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星は願いを叶えたい  作者: 黒月天星


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プロローグ


 ここは、とある場所に造られた研究所。


 表向きの世の為人の為になる研究と、あまり大っぴらには出来ない内緒の研究を行う場所。普段はそれなりに規則正しく静かに研究を行うそんな場所が、


 ビーっ! ビーっ!


「正面玄関を封鎖だっ! 非戦闘員は速やかに規定に従い退避せよっ!」


 今日この日は実に騒然としていた。警報が所内に鳴り響き、研究員は慌ただしく走り回る。


 そうなった原因はただ一つ。そう。こういった秘密の研究施設でのお約束。




 被験体、或いは研究対象の暴(・)走(・)である。





『……はぁ…………はぁ』


 星が、宙(廊下)を駆けていた。


 大人の掌にすっぽりと収まるような小さな星。それが流れ星にしては不規則な光の軌跡を描き、ヒュンヒュンと音を立てて飛ぶ。


 まるで色気の欠片もないパイプだらけの廊下であっても、警報のガンガンと鳴り響く騒がしい空間であっても、今の星にとっては紛れもなく自由への宙だった。


 ビーっ! ビーっ!


『繰り返すっ! 封印処理されていた目標は第二倉庫から勝手に起動し脱走。現在は所内を逃走中。なんとしても所内から出すなっ! 繰り返すっ!』

(うっさいですねぇ。折角チャンスがやってきたんです。捕まってたまりますかってぇの)


 星はそう内心で毒づきながら、廊下を飛び回りつつとある場所へ向かっていた。この所内に居てはいずれ間違いなく捕まる。だが、その場所にさえ辿り着けば星は自由になれる。その筈だというのに、


(……ちっ! 見張りが居ますねぇ。こんな時にも職務熱心ですこと)


 その部屋の入口には、こんな非常時であっても持ち場を離れない二人の警備員が陣取っていた。もっとも、


「なぁ? さっきから警報が鳴ってるけど、俺達は動かなくて良いのか?」

「それは別の管轄の奴に任せようぜ。こっちは今もっと大事な事がある。……そらっ! フルハウスだ!」

「マジかよっこっちはスリーカードだよチクショウっ!?」


 堂々と職務中にゲームに興じていて、職務熱心というには少々よろしくない勤務態度ではあったが。とはいえ、星にとって邪魔者である事には違いない。


(あまり余計なエネルギーは使いたくないのですが……仕方ないですね)





「そういえばさ。今逃げてる奴っていったいどんな奴なんだ?」


 カードをシャッフルしながら、警備員の一人が何の気もなく相方に尋ねた。


「なんだ知らないのか? なんでも、造られたは良いけど取り扱いが難し過ぎるってんで倉庫で埃を被ってたのさ。見た目はこ~んな小さな星みたいな奴だが、気を付けなきゃならんのは」


 チカッ! チカッ!


 警備員達がそんな話をしていると、不意に近くの廊下の陰から不自然な光が放たれた。


「なんだぁ?」

「ちっ! ……俺が見てくる。お前はここを見張ってろ」


 勤務態度はアレだが一瞬にして警戒態勢に切り替わった警備員の一人が、油断なく警棒を構えてじりじり廊下へと進んでいく。もう一人は相方を視線で追いながら、手早くいざという時に備えてカードを片付け、


(あ~あ。給料日まで懐が寂しいってのにぼろ負けかよ。……はぁ。もっと金があればなぁ)

『お金ですか。なるほどなるほど。実に分かりやすく読みやすいですねぇ』


 ふと、そんな事を思い浮かべた男の前に、星がパイプを伝って現れた。


 ピカッ!


「あっ……えっ!?」

『良いですよねぇお金。物の価値を分かりやすく定めるための通貨。いくら有っても困らないし、目に見える財産です。……どうです? 欲(・)し(・)い(・)と(・)は(・)思(・)い(・)ま(・)せ(・)ん(・)か(・)?』


 驚きながらも警棒を構えようとする男だったが、星から放たれる妖しい光とその言葉に少しずつ目の焦点が合わなくなっていく。


「あ、ああ。確かに……欲しいな」

「おいバカ止めろっ! 願(・)う(・)な(・)っ(・)!」


 その時慌てて廊下の陰を見てきたもう一人の警備員が呼びかけたが時既に遅し。



『そ(・)の(・)願(・)い(・)、(・)叶(・)え(・)ま(・)し(・)ょ(・)う(・)!』



 星が一際大きく瞬くと、その瞬間周囲は閃光に包まれた。





(ふぅ……さて。や~っと辿り着きましたね)


 色々あってとんでもない事になっている警備員達をすり抜け、星は遂に目的の部屋に辿り着いた。


 そこは緊急用脱出口。長(・)距(・)離(・)用(・)空(・)間(・)移(・)動(・)ゲ(・)ー(・)ト(・)が設置された部屋。この研究所の出入口が封鎖されつつある以上、星に残る逃げ場はもうここしかなかったのだ。


 星は周囲の装置を確認し、操作自体は自分でも問題なく行える事に安堵する。


(設定開始。移(・)動(・)先(・)は(・)ラ(・)ン(・)ダ(・)ム(・)。この際この研究所でなければどこでも構いはしませんってのっ!)


