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第26話 ポルネ村②



ポルネ村の中を歩いてみたけど、この村には宿や店と言ったものが殆どなく一軒家ばかり。歩く度にもしかしたら宿が無いんじゃないのかと、心配になってくる。


「宿の場所を知りたいのだが、教えて貰うことは出来るか?」


「この村に宿なんてないぞ。」


細身ながらに筋肉質の20代後半の男に宿の場所を尋ねたが、返ってきたのは無いの一言。いくら村とは言え、宿くらい一軒はあるだろうと思っていた当てが外れた。


(おいおい、流石にそりゃねぇだろ。)


久し振りにベッドで寝れると、そう期待していたのに上げてから落とされた気分だ。


「お前そう言えば見かけない顔だよな?」


男が問い掛けてきた。恐らく人口の少ない村だから、記憶していない奴がいれば気になるのだろう。そう思って返答しようとした時…



ぐうぅぅぅっ―――――



腹の音がなった。



「…んっんっんっんっんっんっファッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ、あ~腹痛て、俺の質問に対して腹の音で応えるなんて、お前面白い奴だな。どうだ、そんなに腹空いてるんなら俺の家で飯食ってかねぇか?」


愉快そうな笑みを浮かべながら食事に誘ってくる。


「腹は確かに空いているが、今初めて会ったばかりのあんたに、そこまでお世話になる訳にはいけないよ。」


「そんなこと気にすんな、帰れば嫁さんが飯用意してくれているだろうから、すぐに食えるぞ?」


(すぐに食えるかなんて一言も聞いてないぞ?)


「家族がいるなら尚更行けねぇよ。それに知らん奴がいきなり来たら、折角の楽しい食事のムードが台無しになるだろ。」


「何言ってやがる。飯はな大勢で囲んで食った方がうめぇに決まってんだろ!そら行くぞ!」


肩を組まれて(なかば)強引に連れてかれる。抵抗しようと思えば今すぐにでも拒否出来るが、ここまで好意的にされて嫌な気分はしない。よって、食事の誘いを受けることにした。







道中色々と話した。この20代後半の男の名前はジーク。家族は3人で、可愛い一人息子が居るそうだ。職業は騎士をやっているらしく、今は長期休暇が取れたから帰ってきたとのことだ。3ヶ月後にはまた王都に戻らなくてはいけないので、それまでは息子と一杯遊んで、会えない寂しさを埋めると意気込んでいる。


「へぇ~、ジークは剣が得意なのか。」


「おう、さっきも言ったが騎士だからな…これでお互いの紹介はもういいだろう。着いたぞ、ここが我が家だ!」


ジークの目線の先を追うと、そこには木造式の一軒家があった。家の中から明かりが見えており、ジークの奥さんが既に食事を作り終えて、待っているのだと思われる。それに家の方角からいい香りが漂ってくる。


「いい香りだな、こりぁどんな食事が出るか楽しみだ。」


「そうかそうか楽しみか。シンシアの飯は想像以上に美味いから覚悟しておけよ?なんたって世界一だからな!」


豪快に笑いながら嬉しそうに返答してきた。


(きっと家族のことが本当に好きなんだろうな。でもこの感じどこかで…)


以前にも似たような言葉を聞いたことがあるのだが、いつどこで聞いたのか全く思い出せない。だけど、思い出せないことなら大したことじゃ無いだろうと思い、考えるのを止めた。







