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デッドエンドな未来は受け入れたので、麗しの王国で『悪役令嬢』満喫します!  作者: 梛(仮)


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12/55

11 私は、墓穴を掘りました

 暖かな風の流れに、雲ひとつない青空を桜の花びらが白く光りながら舞っている。


 うん。綺麗だねー。

 いい天気だよねー……本当に!


 パーティに参加するという任務を遂げた昨日。

 ついでに新たな攻略キャラとの出会いも果たしてしまった……。



 あれから、ラウレンツの笑顔を思い出すとせっかくの王宮料理にも手をつけられなくて。ほんと、勿体ないことした。

 そうして迎えた今日、かの王子は本当に来るんだろうか――?

 ……何のために?


 晴れ渡る空と反するようにげんなりとソファへ埋もれた私は、言動が気に触ったのかと考えた。


 何気に、「プリンセスにしてもらわなくても結界はるに決まってるよ。そこまで阿呆じゃないもんね、ふん!」という思いが伝わったのかも知れない。賢い王子様だから。

 でも小説にも訪問の話はなかったのに。

 ああ、もうどうしよう! 自分のせいだけど!



「――お嬢様。晴れて良かったですね」

 悶々としていれば、テラスにティーセットの用意をするヒルダが嬉しそうに言う。

「嵐がきたらいいのに……」

 そうすればさすがに来訪しないだろうから。

「何をおっしゃっているんです。さあ、お嬢様も早く仕度を致しましょう。ラウレンツ王子が間もなく到着なさいますよ」

 やっぱり来るんだー! と逃げる私の道を素早くふさぎ、即座に着替えさせられた。


 出迎えたくない気持ちとは裏腹に、いつでもウェルカム状態へと飾り立てまくったヒルダの張りきりようで、王子が来るのだと実感する。

 仕方ない。覚悟を決めよう。

 かくして私は、何とか五年の自由は死守することを強く心に誓った。

 ――……すぐさま敵は現れた。



 うん。頑張ろう。今こそ前世の世渡り術をいかんなく発揮する時だよ!


 そうやって自分を鼓舞して、いざ出陣とさっそく玄関へ向かうと、ホールではラウレンツとその従者たちが待ち構えていた。

 私は「ようこそ」と歓迎の言葉を発して階段を降りる、のだが――。


 多少の気負いがあったかも知れない。そしていつも以上に着飾る私は普段よりヒールの高い靴を履くせいか、慣れ親しんだはずの段を踏み外した。

「あ……っ!」

 まだ数段以上が残っていたため、落ちる感覚に思わず目をつむる。

 だけど……いつまでも、くるはずの痛みがこないことにそっと目を開いた。



「王子!」

 従者の声と、目の前の光景に驚いた。

 なんとラウレンツが私の下敷きになってるじゃないか!

