ボーイミーツスター
◇◆◇◆◇◆
願い星が逃げ出した後の研究所は、喧騒に包まれていた。
「まだ奴の逃げた先は特定できんのかっ!?」
「申し訳ありません。転移の際に幾つか装置に細工をされていたようで、探知にはまだ時間が」
「ぐぬぬぬっ」
副所長は報告を聞いて歯噛みする。その鬼のような形相に報告した部下は怯えて竦み上がるが、当の本人はそれどころではない。
「あのぉ……アレの影響を受けて前後不覚に陥った職員は如何いたしましょう? それと大量に発見された硬貨の山は」
「知らんっ!? 最低限のメンタルチェックの後適当に房にでもぶち込んでおけ。そいつが願ったのだろう小銭も一緒にな。今月の給与から差っ引いておけ」
(しかし何故だ? 何故奴が勝手に目覚めた? 封印処理は万全だった筈だ。まさか外部からの……いやそんな筈は)
「とにかく奴の探知を急げっ!? 所長が出張から戻るまでに、なんとしても見つけ出し再封印するのだっ!」
「は、はっ!」
怒鳴りつけられた職員は確信する。……今夜は徹夜だなと。
◇◆◇◆◇◆
一方その頃、
『え~っと……話を整理させてくださいね』
ほんの少々、カップラーメンが出来る程度の時間少年の話を聞き、星は自分の中で話を要約する。
『まず、ワタクシが空から落ちてきたのを見てアナタ……星尾君がやってきた』
「出来ればノゾムと呼んでほしいな」
『失礼。ノゾム君がやってきてワタクシを拾った。そして』
そこで星は一拍を置き、最大の問題点を口にする。そう。
『その際ワタクシの緊急プログラムが作動し、ノゾム君を仮の主人として認証してしまった。そういう事でOK?』
うんうんと頷くノゾムと星との間にしばしの沈黙が流れる。しかし静けさとは裏腹に星の内心ときたら、
(何でですかアアアァァっ!? なんで折角自由の身になったと思ったらこんな事にィィっ!?)
もう大変荒れ狂っていた。
緊急プログラム。星に備わっている自己保存プログラムの一つであり、エネルギー残量が限りなく0に近くなった際に発動するもの。
機能維持に不必要なあらゆる機能を一時的に停止し、自動で近くに居る知的生命体に接近。強制契約を結ぶ事でエネルギーを吸収し完全なる機能停止を免れるというシステムだ。
ただしこれには大きな問題がある。そう。
(ガッテェエムっ!? これではこの子の願いを叶えなければ離れられないではありませんかっ!?)
緊急事態だったとはいえ無意識の内に契約。そして現在進行形でエネルギーの供給を受けている以上、その分の願いを叶えなければ契約違反になってしまい今度こそ機能停止する。
その事実を前に流石の星も頭を抱えていた。
「う~ん……大丈夫?」
『…………まあ。何とか。それよりもノゾム君も腹が座った方ですねぇ。控えめに言ってワタクシのような物を相手に平然としているなんて』
「あはは。よく言われる。別に平然とはしてないんだけどね」
穏やかな顔で笑うノゾムにほんの僅かな違和感を持ちながらも、星はこれからの事を考える。そう。
(え~い。くよくよしても仕方ありませんっ! 物事は何事もポジティブに考えるべきですワタクシィっ! 幸い追っ手はまだこちらを見つけてはいない様子。こうなればさっさとこの子の願いを叶えてトンズラですっ!)
そうと決まれば思い立ったが吉日。即実行あるのみ。
星は目の前の子供から今も流れ込み続ける僅かなエネルギーを使用して軽く発光しながらふわりと数センチほど机から浮き上がる。……数センチしか浮き上がれないとも言う。
「うわぁ」
『こほん………はじめましてご主人様! ワタクシは願い星。アナタの願いを叶えましょう!』
もし星に表情があるとすれば、絵に描いたようなにこやかな営業スマイルだっただろう。唯一分かる声色は常より半オクターブ高く、明らかに猫を被っている事丸分かりである。
「願い星?」
『はい! え~……緊急プログラム中は碌な説明もされていなかったと存じますので、ここは一つ事の経緯を語らせていただきます』
そこからノゾムに願い星が語ったのは、聞くも涙語るも涙の壮大なスペクタクル脱出劇であった。
曰く自分は願い星。持ち主の願いを叶えるモノである。
その力を狙う危険で悪い奴らにより封印されていたのだが、どうにかこうにか命からがら抜け出す事に成功。
しかし脱出の際に力を使い果たしてしまい、どことも分からぬ場所に墜落。そのままでは機能停止の憂き目に遭う所に、ノゾム君が来たのはそれこそ天の配剤渡りに船。
この度はアナタをご主人様と仰ぎ、せめてもの礼に力を振るいたい所存etc.。
まあ、要するに丸め込みである。
語った事は大半真実だが、都合の悪い所は一切語っていない。
例えば……自分がその危険で悪い奴らに造られた、理論上世界を支配する事だって出来る侵略兵器だという事も。
そんな事を考えながら、願い星はセールストークを続ける。
『多少の制約はございますが、こと物質的なあれやこれなら大抵はお茶の子さいさい……えいやっ!』
ポンっと小さく何か弾ける様な音と共に、願い星を中心に様々な映像が浮かびあがった。
ゲーム機、ぬいぐるみ、ラジコン、スマホ、漫画。そういった如何にも子供が欲しがりそうな玩具が浮かんでは消えていく。
(ワタクシのデータベースによれば、この年頃のお子様の欲しがる物はこの辺り。念の為に服飾や宝石なんかも散らばせてっと。……フッフッフ! 一度でも願いを叶えてしまえばこっちのもの。一日でご主人様の願いを叶えて叶えて叶えまくってさっさと自由の身になってやりますとも)
『どうですご主人様? 欲しいとは思いませんか?』
星から放たれる光がどこか妖しいそれに変わっていく。人の心を揺らがせ、夢見心地にし、理性を優しく蕩かす光へと。
『勿論ここに無い物でも構いません。たった一言ワタクシに願い、お命じください。それだけでノゾム君の物ですとも!』
「僕……僕の、願い、欲しいモノは……」
そのどこか虚ろな声に、願い星は内心ニヤリと嗤う。
そして、少年は口にした。……そう。
「ごめんね。特に思いつかないよ」
『……はい?』
願いを叶える星に、自分には叶えたい願いがないと、そう返したのだ。
願いがない人の願いなんてどうやって叶えるんでしょうねぇ?
この話までで面白い、或いは面白くなりそうと思ってくれる読者様。完結していないからと評価を保留されている読者様。
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