から挨拶を返した。

 失礼なんだろうなと思うけど、賢い王子はその笑顔を崩さなかった。さすがだね。


「丁寧なご挨拶ありがとうございます。あなたのことはよく見知っていました。先日、寝込まれたことも聞き及んでいましたが、見舞いにも行けず申し訳なく思っています。その後、お加減はいかがですか?」

「優しいお心遣いありがとうございます。ご心配には及びませんわ。こうして木に登れるほどに回復しております。本日は素敵なパーティにお招きいただき大変感謝いたします」


 本当はさほど心配もしていないだろう社交的な言葉に、こちらも形式的な返事で応える。

 うん、こういうのは前世で慣れてるから容易に対応できる……けど。


 それよりそろそろどこかに行って欲しい。喋ってたらせっかく隠れてる意味がないんだもん!



「……ところでそんな場所で何をしているのですか?」

「かくれんぼです。私はこうしてとても楽んでおりますので、王子様もどうぞ気遣われることなくお楽しみになってくださいませ」

 早くここから離れてほしくて話を切り上げるように言った、のに!


「姉様、見つけた!」

「ああっ!」

 そう言ってロマンが駆け抜けた。くそう! 見つかったじゃないかー!

 私は王子を恨めしく思いながら木から降りる。

 まあ、この人にすぐ見つけられてる辺り、最適な場所じゃなかったんだと自分を納得させた。

「では、弟が待っているので失礼致します」

 ようやく目線に立った王子にそれだけ言い、ドレスの(すそ)を持ち上げ軽く会釈をして横切ろうとした。



「あなたは……本当に無邪気でいいですね。実に楽しそうに見えます」



 素直に受け取ればいいのだけど……。前世の性格が顔を出し、何となく含みを感じてしまった。


『――何も考えていなくていいですね』

 そう言われた気がして王子に目をやれば、その変わらない笑顔が、さっきまでとは違ってどこか冷たく見える。

 なんだろう。王子は悩みでもあるのかな?



「そうでしょう? わからないことは考えるだけムダですもの。もう、毎日がとっても楽しいわ!」

 色々あるだろうけど、何事も考えすぎない方が楽だよ。

 今の私は痛感するから。



 あなたもほどほどにして楽しんでね! っていう気持ちをのせて言葉を返し、私はその場を後にした。

10 私は、パーティに行きました(後編)に続きます。

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