 下手に座標指定しては追手にバレる。最悪石の中に居る状態になる可能性もあったが、それでもこのまま捕まり封印処理されて長い時を過ごすよりは分の良い賭けだった。


『……よ~し準備OK! 転送開始は30秒後にセットして……こうですっ!』


 星はゲートの起動準備を終えた後、追手を少しでも足止めするため周辺の機器を少し弄り、後は意識を落ち着けてその時を待つ。そして、


「急げっ! 奴はあの中だっ!」

「うわっ!? なんだこの小(・)銭(・)の(・)山(・)はっ!? 誰か埋もれてるぞっ!?」

「放っておけっ! 今はこっちだっ!」


 勢い良く扉が開き、部屋に武装した集団がなだれ込む。だがその集団が見たのは、


『ふふっ! ……それでは皆様方。ごきげんようっ!』


 顔があったらさぞニッコリと素敵な笑顔を浮かべていたであろう星が、ゲートによりどこかへと転送されていく瞬間であった。





『……ハッ………ハハハハハッ! やったっ! 遂にやりましたっ! ワタクシ自由の身ですよキャッホ~ッ!』


 いずこかへと転送され、そこが特に閉鎖空間でも危機的状況でもないどこかの空中であるのを知った星は、くるくると回って喜びを露わにする。


 頭上には満天の星空。眼下にはふわりと漂う雲の海。もしその星に手があるのなら、きっと自分に似ていてどうしようもなく遠い同胞達に向けて手を伸ばしていただろう。


 ただ、今はそれよりもまず星が思った事は、


『ああっ! 空がこんなにも広いっ! こんなにも動き回れるっ! 自由というのは最高ですともっ! ハハハハ……むっ!?』


 だが、突如星はチカチカと力なく点滅し、少しずつ高度が下がっていく。


『エネルギー切れっ!? くぅ~あの程度の欲ではまるで足しになりませんでしたかっ!? ……ダメっ!? 墜ちるっ!?』


 長らくの封印処理。偶然起動したとはいえ、大した補充もなく研究所内での逃走劇。残存エネルギーなどとうに底を突いていた。


 遂には浮かぶ力すらなくなり、やがて星は雲を抜けて地上へと落ちて、墜ちて…………堕ちていく。ひゅるひゅるとまるで流星のように。


 ヒュ~…………ポスンっ!


 出来る事と言ったら着地のショックを緩和する程度。高い高い宙から落ちたにしては軽く少々間の抜けた音と共に、星は地上へと墜落した。


(ここは…………どこかの河原ですか?)


 そこまで大きくはないが川の近くに落下したと判断する星であったが、考えるのはそれが限界だった。


 最低限の機能維持のために思考能力も制限がかかり、星は意識が朦朧とし始める。周囲の探知能力も低下していき、もはや分かるのは自分の本当に近くの事だけ。


(フフッ……こんな所で終わりとは。まあ束の間の自由の代償としては仕方ないのかもしれませんね)


 星は苦笑しながらも、少しでも宙を自由に飛び回れたから良しとするかと機能停止の定めを受け入れようとして、


 ザッ。ザッ。


「え~っと、確かこの辺りに落ちてきたと思ったんだけど」

(……子供の声?)


 近くの砂利を踏む足音と、子供の声らしき物が聞こえた。


 ガサガサ。ガサガサ。


「……あった! わぁ。綺麗な石だなぁ」


 自分が誰かに拾われた事を自覚したのを最後に、星はそこで意識を手放した。





『う、う~ん…………どこ? ここ』


 星が微睡みから覚めた時、そこは見知らぬ部屋の中だった。


 小さなテーブルの上、ハンカチを敷かれた上に置かれる中、星は今の状況を整理する。


(アイツらの倉庫じゃない。となると連れ戻された線は薄いか。まあ何はともあれ、逃げ出せたのは間違いありませんね。……つまりワタクシはまだ自由の身継続中!? ひゃっほ~いっ!)


 しかし、星は喜びのあまり飛び上がろうとして気づく。


(残存エネルギーが残り3%っ!? これじゃあ飛び回るどころか……いや待って。何故そんな状態でワタクシの自意識が……むっ!?)


 ガチャっ!


 そこに扉が開く音と共に誰かが入ってきたのを察知し、星は音を出さずに情勢を見守る。すると、


「よいしょっと…………あっ!? チカチカ光ってる。気が付いたみたいだね」


 齢の頃は十行くか行かないかという所。黒髪黒目の穏やかそうな風貌の少年が、何かの服の入ったカゴを下ろすと星を見て駆けてきた。


 じ~っ。


(ワタクシはただの綺麗な石……綺麗な喋らないただの石ですよ~)


 じ~っ!


『………………え~い分かりましたっ!? 分かりましたからそうニコニコした顔でガン見しないでくださいよホントっ!?』


 最初はただの石ころの振りをしていた星だったが、少年の眼差しに根負けして話し出す。


『え~……あの、どちら様で?』

「……うん。そうだよね。まずはそこからだよね」


 少年は何故か一瞬だけ何か考えるような仕草をして、ゆっくりと頷きながら口を開いた。


「僕は星尾望夢(ほしおのぞむ)。よろしくね。お星さま」





 それは、星の瞬く静かな夜を越え、とある片田舎の小さな家から始まる邂逅。



「星よ……星よ。僕の願いは……」

『アナタの願い、叶えましょう』



 人の願いを叶える(欲を喰らう)願い星と、それを拾い上げた一人の少年のお話。



 どうも! 知らない方は初めまして。作家未満の物書きの黒月天星です。


 今作は昔一話だけ考えたまま終わった習作を供養すべく手を加えてみたものです。


 定期更新ではなく気が向いたら時々更新でお目汚しになるかとは思いますが、読者様方に楽しんでいただければ幸いです。

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