第33話 孤児院④
魔素
それを説明するにはまず魔粒子の説明をする必要がある。魔粒子とは素粒子の種類の1つであり、魔力を使うのに必要不可欠な物質の最小単位。そして、この粒子は他の素粒子と違って決まった性質を持ち合わせていない。
そのため、魔粒子の化学反応によって発生するエネルギーである魔力を媒体にして起こす現象、すなわち『魔法』が発動するまでにどういう原理で何が起きているのか、不規則かつ複雑すぎて殆ど解明されていないのが現状。
魔素とはこの魔粒子が一定以上ある気体のことを指す。割合にして、空気と魔粒子比が10000:1以上のもの。
この世界の人族や魔物が物理法則を無視した動きを可能としているのは、今説明をした魔粒子が原因。魔力は魔法を放つためのエネルギーだけでなく、無意識化の状態で体を強化することにも使われる。これは動物以外にも当てはまる。
その1つが神力草。神力草は元は普通の薬草であったが魔素空間に長時間晒されたことで、内部魔力の許容量超えにより突然変異を起こし、高い治癒効果を持った。
突然変異。もちろん薬草以外の人族や魔物にも起きうる現象。人族なら冒険者が代表的な例。では魔物の場合は…
現在、木が生い茂っている森林地帯で熊型の魔物と戦闘中。槍を棒術の如く操り、横から胴体に叩きつける。
「ハアッッ!」
叩きつけられた熊型の魔物は数メートル横に吹き飛び、木を一本へし折って動きを止めた。へし折れた木は根元が剥き出しになり、先程の衝撃の威力を物語っている。熊型の魔物に関しては胴体が横に潰れて原形を留めていない。
ここは森林であると同時に魔素地帯。今回はここを目的地として神力草を採取しに来たのだが、やたら強い魔物が多い。今の熊型の魔物もその内の一匹。ランクはCだった。ランクCと言えばそう易々とは遭遇出来ないレベル。それがここでは当然のように湧いてくる。
【経験値を2170獲得しました】
【レベルアップしました】
先の一撃で重要器官のいずれかが損傷したのか、死亡が確認され経験値が入ってきた。いつもならこれで終了。しかし、今回は違う。アナウンスの声が連続して頭の中で響く。
《職業レベルがMAXになりました。》
久しぶりに聞く言葉。前回の転職の時からおよそ2ヶ月くらい。最近はステータスを見る機会が減っていて、確認しそびれていた。
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フェルト 男 年齢:15 種族:ヒューマン
職業:槍術士Lv50/50
Lv52
HP2756/2756
MP692/849
筋力 417 (+83)
耐久 176
敏捷 502 (+100)
魔力 283
パッシブスキル
【根性Lv2】【危険感知Lv4】
【気配感知Lv3】
耐性スキル
【物理耐性Lv4】【魔法耐性Lv3】
【恐怖耐性Lv2】【斬撃耐性Lv1】
【衝撃耐性Lv1】
魔法スキル
【水属性魔法Lv3】
ノーマルスキル
【格闘術Lv3】【剣術Lv1】【槍術Lv5】
【言語理解Lv5】【思考加速Lv5】
【身体操作Lv4】【歩法Lv4】
【限界突破Lv2】【魔闘気Lv3】
【魔力撃Lv4】
ユニークスキル
【鑑定眼Lv‐‐】【アイテムボックスLv‐‐】
称号
【選ばれし者】【ゴブリンキラー】【逆境】
【願い】
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《職業:槍術士のレベルが上限値に達しました。上位職に転職可能ですが、職業変更を行いますか?》
「あぁ頼む。」
ヴァルニア、エレシュガルは神力草採取に集中していないから今のうちにさっさと転職を完了させる。
《変更の意思を確認しました。選択可能な上位職を提示します。》
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【魔槍術士】:槍術士の上位職。魔力を主に操り戦闘を行う。魔力に長けた職であるため魔法や魔術等の技術も成長しやすく、汎用性が高い。
