第27話 天龍①
ポルネ村に寄ってから1週間が過ぎ、十分休憩出来たこともあって体の状態も万全になった。
「ジークにシンシアさん、1週間の間お世話になりました。」
「いいですよ。私たちも楽しかったから。」
「また暇になったら来いよ。」
別れの挨拶を終え、目的地である鉱山へと駆け出そうとしたとき、ジークが『そういえば言い忘れてた』みたいな顔をしながら話し掛けてきた。
「今日から丁度半年に当たる日に、王都で闘技大会があるんだけど、フェルトも参加してみたらどうだ。」
「は?何故だ?」
「それなりに勝ち進めば賞金等が出るし、力試しだと思って出てみろ。」
正直なんでこんなことを薦めてくるのか分からないが、最近は対人戦を全くやってなかったこともあるので、出るのもいいかもしれないと思い、記憶の片隅に止めておくことにした。そしてそのジークの言葉を最後にポルネ村を出ていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―――――――どうしてこうなった。
取り敢えずまずは落ち着こう。その為に必要なのは状況の分析だ。そう考え両サイドの腕を見ると、居たのは幼い男の子と女の子。どちらも幼いながらに顔が整っており、将来は美少年と美少女になることが容易に想像出来る。しかし、そんなことはどうでもいい。問題なのは、この2名は先程からずっと腕を引っ張り、同じことを連呼してくることだ。
「なぁ、さっきの肉もう一回くれよ~」
「食べたい食べた~い。」
「また渡すと俺の分が無くなるから、諦めてくれ。」
これと同じやり取りを何度も何度も繰り返し続けている。かれこれ10分はやっているだろうか。本当にしつこい。何故この状況になったのかは1時間前に振り返れば分かる。
1時間前、俺は鉱山に向かってペースを保ちながら走っていた。この時まではなんの滞りもなく進んでいたが、途中【気配感知】に2つの生命体が引っ掛かる。
いつも通りレベリングの糧にしようと様子を見に行ったのだが、そこに居たのは倒れ伏した2体の小さな龍。いくら小さいとはいえ、龍は生物の中で最上位の種族。そんな奴が居ればどうなるか。
俺はすぐに戦闘体勢に入り槍を構えた。しかし、いくら経っても動こうとしない。もしかして死んでいるのではないか、その推測が脳裏を過り近付いてみると、『きゅー、きゅー』と泣く2体の幼龍。だが、鳴き声は弱々しく今にも死んでしまいそうな状態。
俺はこの瞬間どうかしていたのだろう。情けか自己満足なのかは分からないが、2体の幼龍を助けてしまった。
何が原因で弱っているのかは、調べたらすぐに突き止めることが出来た。それは空腹だ。つまり腹を空かせて倒れていたということになる。俺は原因が分かったので、すぐに干し肉を食べさせることにした。だけど、これが間違いの始まりだった。
幼龍に干し肉を与えた途端『きゅっ、きゅっ』と喜んで一瞬にして食べ尽くした。俺にしても喜んで食べてくれるのは見ていて気持ちよかったので、もっと干し肉を渡していく。
そして更に渡した干し肉もすぐに食べ尽くす。これを繰り返した結果流石にこれ以上はヤバいと思い、干し肉をあげるのを止めた。そうすると幼龍たちは『きゅーきゅっ、きゅきゅっ』と催促をし始める。しかし、俺は心を鬼にして『もうダメだ、やることは出来ない』と言い放ち、その場を立ち去ろうとしたその時、幼龍たちが姿が人間になったのだ。そしてそこから10分が経ち、今の状況に至る。
幼龍2体について今頃不思議に思ったことだけど、なんでこんな所にいるんだ。本来幼龍は親の元にいる筈。
「そういえばなんでお前たちはこんな所に居たんだ?」
「なんでって、試練だよ試練。」
「そう試練なんだ~。」
試練だって?なるほど全然意味が分からない。
「それで一体なんの試練なんだ。」
「父さんと母さんは成長を見るための試練とか言ってた気がする。」
「成長を見るための試練?」
説明を聞いたところ纏めるとこうだ。年齢が一定の歳まで上がったから、1年間親の手伝い無しに生き抜いてみろとのことらしい。中々ハードな教育をしていらっしゃる。
「突然なんだけど、お前たちは名前とかあるのか?」
「勿論あるぞ!俺はヴァルニア。そしてこっちの妹がエレシュガルだ。」
「へぇー、ヴァルニアとエレシュガルか。良い名前だな。」
どうやらこいつらは兄妹で、兄の方がヴァルニア、妹はエレシュガルみたいだ。でも名持ちとは珍しい。基本的に亜竜種と下位龍は名を与えるようなことはしないから、上位龍以上になるってことだよな。そうなると親の名前も気になる。もしかしたら少しは聞いたことのある有名な奴かもしれない。
「親龍の名前聞いてもいいか?」
これに対して頷くヴァルニアとエレシュガル。
「父さんがバハムート。」