 うっ……と眉をしかめる様子に動揺しながらも、何とか気持ちを立て直した。


「ごめんなさい! ラウレンツ、怪我は?!」

「……私は大丈夫。ティアナを受け止められて良かったです」

 見せる笑顔に幾分ほっとしたが、まだ安心は出来ない。だってこんな重量を受け止めたのだから。

 私はラウレンツの全身をくまなく探った。


「痛いところはない?! あ、ひじを打ってる!」

「これくらい平気です」

「何言ってるの! ヒルダ、すぐに冷たく濡らしたタオルを持ってきて! テオ、すぐに医師を!」

 非常事態にラウレンツの従者たちはただうろたえ、私の(やしき)の者も固まっているのを手早く指図した。


 相変わらずの偉そうな態度に引かれると思うが、今は気にしてる暇はない。



「本当に大丈夫ですよ?」

「いいから! 背中は打ってない? はっ! 頭は?!」

「打ってません」

「他に痛いとこは?!」

 言いながら必死に探す私の肩を、ラウレンツがぐっと掴んで目を合わせた。

「ティアナ。ありがとうございます。私は大丈夫ですから、ね?」

「本当に?!」

「本当に、本当です」

「……良かった……っ!」

 ラウレンツの嘘じゃない言葉にようやく安堵した。


 すると彼はゆっくりと床に視線を落とす。気づいた私も目をやれば――そこには花びらをまき散らした花束と、落ちている化粧箱が見えた。


 この花は、確か先ほど階段の上から見たラウレンツが手にしていたものだった。

 箱も従者が持っていたものだ。きっと驚いて落としてしまったのだろう。


「すみません。プレゼントの花と菓子は台無しにしてしまったようです」

「そんなもの、どうでもいいよ!」

 こんな時に、自分じゃなくて手土産の心配をするラウレンツへ思わず放った。

「……そんなもの……?」

「そうだよ! 今はそんな場合じゃないでしょ! 可哀想なことはしたけど……でもまだ残ってる花もあるし、散らばった花びらは拾えばお風呂に浮かべたりポプリに出来るよ。お菓子だって、形は変わっても込められた美味しさは変わらないもんっ」


 今考えたら、前世の私は周りに合わせるようで、結局すべて自分のためだったなと改めて思う。だけど、この王子様は本当に周りばかりを優先して考えるんだ。

 ラウレンツが黙って聞いてくれてるのを良いことに、少しは自分を大切にしてという気持ちを湧かせてまくしたてた。


「それよりも今、大事なのはラウレンツ! 本当にもう……大きな怪我をしなくて良かったあ」

 そう話しながら見る限りの無事な様子に、最後はほっとして笑顔をこぼした。



 本当に良かったと胸を撫で下ろしたあと、続いて「ごめんなさい。そしてありがとう」を紡ぐと同時に抱き締められて、ふと気づく。


 ……あ。私、ラウレンツの上に乗っかったままだった。


「ごめん。すぐに降りるね、ラウレンツ」

 謝って名を呼ぶと、腕を解いた彼がまた目を合わせ、そっと私の手をとった。そして向かい合う姿勢のままでふわりと微笑む。

 近接で見るその綺麗な笑顔に、私は思わず息をのんだ。

「ティアナが私の腕の中に飛び込んで来てくれて良かったです」


 そうして指へ触れるように口付ける仕草も綺麗で目を奪われた。次いで、視線を上げるラウレンツに見つめられたかと思うと――。



「このような格好ですみません。ですが今すぐ言います。――ティアナ・レハール、正式に私の婚約者となってください。よろしいですね?」


「あ、はい」


 流れるような一続ひとつづきの動作へと組み込まれるように私も返事した。

 ……ん? いま何て言われたっけ?


 ふと見上げれば、駆けつけたヒルダがタオルを握りしめ、テオと医師はなぜか手を握りあっている。

 ラウレンツの従者に至っては、優しい目をなぜか潤ませていた。



「っ姉様! 本当に良いのですか!?」

 呼びかけられて顔だけを横に振り向かせると、駆け寄るロマンが焦る様子で立っている。

「え? どうしたの? ロマ」

「だって今……」

「おめでとうございます! ラウレンツ王子!」

 叫ぶ従者は本格的に涙を流し始めた。

 大丈夫かな? この人も医師に見てもらおう。

「――姉様が、ラウレンツ王子と婚約すると言ったから……」


 …………いま、なんと?



「はいいいいいい――――?!」

 ばっと向き直ると、満面の笑みを貼りつけるラウレンツがいた。


 これは、これは……腹黒笑顔!


 一体何を考えているんだ?!

 私は顔面から吹き出す汗と震える体を必死で抑える。

 おずおずとラウレンツの上から退こうとする私の両肩はがっしり掴まれ阻止された。


「あの、ラウレンツ、様? 今のはちゃんと聞いてなかっ……」

「仮にも宰相のご令嬢が相手の話にきちんと耳を傾けていないことなど、あるはずがないですよね?」

 にっこり頬笑む、綺麗な笑顔のままで遮られる。

「あ、じゃあ、なかったこと……」

「宰相殿の賢いご令嬢が約束をたがえることも、するはずはないですよね?」

 崩さないその笑顔に、どんどん恐怖が芽生えていった。

「うん、その、たがえるんじゃなくて無効に……」

「しません」


「あ……」

 


 自分はヒロインとくっついて白紙に戻すくせにーっ!