転職ボーナス
能力値:筋力、耐久、敏捷20%アップ。魔力40%アップ。
スキル:槍術、身体操作、歩法、魔闘気、魔力撃、言語理解、思考加速、危険感知、気配感知、魔法耐性のレベルアップ。無属性魔法、状態異常耐性の取得。
称号:【天賦の才】【賢者】の取得。
【聖槍術士】:槍術士の上位職。聖気を主に操り戦闘を行う。聖気を活性化させ戦闘をするため身体能力の伸び代が広く、ステータスの能力値が上昇しやすくなる。
転職ボーナス
能力値:筋力、敏捷40%アップ。耐久、魔力10%アップ。
スキル:槍術、身体操作、歩法、限界突破、魔闘気、魔力撃、物理耐性、衝撃耐性、斬撃耐性、根性、気配感知、危険感知、のレベルアップ。高速治癒、状態異常耐性、超直感の取得。
称号:【天賦の才】【武人】の取得。
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どちらも槍術士の上位互換。予想通りと言えば予想通りなのだがこれは迷う。前の転職時と違って今度はどちらにも迷うだけの長所が存在する。しかし、余り時間を掛けるつもりはない。まずは参考までに称号の効果を知る必要があるな。
「称号について説明を頼めるか?」
これにアナウンスの声は承諾。順に称号の説明を始める。
《【天賦の才】獲得経験値が3倍になります。》
《【賢者】魔法、魔術、超能力の原理理解。全ての事象に対して、解析、演算を高速で行える頭脳を持ちます。》
《【武人】魔力以外の能力値が1割上昇し、レベルが上がる度に能力値の上昇割合が1、2倍になります。》
天賦の才は両方の職に記載されているからともかく、問題は賢者と武人。
賢者を選択した場合、原理を理解することで魔法等の効果を高めることが可能な上に、相手が魔法系統を得手としている際は優位に立ち回れることができる。それだけでなく、高い演算能力を必要とする無属性魔法は賢者と非常に相性が良く、魔槍術士を選択すればこれ等が一度に取得可能。
武人を選択した場合は、ステータスが更に強化されると言ったところか。それと今後のレベリング効率を考えるならば、此方を選択した方が良い。
槍術による近距離戦と魔法の遠距離からの攻撃。加えて高い演算能力を得られる汎用性に優れ、解析により戦闘を優位に持ち運べる魔槍術士。
大器晩成。将来の高ステータスを望める称号。そして、近距離戦に特化したスキルの数々がある聖槍術士。
最初はさっさと決めてしまおうと思っていたがそうも逝かず、随分と時間を要してやっと転職先を決定した。それは…
「転職先は魔槍術士にしてくれ。」
《了解致しました。槍術士から上位職の魔槍術士に転職を開始。転職ボーナスによる能力値のアップ、スキル取得、称号の獲得が行われます。》
次々と能力値アップやスキル取得のアナウンスが聞こえてくる。正直、魔槍術士に決めた理由は様々あったのだが、長くなるので割愛させて貰う。そして、賢者取得のアナウンスを最後に転職完了…とはならずに統合システムが開始される。これは賢者による原理理解の作用でスキルの効率化を行うためのプログラム。
《斬撃耐性と衝撃耐性が物理耐性に統合されます》
【物理耐性がレベルアップしました】
《恐怖耐性が状態異常耐性に統合されます》
【状態異常耐性がレベルアップしました】
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フェルト 男 年齢:15 種族:ヒューマン
職業:魔槍術士Lv1/70
Lv52
HP2756/2756
MP692/1188
筋力 417 (+167)
耐久 176 (+35)
敏捷 502 (+201)
魔力 283 (+113)
パッシブスキル
【根性Lv2】【危険感知Lv5】
【気配感知Lv4】
耐性スキル
【物理耐性Lv5】【魔法耐性Lv4】
【状態異常耐性Lv2】
魔法スキル
【水属性魔法Lv3】【無属性魔法Lv1】
ノーマルスキル