ジークが木造の扉を開けると、白銀長髪の女性が出迎えてくれた。


「ただいまシンシア。」


「お帰りなさいあなた。それでそちらの方はどなたなのですか?」


俺の方を見ながらシンシアさんがジークに質問をした。俺のことを聞かれているのだし、自分で答えようと思ったとき、先にジークが口を開く。


「こいつはフェルトだ。帰り道に途中で会って、腹を空かせていたようだから、家で一緒に飯を食おうと俺が誘ったんだよ。」


「フェルトさんですか…村の住民では無さそうですが、ジークさんが連れてきた人なら心配要らないですね。どうぞ上がって下さい。」


おい、いいのか?そんな簡単に俺を家に上げちまって。


「本当にいいんですか?」


「えぇ、大丈夫ですよ。それに何か企んでいるのなら、もう一度許可なんて取りませんよ。さぁ、上がって下さい。早くしないと料理が冷めてしまいます。」


「それではお邪魔します。」


ダイニングに移動すると、美味しそうな料理の置いてある机の席に7、8歳くらいの少年が座っていた。その少年は俺たちに気付くと否や此方に向かって走ってきた。


「父ちゃんおかえり!」


「今日も元気だなシグルズ!ただいま。」


少年の名はシグルズというらしい。一人息子がいると言っていたが、この子のことに違いない。


「父ちゃん、その人誰なの?」


やっぱりか、どうせ聞かれると思っていたよ。


「シグルズにも紹介しないといけないな。こいつはフェルト。今から一緒に飯を食うから仲良くしろよ。一応フェルト、お前からも自己紹介してくれ。」


「あぁ、分かった。」


頷いて簡単に自己紹介をする。


「名前はもう知っていると思うが、俺はフェルト。冒険者をやっていて、ついこの前にCランクに昇格した。」


「フェルトさん冒険者なの!?かっけぇぇ。普段って何しているの?やっぱり魔物退治とか?」


料理が出来ているにも関わらず、どんどん質問してくるシグルズに困り果てていると、シンシアさんが止めに入ってくれた。


「こらこら、シグルズ。フェルトさんに冒険者の話を聞くのはいいけど、ご飯を食べてからにしなさい。」


「は~い。」


このシンシアさんの言葉でシグルズが一旦聞いてくるのを止めてくれて、全員が席に着いた。



「「「「いただきます!」」」」







皆で料理を食べ始めた。

食べた料理はどれも美味しく、そして温かい。

この温かさはもちろん物理的なものでもあるが、それ以上に心に来る何かがあった。

一口、また一口と食べることに心に染みる。

心にぽっかりと空いた穴を埋めてくれる。



そして食べている内に、これはとても懐かしいものに感じた。

ジークたち3人が食卓を囲んで笑い、話し合っている光景。

どこかでこれと同じものを見たことがある。

いや、その輪の中に俺もいたような気がする。

だけど、なんだこのモヤモヤは?

懐かしいとは感じるのに何も覚えていない。

何も思い出せない。



今は4人で食べている筈なのに、俺だけが別の所にいるみたいだ。

考え事をしていると、箸が止まっていた。


「フェルトさん、もしかしてお口に合いませんでしたか?」


「そんなことはないですよ。とっても美味しいです。」


止まっていた箸を動かすと、次はジークが話し始める。


「シンシア、味の心配なんてする必要ねぇよ。この料理は()()()だ!」


あぁこれだ。

これと同じ言葉を聞いた。

確実に聞いた覚えがある。

少し思い出してきたぞ。

3人で食事をしていた時、その内の1人が言っていた。

でも、それが誰なのか分からない。


「フフッ、ジークさんはお世辞が上手いんだから。」


この返しもそうだ。

絶対に聞いたことがある。

なのに、なのに分からない。


とても大切な思い出。

今の光景みたいに

こんな感じに

幸せだったはず



俺は…



「おい!フェルト大丈夫か?」


「どうしたジーク?」





「今お前、泣いているぞ。」





ジークにそう言われ、やっと自分の状態に気付いた。知らない内に涙を流していたのだ。いつ涙を流し始めたのか分からないが、まずは拭こう。


「どうしたんだ、いきなり涙なんて流して。」


「…」


すぐに応えることが出来なかった。まず、何故泣いてしまったのかすら理解できていない。そのまま時間が過ぎ食事が終わったあと、ジークと外の空気を吸いに出た。




俺が黙っていると、ジークが話を切り出してくれた。


「そう言えばフェルトはどこで寝るんだ?」


「この村には宿が無いみたいだから、外で寝るつもりだぞ。」


考え込み始めるジーク。ひょっとして、小屋か何かを使う許可をくれるのかと期待したら、予想外の言葉が返ってきた。


「フェルト、お前が良ければこの家で寝てもいいぞ。どうだ?」


「いや、そこまでお世話になるつもりはない。断らせて貰うよ。」


断ると返したら、ジークが此方の目を見てきて口を開いた。


「ダメだ、やっぱり泊まってけ。」


はい?俺の言葉が聞こえなかったのか、もう一度言ってやるか。


「だから、そこまでお世話になるつもりは…」


言い掛けてる途中にジークが口を挟む。


「迷惑になるならないじゃなくて、もう泊まることは決定事項だ。」


「なんで?」


いきなり泊まれなんて言われても、やはり迷惑になることを考えてしまって『はい』とはすぐに返答できない。


「俺はな昔から人を見る目だけはいいんだ。それに、今のお前の顔を見て外になんか追い出せるかよ。」


「俺の顔?」


俺の顔に何かついているのか。或いは、さっきのことを気にしているのなら、申し訳ないな。


「さっきのことなら…」


「そうじゃない。今のお前はとても辛そうな顔をしているんだよ。とてもじゃねぇが見てられない。」


辛そうな顔?何を言っているんだ、俺はいつも通りだぞ。思ったことを口に出そうとしたが、ジークは再度話し出す。


「飯を食い始めた時くらいからか、徐々に今の辛そうな顔になっていった。お前今までに何か有ったのか?」



確かに色々有った。

目が覚めたら右も左も分からないダンジョンただ1人。

どれだけ起きる以前のことを思い出そうとしても、思い出せない。

家族の顔や名前すらも。


やっとのことでダンジョンを脱出してもまた1人。

道中レオンたちと一緒に、アイギスに向かうことになったけど、自分のことを殆ど話せず結局は心の中では1人だった。

アイギスに着いてからもそうだ。

遂には誰にも心根を話せなかった。

ダンジョンを目か覚めてからこの瞬間まで、ずっと1人なんだ。



「何もない。俺は1人じゃない。」


敢えてそれを口に出し、自分が折れないようにする。ここで打ち明けてしまえばどんなに楽になることだろうか。でも、それだと意味がない。一度でも折れてしまうと、次から何度も頼ってしまいそうになる。


そんな俺の肩にジークは手を置いた。


「まだ会って間もないが、話くらいなら聞く。1人で抱え込まないで言ってくれ。」


「別に何も…」


今にも消え入りそうな声で、最後の抵抗ばかりに言い返した。これに対してジークは、優しい声でゆっくりとこう返す。


「辛かったよな。よく頑張った。」


この瞬間、俺は折れた。





そのあとは自分のことを全て話した。

記憶のこと、現在のステータスに関わること。

そして俺は今日、心の底から初めて泣いた。




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