第32話 孤児院③
とある道の道中、商人の馬車が盗賊に襲われた。盗賊たちは全員で5人と、大人数ではないのだが商人の馬車の方は護衛を一切雇っていなく、抵抗することすら出来ないでいた。
「てめぇ、これっぽっちしかねえのか?あぁぁっ?」
服の襟元を持ち上げ商人を脅す盗賊。恐怖に耐えきれず商人は恐る恐る口を開く。
「こ、これ以上は何もないです。あったら護衛を雇っています…」
「いちいち口答えすんじゃねえ!俺らが聞きてぇのは金目の在処だ!」
「つーかよ、もう金になりそうなもの本当に無さそうだし行こうぜ。」
5人組の1人が切り上げることを提案し、商人が心の中でやっと解放されると安堵する。
(大事な商品が奪われてしまいましたが、これで娘と私の命が助かるのなら…)
―――――ガサッ
誰もいないはずの馬車から不意に聞こえるもの音。
「おい今、もの音がしなかったか?」
「確かに聞こえた。もう一度馬車の中を探し出せ!」
盗賊たちが一度目より入念に馬車の中を漁くっていく。馬車の端にあるボロボロの布を剥がすと、12歳くらいの少女が震えながらうずくまっていた。
「お前らこっちに来てみろ!」
「女じゃないすか!?」
女という言葉を聞いて他の3人も集まる。
「なんだよ、期待したのにまだガキじゃねえか。」
「まぁそう言うな。それにしてもおっさん、ちゃんと金目になるもんがあったんだが、これはどういうことだ?」
「お願いします!私の命はどうなってもいい、どうか、どうか娘だけは見逃して下さい!」
盗賊たちは商人の必死の願いを手で顔を押さえながら笑い出した。
「なぁ、おっさん。盗賊に奪うことを止めろって頼んだところでやめると思うか?」
「…」
商人の男は絶望しきった顔でしたにうつ向く。それもこれから起こることを考えれば当然。むしろここで冷静になれるほど肝が据わっているのなら、もっと大物になっている。
「このおっさんはともかく娘の方はどうするよ?」
「そりゃ拐って売り飛ばすに決まってるだろ。」
「そうじゃない、売り飛ばす前にここで味見しないかって話だ。」
「おいおい趣味悪ィぜ。こんなガキとヤっても満足出来んだろ?」
「言っとけ、俺はヤれるときにヤっておく主義なんだよっ!」
勘弁してくれよと他の盗賊が大笑いしている中、少女が逃げ出そうとしていた。少女は震える体を必死に動かしながら、四つん這いで移動する。しかし、すぐ近くにいる盗賊が見逃すはずもなく…
「俺らが目の前に居るのに、今更逃げれると思ってんのか?」
「イヤ、来ないで…お願いだから近づかないで…」
「そう言われると余計に襲いたくなるんだよなぁぁっ!」
嫌がる少女を無理矢理押し倒し、両腕を地面に押さえつける。少女も抵抗して拘束を外そうとするが、しかしそこは男と女。力では全く敵わない。
盗賊は下劣な視線で肢体を舐め回すように見てから衣服に手をかける。少女は涙を流し顔を歪ませながら、せめてもの抵抗に足をバタつかせた。だが、これは逆効果。盗賊は抵抗されたことで、更に興奮して服を乱暴に破っていく。
「イヤぁぁぁっ!!」
「おらっ!もっと抵抗してみろよっ!!」
盗賊が拳を振りかぶり少女の顔面を殴ろうとした。
ガンッ――――
という音と共に空中で拳が止まる。本来空気しかないはずの所なのに、まるで壁を殴ったような音。
「痛っっ!?」
「天使の泣き声が聞こえたから駆け付けてみれば、これは一体どういうことだ?」
突然聞こえた声。盗賊たちは声元を探そうと周りを見渡すと、白髪の20代前半くらいの青年が此方に向かい歩いていた。青年は盗賊との距離が一定にまで近づき、歩くのを止め仁王立ちする。
「お前ら、いくらモテないからといえ、こんないたいけな天使に手を出すのはよくねえぞ。それでも漢か?」
「欲しいものは奪う、それが盗賊。それよりてめえ何もんだ?」
盗賊たちが鞘から剣を抜き、戦闘体勢に入りつつ名前を問い質す。その表情には一切の油断がない。
「俺もそれなりに有名になったつもりでいたが、存外そうではないみたいだ。俺の名前はアルフレッド=ローラン。一度くらい聞いたこと…」
青年が話している最中に盗賊たちが奇襲を仕掛けた。盗賊と言えど、少数で組むだけあって動きは並の冒険者クラス。5人での全方向からの攻撃は回避不能。誰もがこの光景を目にしたら死を予感する。普通なら…
「不意打ちはいけないと思うぞ。親に人の話は最後まで聞くようにって教えられなかったか?」
しかし、またしても空中の何かによって遮られ、剣が甲高い金属を鳴り響かせて弾かれる。盗賊は理解不能な現象が再び起き、警戒度を最大限に上げて距離を取った。
