第28話 天龍②
色々と手を尽くしたが、ダメでした。
何が?と思うかもしれないが、俺はこの2人…ヴァルニアとエレシュガルから逃げ出そうとしたんだ。何もそこまでする必要性はないだろ、と思う奴もいるかもしれないがよく考えてみろ、2人の親は誰だった?
そう神話に出てくるような化物にして神龍であるファフニールとバハムートだ。そんな危険物の塊のような奴がバックに控えてるこの2人に、関わりたがる物好きなんてそうそういないだろ。もちろん俺もその例外には当てはまらない。だから逃げ出そうとした。したのだが、その行動の悉くを阻止されてしまったんだ。
別に手を抜いたとかそんなのではない。本気も本気、全力で逃げようとした。流石に殴ったりするのは端から助けた意味が無くなるし、化物に八つ裂きにされるのでやらなかったが、それを踏まえたとしても逃げられると思っていた。
しかし、現実はそこまで甘くはなかった。すべての行動が【未来眼】で完全把握され先回りされる。俺が行動を起こす前より動き出す。何をしても後手に回る。そんなこんなで結局逃げることは叶わなかった。
もう正直面倒になってきたし、こいつらを一緒に連れていってもいいと思い始めてきた。だけどその前に1つだけ聞いておきたいことがある。
「なんでそこまで俺に固執するんだ?」
「そんなの決まってるじゃないか、食べ物くれる良いやつだからだよ。」
「おいしいものくれるからー」
理解不能。なんだ、こいつらは飯さえやれば誰にでもついていくつもりなのか。
「はぁ~、食料なんてお前たちレベルの者なら自分で調達出来るだろ。」
「確かに出来るよ。だけど俺たちは解体が全く出来なくて、ゲロみたいな飯しか食べられなかったんだ。それが嫌で食べずにいたら、さっきの倒れていたような状態になった。」
「不味いの嫌だー」
そんな理由であの有り様か。ゴブリンの肉も我慢して食べたこの俺を見習って欲しいものだ。
「理由は分かった。なら俺と一緒に来てもいいぞ。」
「本当か!?」
「ほんとほんとー」
「もちろん本当だとも、ただし俺の出す条件に従うのならな。」
「条件だと?」
「あぁ、そしてその条件とは…」
木々の生い茂った森林地帯を道を進むこと5分、【気配感知】に4つの生命反応が引っ掛かった。相手側は此方を察知しており、ゆっくりと近づいてきている。
「お前たちも感知済みだろうが、彼方もこっちの存在に気付いている。油断するなよ。」
「おう、分かってる。俺たちの強さをちゃんと見ておけよ。」
「がんばるー」
戦闘体勢に入り、精神を集中させる。
2人が持っているユニークスキル【未来眼】【魔力眼】は集中力が研ぎ澄まされるほど、その能力を発揮していく。この2つの能力を鑑定眼で調べたところこんな感じだった。
《【未来眼】現在よりも先の時間である未来を見ることができます。未来の選択肢は基本1つになりますが、自分の行動もしくは同じような能力を獲得している相手が、未来とそぐわない動きをした場合は未来が複数になることがあります。Lvの上昇後はより少ない集中力で、先の未来を見ることが出来るようになります。》
《【魔力眼】魔力を目で視認出来るようになり、直接干渉が可能。それだけでなく、相手の魔力を視認することで吸引、逆流、暴発、操作など様々なことができます。Lv上昇後の変化は、精度が上がっていくことです。》
【未来眼】は名称で何となく分かっていたが【魔力眼】も十分反則級の能力を持っていやがる。でも使いこなせないと意味がないぞ。今からお手並み拝見といったところか。
木の影から出てきた魔物であるトロールが出てくる。
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種族:トロール
Lv28
HP1492/1492
MP13/13
筋力 156
耐久 187
敏捷 45
魔力 8
ランクD
耐性スキル
【物理耐性Lv4】【衝撃耐性Lv3】
ノーマルスキル
【棍術Lv3】【怪力Lv4】
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トロールは人型で固いのが特徴的な魔物。ステータスでも分かるが耐久が一番高くなっていて、容易にはその硬質な肌を突破することは難しい。
(さぁどう対応するんだ?)
現れたトロールに先制攻撃を仕掛けたのはヴァルニア。
速攻で接近されたトロールは持っている棍棒でヴァルニアを殴りつけようとする。しかし、これに対してヴァルニアは体勢を低くして事前に知っていたかのように攻撃を難なく回避。攻撃を大振りし、隙のできたトロールにヴァルニアは首元に目掛けて上段回し蹴りする。その一撃で首の骨が折れたトロールは絶命。
(ヴァルニアは接近戦が得意で、相手が単身の場合なら【未来眼】も合わせて真価を発揮しそうだな。)
次のエレシュガルの戦闘は…
何?もう既に2体が倒されているだと!?
地面を見渡すと先程ヴァルニアが倒したトロールの他にバラバラになった死体が2体分あった。
(あのたった十数秒の内に2体を…)
戦況を確認している内にエレシュガルはラスト1体のトロールに目をつけた。
その瞬間【魔力眼】を使用することで直接魔力を操り詠唱を破棄し、無詠唱で土属性魔法を発動させる。それによって出来た岩石がエレシュガルの周りを宙に浮く。
エレシュガルはその岩石を飛ばさず更に風属性魔法を使い、岩石に螺旋状の回転を掛け、弾丸のようにして飛ばした。
弾丸ともいえる岩石は一瞬にしてトロールの心臓を抉りながら貫通する。
(強ぇぇ、詠唱のない魔術師ってこんなに強いのかよ。【未来眼】を所有しているヴァルニアもそうだが、戦ったら勝てる気が全然しない。)
「ヘッヘッ、どうだ俺たちの力は。凄かっただろ。誉めてくれたっていいんだぞ!」
「ほめてほめてー。」
並の冒険者では出来ないような戦闘を行った2人が、嬉しそうな顔をして近寄ってきた。
「2人ともよくやった。普通ならとてもその歳で出来ないことだぞ。」
「そうだろそうだろ。俺たちは凄いんだ!」
「私たち凄いの?わーい嬉しい。」
(本当に凄いよ。流石は神龍の子供というだけのことはある。しかも、こいつら聞いたところ最近まで一切戦闘経験がなかったくせに、さっきのあれだもんな。ステータスだけでなく、戦闘センスまで頭逝ってるんじゃないか?)
「それでどうなんだ?俺たちは条件を満たしただろ。」
先程言っていた条件とは『俺に着いてこられるだけの戦闘力を見せてみろ』ということだ。そしてこの2人は何の苦戦もなくそれを俺に見せつけた。だから…
「十分満たしている。合格だ!」
「やっぱりな。こんなことしなくても結果は見えていたんだよ。」
「見えていたんだぞー!」
そう言いつつも喜ぶ2人。
こうして俺と一緒にヴァルニアとエレシュガルが着いていくことになった。




