第17話 アイギスの街③
オークとの戦闘が終結し、気が緩んだのか剣士の男が地面に倒れ混む。
「はぁ~、一時はどうなるかと思ったよ。」
「えぇ、全くだわ!流石に今回ばかりは少し焦ったもの。」
「確かにそうだが、まずは助けてくれたこの男に、感謝を伝えるのが先だろ。」
タンクの男が他のメンバーにそう呼び掛け、皆を俺の前に集合させる。
「さっきは助かった。ありがとう。」
「いや、当然のことをしたまでだ。気にするな。」
感謝をしてくれるのは嬉しいが、戦闘で俺が戦ったのは前半だけだから、正直そこまで大袈裟なことではない。
「そうか、そう言って貰えると此方としても助かる。あと自己紹介がまだだったな。俺はレオン。冒険者をやっていて、パーティーの中での役割はタンクだ。そして一応リーダーでもある。」
リーダーであると言ってきたレオンは、こうして間近で見ると予想以上に大きい。タンクをやるだけあって、その体はまるで熊のように見える。身長なんて、2メートルを越えるサイズ。
(よくこれほどのガタイで、あそこまで繊細な盾術が出来るな。)
オークとの戦闘のとき、攻撃を全て受け流していたが、俺が思うに流すのではなく、受けきる方が向いているのではないかと思った。多分、俺以外の奴がレオンを見ても同じことを思うに違いない。
そんなことを考えている内に、剣士の男が自己紹介を始める。
「僕の名前はアレク。レオンと同じく冒険者をやっていて、役割は剣士。使う流派は有名だから知っていると思うけど、現在の剣聖クレハ=グランベルが編み出したクレハ流だよ。まだ、使いこなせていないけど、今は頑張っている最中。そして、趣味は剣の練習をすること。よろしくね。」
剣士であるアレクはレオンと正反対で、体は華奢であり、身長は160センチ位。顔は整っており、パッと見は少女に見える顔つきだ。美少年、正にそれのこと。俺が女だったら恋に落ちていたかもしれん。そう思わせるほどの容姿。
次に、女の魔法使いに目線をずらすと、自己紹介を勝手に始めてくれた。
「今度は私の番ようね。私の名はティーゼ。ここまで来ればわかると思うけど、冒険者をやっていて魔法使いをしているわ。よろしく。」
ティーゼは気の強い女性と言った感じだ。でも、冒険者を生業としている人は、比較的気の強い人が多いから、珍しい訳ではない。それに、冒険者で気が弱いと、舐められることもあるから、強い方が良い。あと、ティーゼの特徴としたら、髪が赤いことかな。紅葉のように鮮やかで綺麗な色をしている。
そして、ティーゼの自己紹介も聞き終わったので、最後に残った僧侶の方に目線を移動させる。
「最後は私になりますね。それでは、紹介させて頂きます。私の名前はアリス。冒険者を営んでおり、役割は僧侶をやらせて頂いています。得意な魔法は補助魔法で、パーティー内では、普段サポートに回ることが多いです。よろしくお願いします。」
僧侶のアリスは、冒険者にしては珍しい丁寧な言葉使いをしている。先程も言ったが、冒険者は荒稼業で、舐められないようにと言葉使いが荒くなってしまう人が多い。勿論、丁寧に話す奴もいるはずだが、基本的には敬語なんてものは一切使おうとしない。先ず、使えるかどうかすら怪しい位だ。
全員の自己紹介が終わり、今度はお前の番だと言わんばかりに、皆が俺の方を向いてくる。
(そういえば、まだ自己紹介してなかったな。)
自分の自己紹介を忘れていたので、すぐに名前や流派を順に言っていく。
「俺の名前はフェルト。もう見ているから解ると思うが、槍術士だ。使っている流派はラグナ流で、まだ使いこなせてはいない。だけど、そう遠くない内に出来るようになるつもりだ。よろしくな。」
これで、一先ずは自己紹介が終了したと思っていたら、アレクが近付いてきて、少し前屈みになって笑顔で話しかけてきた。
「へぇ、フェルトって名前なんだ…良い名前だね。それで、フェルトはやっぱり僕たちと同じ冒険者なの?」
「いや、冒険者ではない。」
なんてこと聞いて来るんだよ。認めたくはないが、今の俺は無職。だから、自己紹介のときもわざと話さないようにしていたのに。
「えっ?あそこまで戦えて、冒険者じゃないの?」
「そ、そうだ。」
「ん~じゃあ、騎士とか傭兵だったりする?」
「それも違う…」