「一体何しやがった?」
「いや聞くまでもねえよ、こいつ魔法使いだ。今のは無詠唱とか言うやつで何か発動させたに違いない。」
「なら距離を取らせない近接戦でいけば…」
「殺れる!いくぞ、距離を取らせるな!」
盗賊たちは陣形を立て直し距離を詰めようとした、その時…
肉が抉れる音が耳に届くとほぼ同時に4人の盗賊が地面に倒れ伏す。4人の盗賊の胴体にはでかい風穴が空いており、一瞬にして赤黒い血が地面に広がる。残り1人の盗賊はと言うと、状況がよく呑み込めずに動けないでいた。
「のんのんのん。不正解だ、不正解。まず俺に距離を取らせないようにしたところでお前らに勝ち目はないし、プラス俺は魔法使いではない。超能力者だ。」
「な、何を。何をやりやがった!?」
周りを確認を終え、状況を呑み込み始めた盗賊が精神を少しでも保つために声を絞り出す。
「この世の物質を構成しているものは何だと思う?岩石それとも金属、違う。正解は素粒子だ。この世の有りとあらゆるものは素粒子から成り立っている。」
「は?俺が聞きたいのはそんなことじゃ…」
「まあ聞け。一括りに素粒子と言っても様々な種類がある。レプトン、ヒッグス粒子、光子、重力子、数えあげたらきりがない。俺が先程伝えた超能力とは、これ等の素粒子を自在にコントロールすること。その能力の名は『素粒子支配』。」
盗賊は隙を窺うべく剣を構え、少しずつアルフレッドから距離を取っていた。少しずつ、少しずつ。アルフレッドに動きを気づかせないよう、慎重に移動しながら徐々に娘たちの方角へ後退る。
盗賊からしたらアルフレッドは理解不能な相手。何をされて次に何が起こるのか、全く予想がつかない。処理しきれない情報量に体が反射的かつ最善の手で人質の所へと向かわせた。
「それで素粒子支配とか言う超能力で何をしたんだ?」
少しでも時間稼ぎをするために、会話を途切れさせない注意を払いながら、今この瞬間にも距離を取る。
アルフレッドは質問に対し、こう回答。攻撃を防御した壁は窒素や酸素などの空気分子を圧縮させ固体に近いレベルに操作。他の4人を殺った攻撃は圧縮した空気を振動させ、高速で飛ばしたもの
と。
そして最後に目付きを鋭くし、言い放つ…
「この世界の物理法則に従っている以上、手出し不能。」
「世界の理であり、法則。」
「ここは俺の領域。既にてめえの出る幕じゃねえ!!」
聞き終わると同時に盗賊は絶命した。自分が何をされたかすら理解できずに…
◇◇◇◇◇
翌日。俺は神力草の採取ため、いつも通る北門の反対にある南門前までヴァルニアとエレシュガルを連れてやって来た。
アイギスに初めて来たときやミスリルリザードを討伐する際も北門を通行してきたから、ここに来るのは初。神力草の生えている魔素地帯は南側にあるものが一番近いので、今回は此方を通る選択をした。
「フェルト、あれ何やってるのー?」
エレシュガルが指を指している方向的に門の外側。近くまで歩いていくと、門番が白髪の青年を取り抑えていた。そして、言い争っている。
「くっ、離せ。俺はまだ何もしていないだろ!」
「嘘を付くな!お前はさっきからずっと小さな女の子を凝視し続けていただろ。それに今、まだと言ったな!これから何かするつもりだったのか?」
「そんな訳あるか!紳士の鏡のような俺が天使に手を出す筈がないだろっ!俺をそこらの外道と一緒にするな。」
門場と白髪の青年が言い争っているなか、俺はこれを見なかったことにしてそのまま横切ろうとする。しかし、それを青年によって呼び止められた。
「おい!そこのお前ちょっと待て。」
足を止め青年の方に目線を向けると、青年はこちら側の3人を順に鋭い目付きで見ていた。その目付きは本物。並のものが放てる眼光ではない。
しかし、それも一時のこと。エレシュガルを視界に入れた途端、鋭い目線を止め柔和な笑顔を浮かべる。
「俺には判るぞ、お前同士だろ?いや、皆まで言わなくていい。お互い肩身が狭いと思うが頑張って行こうや。」
「こらっ!勝手に喋るんじゃない。取り敢えずあっちに行って話を聞かせて貰うぞ!」
「兄弟、また会うことがあったらゆっくり語らおうぞ!」
謎の白髪の青年は怒濤の嵐の如く話すだけ話して、門番に連行されていった。
「ねえあの人、お知り合いさんなのー?」
「エレシュガル、さっき見たことは忘れようか。」
今起きたことは悪い幻覚だったと思い込み、神力草採取のために魔素地帯へと移動を開始した。




