第二話.っありが、とう…!
目覚めれば見覚えのある天井が見えた。
「……こ、こは…」
「っ兄ちゃん!?か、母さん、父さん、兄ちゃんが目覚めたよ!」
目に涙を溜めて大声でそう言う和樹に目が点になる俺。
つーか何で俺の部屋に居るんだよ。てゆーか何でお母さん達呼んでんだよ。なんか泣いてるし。
布団を身に寄せながら警戒していると、ドダドタと二人の足音がこの部屋へ近づいている事が聞こえた。
「「伊月っ!?」」
切羽詰まった顔で我先にと俺の部屋へとやって来た二人の格好に目を丸くする。
まずお母さんや、何故ビジネススーツを着て居るんだ。それも胸元がギリギリ見えるところまで開けられているモノだから谷間がすんげぇ見えるんですけど。つーかバリバリの主婦だったよねアナタ。
それにお父さんや、何故エプロン姿なんだ。しかも花柄ピンク。アナタもバリバリのサラリーマンだったよね。いつ主夫になったの?
…もしかしてこれもあべこべの影響か?
「っ良かった!伊月が倒れたって和樹に言われて、生きた心地がし無かったんだよ?」
「、ホントよ、ホントに…無事で良かったわ…!」
「………」
あの俺にアウトオブ眼中だった二人が泣いている?俺の為に?
…違和感がすげーあるんですけど。まあ一応なんか言っておいた方が良いな。
「……あ、の…。お世話様、でした…」
これに目をこれでもかと見開く両親の姿に冷や汗をかく。何なんだよ一体…!
「っ伊月が喋った!母さん!」
「ええしっかり聴いたわ!伊月が喋るなんて、なんて嬉しいのかしら!」
そんなクララが立った見たいに言うなよ。アンタらはハイジか、ペーターか。
たかが喋っただけでこんなにはしゃぐとかどんだけ無口だったんだ過去の俺は。心はこんなにもくっちゃべっているのに。
「伊月、具合はどうだ?病院へ行くか?」
「…平気、です」
「そうか、……」
…………。
なんだこの沈黙は。
ちょ、誰か喋ってくれよ。そうだ!和樹、お前何とかしろよ!
視線でそう訴えれば、此方へとやって来る和樹は意を決したような表情をして俺の手をゆっくりと確かめるように握ってきたではないか。何がしたいんだお前は。
「兄ちゃん、」
「っ」
な、何だよ、驚いて肩がビクッてしちゃったじゃないか。
そして何故俺の反応に辛そうな反応をする。
「…あの、さ、前にも言ったけど…さ、みんな兄ちゃんを心配してるんだ。だからさ、またみんなで一緒に過ごそうよ。僕、兄ちゃんと一緒に居たいんだ」
ー何でお前が居るんだよ。さっさと消えろ。
ああ、価値観が違えばこんなにも人って変わっちゃうんだ。
あれだけ憎まれ口叩いてた癖に、ころっと俺にすがりついちゃって。
「、…ねぇ、兄、ちゃん…」
「和樹…」
「ぐすっ…和樹…」
優しく両手を握る和樹を他人事のように見る。
……ああ、そういえばクソジジイがブラコンとか言ってたっけ。だからこんな態度なのか。
お母さんはこの光景を見ながら顔を歪ませてるし、お父さんは涙ぐんでる。普通逆じゃね?あ、あべこべだからか。
「ふぇ…兄、ちゃん…ぐすっ」
「………か、ずき…」
「!!」
とりあえず手を握り返せば、驚いた顔をするイケメン。
視線を和樹から両親へと恐る恐る向ければ、何処か緊張が含んだ顔をしていた。そういえば視線合わすの初めてだったな…。
「、ご迷惑を、お掛け、しました…」
頭を下げながら思った。何て他人行儀な謝罪だろうかって。
ー何であんな子が私達の子供に生まれてきてしまったのかしら。
ーしょうがないだろう。代わりに和樹がいるんだ、和樹を我が子だと思って育ててくれば良い。
ーそれもそうね。
和樹が養子にやって来た時の事を思い出す。
夜中にそう会話していた事にショックを受け てベッドの中で静かに泣いていたっけか。
…思い出したらお腹減ったな。
そう言えば何も食べて無かった。食べたとしても冷えた夕飯を部屋の前に置かれるか、ひっそりと誰も居ないリビングで食パン齧ってたからな。
独りの記憶をフラッシュバックさせていたら、無意識に口が開いていた。
「…あ、の、…一緒にご飯、食べても、良いですか…?」
テレビに映る食事風景を見てずっとそれが羨ましかった。焦がれてたんだ。いつか俺もして見たいと、そんな有り得ない願望があった。
一緒に食べた事、無かったから…。
か細い声だがしっかりと届いたらしく、数秒沈黙した二人は僕に近付きギュッと俺と和樹の手を重ねてきた。
「っ良いに決まってるじゃないか!」
「っ父さんの出来たてご飯だから、美味しいわよ」
嗚咽を含みながらの返事に目頭が段々と熱くなってくるのを感じた。
「…早く、食べ、たいな…っ」
ああ、熱い。
視界がとてもボンヤリする。
気付けば泣いていた。
ポロポロと頬を濡らしていた。
同じテーブルにつくだけで良い顔をしてこなかった人達が、俺と食事するのが嬉しいだなんて…。
「…和樹」
「っ、何?兄ちゃん」
「ありがとう…」
泣きながら笑返せば、和樹までポロポロと泣き出し挙げ句の果てに両親まで泣き出してしまった。
そしてギュッと抱き締められた。
初めて味わう温かいぬくもりに、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
抱き締められた事なんて一度も無かったからだ。
「っありが、とう…!」
和樹に言ったのか両親に言ったのかクソジジイに言ったのか、自分でも分からなかった。
でも心の底から言いたかった。
それほど俺は嬉しかったんだ。
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