第三話.俺…学校行く
お父さんが作ったという朝食はどれも美味しく、思わず頬が綻んだ。
「…美味しい」
「そうかそうか、父さん伊月にそんな事言ってもらえて嬉しいよ。しっかりと食べなさい」
「ん…」
コクリと頷き、ゆっくりと味わいながらチラリと周りを見る。
まずお父さん、完全に専業主夫だ。普通にお母さんのおかわりをよそってるし、家事してるこが当たり前という風に見受けられる。
そしてお母さん、アンタご飯何杯目だよ。食い過ぎだ。それに谷間見せはご健在のようでスーツから覗く大きな胸が途轍もなく主張している。恥ずかしく無いのか?お父さん達は普通にしてるけど…。
そして和樹、お前の高校の男子の制服はそんなんだったのか?なぜ赤いリボンタイをつけピンクに白がかったような色のブレザーを着ている。まるで女の格好のようだぞ?
「…?兄ちゃんどうかした?」
「その、制服…」
「ああ、これ?桜山高校の制服だけど…」
「それがどうかした?」と首を傾げながら不思議そうに言う和樹の姿にピーンときた。そうだ、和樹の着てる制服どっかで見た事あると思ったら桜山高校の制服だ。
…まてよ、たしかそのデザイン色は女子だった筈だ。可愛いって中学の時に女子が騒いでた。逆に男子は黒いネクタイに黒青のブレザーでカッコ良いと評判だったはず。
なんでそんな女子が着るような制服を?まるであべこべ……ーーーっ!?
「ま、さか…」
導き出した予想に思わず呟いてしまう。幸いにも声が小さかったからか誰も聞こえてはいなかったのでホッとしながら、けれど内心冷や汗をかきながら恐る恐る聞いて見た。
「…和樹」
「ん?今度は何?」
「…料理ってさ、やっぱり男は出来なきゃ…かな」
「んーそうだね。男の人は将来嫁ぐんだし、出来ておいて損は無いと思うよ」
「ふふっ和樹の作るハンバーグ美味しいのよ?お父さんより美味しいんじゃないかしら」
「言ったな母さん、それじゃあ今夜はハンバーグにしよう。主夫歴15年を舐められたらたまらないんだからな」
「まあまあお父さんったら」
……男が嫁ぐって、主夫歴って…。
やっぱり美醜だけじゃ飽き足らず男女の価値観まで変わってるんじゃ…。
いや、いやいやいや、違ってるかもしれないし、クソジジイは美醜の価値観があべこべになったとしか言っていない。…まさかアイツ言い忘れたのか?
『ふぉっふぉっふぉ、そのまさかじゃ』
クーソージジイィィィィ!!!!
『てんめぇなんでんな重要な事言い忘れるんだよ!つーか脳内で喋りかけるな!降りて来いやゴラァッ!!』
『おー恐いのぉ。しかしそれは無理じゃ。仮に降りて来たとしても姿はお主しか見えんから端から見ればお主、精神異常者にしか見えんぞ?』
『…チッ。おいクソジジイ、あべこべは美醜だけじゃ無かったのかよ。なーんで男女の価値観まであべこべになってんだあぁ?』
美醜あべこべだけでもお腹一杯状態なのに。
『聞きたいか?』
『是非とも聞かせてくれ』
せめてまともな理由であってくれ。
『ふぉっふぉっふぉ……単なる好奇心じゃ』
『死にやがれやぁクソジジイがぁあああああ!!!』
やっぱりか!そうだよな!このクソジジイがまともな理由なんてあるわけないよな!!チクショーッッ!!!
『良いではないか、過ごして行けば結構イケると思うぞ?』
『どこがだ!どこがイケんだゴラァ腐れジジイッ!!!!』
『本当に口が悪いのぉ。まあ学校へ行けば分かると言っておこうかのぉ』
『学校だあ?』
『そうじゃ。…ああ、そろそろ切らせてもらうぞ、婆さ…ゴホンッ女神が待ってるからのぉ』
『今婆さんって言おうとしたな』
『細かい事は気にするな。それでは改めて、ドッキドキのあべこべライフを生きてゆくが良いぞ伊月』
『待て待て待て待て!!まだ聞きたい事がテメェのせいであり過ぎなんだぞ!?勝手に来て勝手に帰るなぁ!!』
『…ふぉっふぉっふぉ』
『だからふぉっふぉっふぉじゃねぇえええええ!!!!……おい、おい聞こえてんのかクソジジイ……アイツマジで切りやがったぁああああ!!』
うがぁあああああああああ!!!!ムカつくっ!マジガチでムカつくっ!!
「…兄ちゃん?やっぱり具合悪いんじゃ…」
「っ…ううん、大丈夫。ちょっと、寝ぼけただけ、だから…」
「そう?無理しないでね」
「ん…」
返事をしながら気づいた。箸を握りしめていたらしく僅かに曲がってた。危ない危ない。
はぁ…しゃあない、こうなったらクソジジイの好奇心に乗せられるのは癪だかこの前の世界が原型留まってるか分からん世界で生きてゆくしかないな。…今度あったら絶対ジャーマンし掛けてやる。
これからどうするか…そう言えばクソジジイが学校へ行けば分かるとかなんとかなるって言ってたな。
つっても学校かぁ…中学時代の奴もいるんだろうなぁ。でもこの状況じゃイジメがどうのこうの言ってる場合じゃない。
しゃあない、覚悟を決めるか。
「…あ、の…」
「どうしたの伊月?」
「どこがやっぱり具合が悪くなったか?箸が進んで無いが…」
わぁお、一言かけただけで食い付くなんてすげぇ愛されてるなあべこべ世界の俺。
「……(ゴクリ)」
三対の目が俺に向いている事で密かにゴクリとツバを飲み込む。やっぱ慣れないな…目を合わせるのって。
「俺…学校行く」
一言。たったこの一言だ。
それが三人共々ピシッ!と石のように固まってる。なんだなんだなんだ、そんな驚いた事言ったか俺。
それからきっかり一分、まずお母さんから石化が解けた。
「い、いいいいいい伊月?あああアナタ、学校へ行くって言ったの?」
いや、テンパり過ぎだろ。お母さんや。
「……伊月、無理しなくて良いんだぞ。父さん達はお前の味方だからな」
いや、そんなシリアスな雰囲気出さなくても良いんだよお父さん。
「ホントっ!?兄ちゃんと一緒に学校へ行けるの!?」
うん、そうだよ和樹。すげー目がキラキラしてるね。イケメンオーラがより一層増してまるで後光のようだよ。
その後、不安がる両親を何とか説得し俺は喜ぶ和樹の横で学校への切符を手にいれたのだった。
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