***



 そうして私は、医師に連れて行かれるラウレンツの背中を呆然と見送った。


 どうしてこうなる……。パーティで一度断ったし、何より結界という心配事もなくしたはずだ。

 アベルの候補じゃなくなってもラウレンツの候補になったら意味がない! そう思いながらゲームの婚約者について考えた。



 ――アンテウォルタの王子は幼少より数人の婚約者候補がおかれ、十五歳を迎えた誕生パーティの場で、正式に婚約者を発表する。それは次期プリンセスが決定する日にもなるため、盛大な式典が開かれるしきたりだった。


 通常、候補の中から選ばれる婚約者は、これまでほぼ第一候補が指名されている。

 だからティアナも自分がなるものと信じてはいたけど、嫉妬深い性格から、気に食わないヒロインにあらゆる嫌がらせをしていく。

 そして、いざ発表でヒロインが選ばれた時にぶちギレるんだ。


 ――『この国のプリンセスになるのは私よ!』って。


 そんなプリンセスの座だけに固執した思考を口にしてパーティを壊そうとするから、今までの悪事を暴露されてデッドエンドをいただくのが一連の流れ。



 大体の内容をなぞり、おとなしくしてれば最悪な事態は免れたかもと思ったけど、悪役令嬢だから無理かと諦める。


 それでも、ティアナという障害があったおかげで二人の気持ちは高まったと思う。

 ちゃんと盛り上げたのだから、もう少しマシな扱いしてくれてもいいよね。役割を全うしたティアナの功績も加味して欲しい。


 でも、とりあえずそれはいいとしよう。

 悪役令嬢たる所以(ゆえん)と受け入れてるし、元々フラグを折る気も回避するつもりもなかった。

 とにかく私は今を楽しみたい! そして満喫する予定でいるデッドエンドまでの大事な五年を、王子と過ごす時間にあてる気はない!

 候補どころか婚約者なんかになってる場合じゃなかった。


 きっと今ならまだ間に合う。何とかしてさっきの言葉を撤回させなければ!


 私はすぐさま頭を巡らせた。



 ……そうだ。利害以前に、とても婚約者にはしたくないほど嫌われたらいいんじゃない?


 それなら簡単、と悪戯心が湧いてくる。

 ふっふっふ。見てなさい。腹黒王子のいいようにされてなるものか!


 そうと決めれば、私はすぐに(かたわ)らのロマンへ協力を仰ぐべく小さく耳打ちした。



***



 それからしばらくすると、医師の診察を終えたラウレンツが現れる。

 ティーセットの用意されたテラスで待ちうける私は、満面の笑みでことさら優しく出迎えた。



「大丈夫でしたか?」

「はい。何も問題ありません。お待たせしてすみませんでした」

 相変わらずの笑顔で答える彼に、私もよそゆきのお嬢様仕様で対応する。

「いいえ。元はと言えば私のせいですもの。ティータイムの前に、ご一緒に庭を歩きませんか? 今日はとてもいいお天気なので心も晴れると思いますわ」

「そうですね。是非案内してください」


 ふふっ。問題は今から起こるんだよ。

 並んで歩き始めたラウレンツの横で、私はこぼれそうになる笑みを必死にこらえていた。



「桜の時期が過ぎようとしていますが、花びらが舞い散る姿も素敵ですの。地面も一面ピンクの絨毯のようでとても麗しいですわ」

「それは楽しみです」

 向けられる綺麗な笑顔に、散るのはその笑顔だからね! と(はや)る気持ちを抑えながら、目的の場所へと前進する。


「――着きましたわ」



 眼前に広がったのは見惚れるほどに優しい白。

 日差しを柔らかく包み込む、桜の花びらがしきつめられた淡く色づく世界が続いた。


「本当に美しいですね」

「ええ。是非とも王子様に相応しい、その花びらの絨毯へ足をのせてくださいませ」

 その踏み出す一歩が私の満喫人生へと繋がるの! ほくそ笑む私の意図にラウレンツは気づいていなかった。


 彼が「では、そうさせていただきます」と歩みを進める――……その一瞬で。

 立ち上がった花びらが、辺りを染めるように美しく舞う。


 ――同時にラウレンツの姿は消えた。



「やったあーっ!」


 隠れていたロマンと手を叩きあってはしゃいだ。

 私たち二人で作った落とし穴に、ラウレンツが見事はまった瞬間だった。

「どう!? 綺麗な花吹雪だったでしょ!」

 こんなことをする令嬢はいないに違いない。ましてや王子様は落とし穴に落ちたことなどないに決まってる!