アレクが次から次へと俺の選択肢を狭めていく。このままでは、第一印象が無職になってしまうと思っていたら、レオンが仲裁に入ってきてくれた。
「アレク、フェルトを良く見ろ。お前がどんどん質問をするから困っているじゃないか。それに、自己紹介のとき何も言わなかったのだから、言いたくないのだろう。」
「そうなの…フェルト?」
申し訳なさそうな目でアレクが此方を見つめてくる。その姿はまるで小動物。
(そんな目で見られると、何も答えない訳にはいかないじゃないか。)
ここで、何度も質問されて迷惑だ、なんて言えないから何を話すべきか考える。
咄嗟に思い付いたものは、村で農民として暮らしていたが、腕にそれなりの自信があったので、冒険者になろうとした。そして今は街に向かっている最中。こういう設定だ。
(これは中々いいんじゃないか?この設定でいけば、レオンたちと同行して、街に向かっても何一つ問題ない。)
正直、聞けば街の位置を教えてくれるだろうし、助けた恩を使えば案内してもらうことも可能。しかし、自然に街へ着いていくことが出来れば、今回の件を貸しにしておくことが出来る。
「別に教えたくない訳じゃないから大丈夫だぞ。」
「ほ、本当!?」
「あぁ、本当だ。」
「なら、もう一度聞いてもいいかな?」
「あぁ、いいぞ。俺は少し前まで、村にある農家の手伝いをしていたが、腕にそれなりの自信があって、もっと稼げるような仕事をしたいと思ったんだ。そして、戦闘能力が高くて稼げる仕事といったら冒険者。だから今は、こうして冒険者になる為に街へ向かっている最中だ。」
今さっき考えたばかりの設定を言い切ることができた。しかし、アレクはすぐに返事を返してくれず、何か考え込んでいる。そのあと何か閃いたのか、アレクの横にいたレオンと話し始めた。
「ねぇ、レオン。フェルトも街に向かっているとのことだし、護衛を増やすためにも、同行して貰わない?」
「確かにフェルトが居れば心強いが、俺たちと同じ目的地とは限らないだろ。」
「ん~、そうなんだけど…じゃあ、フェルトにどこの街に行こうとしているのか聞いてみるよ!」
そう言い放って、此方の方を向いてきた。
「フェルトはどこの街を目的地にしているの?」
やっぱり聞いて来たか。既にレオンと話していたときに聞こえていたから、解ってはいたが返答に困る。何故なら俺は、ここら辺の街の名前を全く知らない。だが、街の名前が解らないと素直に言ったら、先程の冒険者になる為、村を出たと説明したことに矛盾が出てしまう。
何が矛盾しているかと言うと、俺は目的地が解らない状態で、冒険者ギルドを目指していたことになる。それでは、余りに不自然過ぎる。普通は目的地も解らない状態で目的の場所に行こうとはしない。
(一番簡単なのは、アレクたちの行き場所を聞き出して、俺もそこに行く予定だと伝えること。)
それから幾つか案を出したが、大したものが思い浮かばず、結局最初の案にすることにした。
「答えるのは良いが、その前に1つだけ聞かせてくれ。アレクたちは何処の街に行こうといているんだ?」
「僕たち?僕たちは護衛依頼の目的地でもある、アイギスの街に移動しているところ。」
「そうか…アイギスの街に向かうのか。なら奇遇だな、俺も同じ目的地なんだよ。」
「そうなの!?」
「そうだ。俺もアイギスの街まで移動している最中でな。」
笑顔のアレクを前にして、平気で嘘を付くのは中々来るものがある。
「それなら1つ頼みたいことがあるけどいいかな?」
「護衛の件だろ?どうせ同じ所に行くのだから大丈夫だぞ。」
「知ってたの?でも、まぁいいや。大丈夫なら先ずはこの事を皆に伝えないと。レオン、ティーゼ、アリス、みんな集合!」
アレクは大きな声を出し全員を集め直す。
「いきなりどうしたのよ?」
「皆聞いて、フェルトが一緒に護衛してくれるだって。」
「先程の話しは通ったのだな。だが、護衛をするからには、依頼主にも一応伝えておかなければならないぞ。」
依頼主を護衛するのだから、護衛するメンバーを伝えるのは当然か。
「おっと忘れてた。フェルト、今からオーク退治の報告のついでに、護衛依頼を頼みに行こう。」
オーク退治をする為に止めた馬車がそのままになっているので、発進させる準備と護衛パーティーが増えることを依頼主に伝えに行く。