「お母さんはファフニールだよ。」
なるほどなるほど父さんがバハムートで、母さんがファフニール…
そういえば神話の物語で同じような名前を聞いたことがある。原初の龍ファフニールと終焉の龍バハムート。どちらも龍種の中で最上位である天龍。更に天龍の中でもこの2体だけは別格。始まりと終わり。原初にして終焉。
羽ばたけば天候が変わり、ブレスを放てば地形が変形。余りの強さからその二龍は、最早生物ではなく天災として恐れられた。そして後世このように伝えられる。生物である限り絶対に抗うことが出来ない天災。神のごとき龍。
神龍と――――――
マジかよ、こいつらバハムートとファフニールの子供だったのか。神龍なんて神話だけの話だと思っていたのに…
待てよ、ヴァルニアとエレシュガルが冗談で言っているだけかもしれない。そうまずは冷静になろう。そしてステータスだ。ステータスを閲覧すれば本当かどうか判る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヴァルニア 男 年齢:10 種族:天龍(幼体)
Lv37
HP1241/1406
MP420/420
筋力 192 (+19)
耐久 183 (+18)
敏捷 199 (+20)
魔力 127 (+13)
ランクB
パッシブスキル
【根性Lv2】【危険感知Lv3】
【気配感知Lv2】【高速治癒Lv3】
耐性スキル
【物理耐性Lv3】【魔法耐性Lv2】
【衝撃耐性Lv3】【斬撃耐性Lv2】
【状態異常耐性Lv2】【全属性耐性Lv1】
魔法スキル
【火属性魔法Lv3】【闇属性魔法Lv3】
【無属性魔法Lv1】
ノーマルスキル
【格闘術Lv3】【言語理解Lv6】
【人化の術Lv3】【思考加速Lv6】
【身体操作Lv2】【飛行Lv5】
【ブレスLv3】【咆哮Lv2】
【覇気Lv2】【超直感Lv3】
ユニークスキル
【未来眼Lv2】
称号
【神龍の子】【神龍の加護】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エレシュガル 女 年齢:10 種族:天龍(幼体)
Lv34
HP857/1090
MP711/711
筋力 103 (+10)
耐久 106 (+11)
敏捷 127 (+13)
魔力 215 (+22)
ランクB
パッシブスキル
【根性Lv1】【危険感知Lv1】
【気配感知Lv2】【高速治癒Lv3】
耐性スキル
【物理耐性Lv2】【魔法耐性Lv3】
【衝撃耐性Lv2】【斬撃耐性Lv1】
【状態異常耐性Lv2】【全属性耐性Lv1】
魔法スキル
【風属性魔法Lv3】【水属性魔法Lv3】
【火属性魔法Lv3】【土属性魔法Lv3】
【光属性魔法Lv4】【無属性魔法Lv2】
ノーマルスキル
【格闘術Lv1】【言語理解Lv8】
【人化の術Lv3】【思考加速Lv7】
【飛行Lv4】【ブレスLv2】
【咆哮Lv2】【覇気Lv1】
【超直感Lv2】
ユニークスキル
【魔力眼Lv2】
称号
【神龍の子】【神龍の加護】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うん、なんだこれ…
取り敢えずお、お、お、落ち着け。そうだ、深呼吸をしよう深呼吸を。
「スーハー、スーハー」
「何してんだ?」
「アハハッ、変なの。」
こいつらは無視だ無視。深呼吸をしたお陰で少し冷静になれたぞ。よし種族をもう一度見るか。えっと…天龍。はぁ~、やっぱり見間違えじゃなかった。溜め息をついてしまうくらいこいつらの種族はヤバい。どのくらい危険なのか分からないと思うから改めて龍の説明をしよう。
龍は大きく分けて5つ。下から順に亜竜種、下位龍、上位龍、古龍種、天龍となっている。
亜竜種は主にワイバーンが多く、龍種のなり損ないと呼ばれている。次は下位龍、上位龍、古龍種だ。この3つは同じ形態で、時が経つにつれ種族が変わっていく。下位龍が生まれて五百年経つと上位龍になり、そこから更に三千年が経過すると古龍種になる。つまり寿命が近付いて老衰しない限り、時が経てば経つほど強くなるということだ。
最後に天龍。この種族は龍種の中で最強と言われ、生まれたときから種族が固定している。強さは幼体であるヴァルニア、エレシュガルですらBランクになる程。成体になった時の強さは計り知れない。ランクで表すならSランクオーバー。Sランク冒険者が束になって、やっと討伐出来るかどうか位の強さだ。天龍相手にサシで互角以上に殺し合える人族など、歴史上の人物を含めてもたった数人。それほど規格外な生物なんだ。
そしてその規格外が今、目の前で肉をねだってくる。
ほんとにどうしてこうなった―――――――