【格闘術Lv3】【剣術Lv1】【槍術Lv6】
【言語理解Lv6】【思考加速Lv6】
【身体操作Lv5】【歩法Lv5】
【限界突破Lv2】【魔闘気Lv4】
【魔力撃Lv5】
ユニークスキル
【鑑定眼Lv‐‐】【アイテムボックスLv‐‐】
称号
【選ばれし者】【ゴブリンキラー】【逆境】
【願い】【天賦の才】【賢者】
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《槍術士から魔槍術士への転職が完了致しました。》
◇◇◇◇◇
アイギスのスラム街にて。
日が沈み始める時間帯。夕日の真っ赤な光に照らされ、薄暗い小屋の中に日差しが差し込む。そこにはガラの悪い6人組。
「そろそろ頃合いの時間か…」
「そうだな…確認のためにもう一度作戦を伝える。」
リーダーだと思われる男が再確認の作戦説明を始める。再確認が終わり、準備を完了させた男たちの前に再びリーダーが立ち口を開く。
「これが成功すれば俺たちは数年暮らしていけるだけの金が入る。決して躊躇ったりするなよ?」
「もう何度も足を残さず成功させてきた。へまはしねえよ。」
そうか…とリーダーが言い終えたあと男たちが二手に別れて小屋を出た。
◇◇◇◇◇
日が沈んでから約1時間後。第1孤児院には数名の子供がまだ帰ってきていなかった。いつもはこんなことはなく日が暮れる前に帰宅しているはず。なのに今日はどう考えても遅い。それも複数人同時にだ。
「遅くまで遊んでいるだけならいいのだけど、これで何か事件に巻き込まれていたら…」
ロイは頭を悩ませていた。最近、子供の拉致事件が多発しており第1孤児院の子供たちがターゲットされ、連れ去りが行われている可能性も考えられる。しかし、ここで探しに行ってすれ違いになったら今度は孤児院自体が危なくなるので、動き出そうにも中々そう簡単にはいかない。
「大丈夫、冷静になれ。みんないつもより遊びに夢中になっているだけだ。」
フェルトから貰い受けた短剣を握り締めて、自分を落ち着かせた。
その頃、スラム街のある空き家では…
「予想以上に簡単に成功したな。」
「このガキどもが暮らしている第1孤児院には一度も手を出していなかったからな、自分たちは大丈夫だと勘違いしてたんだろ。」
ここの空き家にはガラの悪い男が3人と子供が6名。子供たちは全員縛り上げられ、口元を縄で猿轡のようにして声を出せない状態にさせられていた。
「んんっんんんっ!」
一番歳上の子が気を引き、他の子供たちの脱出を図るために暴れていた。
「こいつうるせえなっ!」
1人の男が少年の腹部めがけて蹴りを入れる。蹴りの威力は手を抜いたといえ、そこは大人と子供の差。蹴りを貰った少年は悶絶して暴れる気力すら削り取られてしまった。
「おい、余りやり過ぎるなよ。商品としての価値が下がる。」
「そんなの承知の上だ。ちゃんと手加減はしてある。それより他のガキから目を離して…あんなやついたか?」
子供の中に1人変なのが混じっている方向に指を指す。そこには溜め息をつく白髪の青年。アルフレッド=ローランがいた。
「やっと留置場から出られたのに、次はか弱い天使や子供の留置場ってか。そんなわけないよな。それにしてもお前ら、こんなちゃっちい遊びではしゃいだ所で誰も満足しねえぞ?」
「誰だこいつ?」
男たちが武器に手を掛ける。気配も感じさせずに空き家に侵入した男…ただ者ではないとすぐに理解できた。
「大人しくお縄に着く…雰囲気ではないな。なら面倒だが相手してやるよ。」
「端からこっちはそのつもりだ!」
男たちは話している間に完全な戦闘体勢に入っていた。こうなったら簡単には倒せない。常識的に考えればだが…
「せめてもの弔いだ。お前らを殺った奴のことくらい知りたいだろ?俺は世界序列一桁の第4位。素粒子支配のアルフレッド=ローラン。常識の通用しないこの世界。お前らには早すぎた。」
重力子を増大させることで男たちにかかる重力を数百倍にし、痛みすら感じる暇なく圧死させた。