 悪戯が成功した私は、これで候補から外れると思うと笑いが止まらなかった。

 そして涙が出るほどひとしきり笑い終えたあと、意気揚々と穴を覗き込みながら声をかける。


「これでもう、婚約の話なんて――……」

「………………」

 言いかけて口をつぐんだ。

 何も発することなく俯いたラウレンツの体が微妙に震えている気がする。


 ……あれ? 泣いてる? もしかして、やり過ぎた!?


 そこではたと思い出す。私は行動のすべてで攻略キャラたちを傷つけてしまう悪役令嬢なんだった。



 急に焦りを覚えた私は、すぐに助け出そうと差し出す手でラウレンツの腕へと触れた――。途端に自分の右腕が掴まれて、ぐいっ! と体を引かれてしまう。

「わっ!」

 仕返しで穴に引きずり込まれるのか! と自由になる手を地面について踏ん張れば。

 ラウレンツのもう片方の手が、(のが)さないというように私の首裏を捉えた。


「――ティアナ」

 優しく呼ばれて正面に目を向けると……。


 首に手をかけられた私の視界いっぱいに、顔を上げたラウレンツの綺麗な笑顔だけが映る。

 互いの鼻がつきそうな距離に寄せられたままで、私は思わず固まった。

 頭に、――ヤバい――という文字だけが浮かぶ。


「無効には、しませんからね?」

 すかさず目前のラウレンツに、それはそれは綺麗な満面の笑みで宣言されました。


「な……っ!」



 あ、しまった。私は王子様に嫌われてデッドエンドを迎えるんだった。


 今更思い出した自分の阿呆さに目の前が真っ暗になった気がした。



***



 そして私はヒルダにこっぴどく怒られて、その間にラウレンツは従者が用意した替えの服に着替えた。代わりの服まで用意されてるとか、さすが王子だね!


 その後、ラウレンツはまったく何事もなかったように、私とロマンとの少し遅くなってしまったティータイムを楽しんだ……そう、楽しんだ……。


 ええ、とっても楽しそうですね! 王子様は!


 この腹黒王子の思惑がわからないっ。くそう。私のほうが年上(精神年齢)なはずなのにー!


 そうして私は、第一王子の婚約者候補からは(のが)れたけど、なぜか第二王子の婚約者になってしまったのだった。



「まだ候補だから……候補」

 足掻くように呟いてみる。

「いえ。婚約者、ですよ?」

「(仮)だもん」

「正式に、です」

 思わずロマンに助けを求めて目を向けた。


「姉様は幸せになるべき方ですので、いずれは素敵な男性を見つけていただきたいと思っていましたが」

「私では役不足ですか?」

「まだわかりません。ですが……姉様がこの(やしき)を離れることは僕の想定にはありませんでしたから」

 そう言ってティーカップへ口をつけるロマンに私の目はきらめく。


 それは暗にプリンセスになることを否定してるよね? だって王宮に行くことになるもんね!


「そういうことですか。ならば何か良い策がないか一考しますので、いずれその問題も解決させます」

 希望の光を打ち消す言葉を放つラウレンツに恨みを覚える。

 その気持ちのままにじとっと見つめた。


「どうかしましたか? ティアナ」

 もはや、意地悪されてるとしか思えないその笑顔と見つめ合うが、先に私が観念して目を反らした。


 わかったよ。自業自得だし少々の猶予短縮は受け入れよう、と覚悟する。



 そしてますます、これから自由に生きようと一人決意していくのだった。



***



 そんな色んなことが詰まりすぎた一日に、私の精神的ライフは(ゼロ)です。


 今日という日に疲れきる私は早々にベッドへと潜り込んだ。


 ラウレンツは「正式に」とか言ってたけど、やはり王子が正式に婚約者を決定するのは、あの十五歳の時になるようで。

 私は第一王子から第二王子の第一婚約者候補になることにとどまり、ちょっとだけほっとした。

 でもあの腹黒王子の候補になるくらいなら、熱いハートのツンデレ第一王子の候補でいたほうがマシだったんじゃないかとは思うけど。


 とは言っても過ぎたことは仕方ない。

 まあ、これからしばらくは関係ないだろうし、自分の日常を楽しもうと切り替える。



 そうして私は、都合の悪いことを忘れるように眠りにつくのだった。

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