第23話 昇格
「…さっさと…起き……早く起きろっていってんだろ!」
荒い言葉遣いで俺の服を掴み、顔をビンタしてくる。しかも、ビンタしてくる奴の手がゴツいせいで、叩かれる度、頬に腫れるような痛みが走って痛い。
(痛い、痛いって、誰だこんなことしやがるのは!?)
ビンタしてくる奴の顔をこの目に拝んでやろうと思い、うっすら目を開けると、目の前に男2人と女1人がいた。
(ん?どうしたんだ?3人で俺なんかを囲んで。)
俺を起こすにしても、3人も必要な筈がない。何かするんじゃないかと気になり、声を掛けようとしたが、俺が起きたことに気付かないで男の1人が口を開く。
「こんだけ叩いても起きねぇのかよ…しょうがねぇ…おい、あれ持ってこい」
「それならもう持ってきてある。これだろ?」
そう言ってもう一人の男が、水が一杯にまで入ったバケツを差し出す。
(バケツに入った水…)
もうこれは嫌な予感しかしない。恐らく、俺の顔面に向かって水をぶっかけるのだろう。急いで制止させる為に、声を出して止めようとする。
「待て!俺は起きてる!」
そして、この声がちゃんと聞こえたのか、男は水を掛けようとするのを止めてくれた。
「おぉ、なんだ、起きているなら早くそう言ってくれよ。もう少しで水ぶっかけそうになったじゃねぇか。危ない、危ない。」
水の入ったバケツを地面に置きながら、自分が危なかったかのように言ってくる。
(いや、違うだろ!危ないのは寧ろ、水を掛けられそうになった俺だ。何言ってんだコイツ。頭おかしいんじゃねぇのか?)
「お前…大丈夫か?」
俺は可哀想なものを見るような目で、その男を心の底から心配した。頭の中は、大丈夫なのかと…
「な、なんだその目は!なんで俺をそんなに哀れんだ目で見るんだ!」
折角心配したのに、俺の目が気に食わなかったのだろう、男はそう言い放つ。俺は広い心で、この頭のおかしい男が今から何を言っても、許してやろうと思ったが、その必要はなく横にいた女が宥める。
「まぁまぁ、この子だって目が覚めたばかりで機嫌が悪いのかもしれないし、大目に見てやりなよ。」
「そうか、確かにそうかもしれないな。ならもういい。それよりお前身体の方は問題ないのか?」
身体?…そういえばあれだけ吹き飛ばされたにも拘らず、全然身体が痛くない。本来なら全身打撲だらけで、苦痛に悶える筈なのに。
「俺に何かしたのか?」
「全身傷だらけになって仕舞われましたので、ポーションの方を使わせて頂きました。」
俺の質問に応えたのは3人組の誰でもなく、丁度此方に来たギルド職員と思われる、模擬戦のとき審判をしていた男だ。
「ポーションを使ってくれたのは有り難いが、冒険者は基本自己責任だろ?なんで模擬戦で負けただけの俺に、ポーションを使ってまで治療してくれたんだ?」
「それはですね、特別昇格試験であるあの模擬戦は、本来新人の力量を見る為のもので、あそこまでやる必要は無かったんですよ。それなのにあの人は……取り敢えずそういう訳なので、謝罪の意味も込めてポーションを使わさせて頂きました。」
なるほど、確かに新人が昇格試験をやる度に、俺と同じ様なことになるのは流石にヤバイよな。
それにしても、模擬戦で放たれた最後の一刀…幾ら元Aランク冒険者にしても、あの一撃は出せるようなものじゃないぞ。
「ポーションの件は解った、でもトールさんって一体何者なんだ?」
「ギルドマスターがどうかされたんですか?」
…ギルドマスター!?えっ、あの人そんなに偉かったの?
「マジか…全然知らなかった。」
「お前そんなことも知らないで、模擬戦の相手を申込んだのか?」
今まで黙っていた男が、とんでもないものを見るような目で話し掛けてきた。
「当たり前だろ。冒険者登録したばかりの俺がギルドマスターなんて知ってる訳がない。」
「そうだとしてもトールさんは有名だから、冒険者でなくとも知っているぞ。」
「確かに元Aランク冒険者で現在はギルドマスターなら、それなりに有名なのかもしれないが、誰でも知っているみたいな言い方はしないでくれ。」
「そうか?この街の人間なら誰でも知っていると思ったが…もしかしてお前、最近アイギスに来たのか?」
何を今更当たり前なことを。
「そうだが、何か問題でも?」
「別に問題なんてないぞ。それどころか、お前のような将来有望な奴が冒険者になってくれたんだから、嬉しいくらいだ。」
将来有望な奴?よく解らんが面と向かって褒められるのは悪い気分はしないな。
「褒めてくれるのは嬉しいが、将来有望な奴ってどういう意味だ?」
「お前は模擬戦に集中していて気付かなかったかも知れないが、俺たちはお前の戦闘を見ていたんだ。そして見ていた感じ、お前は新人とは思えないくらいの能力があったからこうして褒めているんだ。」
そういうことか。どうやら今の俺は他の人が見てもそれなりに強くなっているらしい。今まで自分以外の観点から力量を観たことが無かったから参考になる。
「それで話は変わるが、お前たちはなんで俺を起こしたんだ?」
本当は起こされて一番最初に聞くべき事なんだろうが、水を掛けられそうになっていて忘れていた。今更聞くのもあれだが、そろそろ本題に入った方がいいだろう。
「それについては私から説明させて頂きます。先程ギルドマスターと模擬戦をしてもらいましたが、そこで戦闘能力を採点した結果、Dランクに昇格することが決定いたしました。」
Dランクとは、思った以上に昇格したな。俺は経験が足りないとか、そこらの理由で精々Eランク位の昇格思っていたんだが。そんなことを考えていると、ギルド職員が説明を再開した。
「そして、そのお知らせとランクの更新をする為に必要なギルドカードを受け取りに来たのですが、まだ気を失っていたので、そちらのお三方に頼んで起こして貰いました。」
「今聞いた通りだ。ギルド職員が起こそうとしても中々起きないから、俺が手本がてらに起こしてやったわけよ。まぁ、期待出来そうな新人がどんな奴なのか、知りたいってのもあったがな。」
俺をビンタして起こしたのには、そんな訳があったのか…
もしこれで大したことじゃなかったら、ビンタ仕返すところだった。
ギルドカードを渡したあと、ランクを更新する為に冒険者ギルドまで移動した。そして待つこと10分、掲示板に張り出されている依頼を見ながら時間を潰していると、ギルド職員に名前を呼ばれた。
「ギルドカードのランク更新が終りました。どうぞお受け取り下さい。」
「ありがとう。」
職員に感謝を述べつつギルドカードを受けとると、ランクの書かれている欄にDランクの文字があった。
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名:フェルト
性別:男
年齢:15歳
種族:ヒューマン
戦闘職:槍術士
冒険者ランク:D
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