新しい朝におはよう
星が墜ちた翌日の朝。ノゾム少年の自室にて。
ジリリリリリっ! ポチっ!
『グゥッッドモーニイイィングっ! 素晴らしい朝ですよノゾム君!』
「うん。おはよう。スター」
机の上に浮かぶ、スターと名付けられたやたらにテンションのおかしい願い星に、目覚ましを止めながらノゾムは穏やかに笑って挨拶する。
なお現在早朝6時。朝っぱらからうるさい星である。しかし、それには一応の理由があった。
(あぁ……窓から空が見える! 太陽はぽかぽかと地を照らし、遠いどこかでニワトリらしき鳴き声も聞こえる。まだワタクシ絶賛自由満喫中ですともハイっ!)
ずっと、スターは造られた瞬間から微睡みの中に居た。
理論上は絶大な機能を持ちながら、危険性ゆえに即封じられ倉庫に放り込まれて幾年月。情報としては知っていたけれど、見るもの聞くもの全てが星にとっては新鮮で。
少年の傍を離れられない不自由を補って余りある自由を、スターは今享受していた。それに、
“今の所欲しい物は無いかな。最新のゲーム機や玩具があっても遊ぶ相手は居ないし、本は読むけど沢山貰ったって読み切れないよ。スマホは今持ってる分で事足りてるし、お小遣いもあんまり使わないし”。
“何か叶えたい願い? う~ん…………やっぱり思いつかないかな。何か見つかったら言うよ!”。
(願いがないと言われて昨日はついふて寝してしまいましたが、根本的に願いのない知性体が居てたまりますかってぇの。となればまずは何でも良いからこの子の願いを探り自覚させる事が大事。自由の為にやってやりますとも!)
この星、なんだかんだ言ってポジティブである。昨夜一晩寝ながら考えて、こうして当面の行動方針を定めたのであった。
「さてと。じゃあ朝ご飯の準備をしてくるね」
『お待ちを。昨日はバタバタして聞けなかったのですが……ご家族は?』
「父さんは仕事で滅多に帰ってこないんだ。母さんは僕が小さい頃に死んじゃった」
寝巻から着替えながらあまりにもさらりと何でもない事のように返すノゾムに、スターは一瞬言葉に詰まる。
そのままノゾムはスターを連れてリビングへ移動すると、如何にも慣れた手つきでエプロンを付け台所に立ち、
『……お待ちを。こんな時こそワタクシにお任せください』
悲しむ? そんな機能使ってる暇はありませんが何か? とでも言いそうな態度で、スターは早速営業を開始する。
「どうしたの?」
『ふふっ! さ~てご清聴あれ! 朝食。それは生きとし生ける者に欠かせない一日の始まり。しかしながらその下準備の為に、朝の心地良い睡眠を僅かなりとも削らなくてはならないというのはあまりにもしんどいもの』
流れる水のようなトークをぶちかましながら、またゆらりとスターから光が放たれる。だが今回は最初のような妖しい誘うような光ではない。
『あぁ分かります分かりますとも。ですがワタクシが居ればそんな心配とはもうさよならバイバイ。アナタはただこう願えば良いのです。“美味しい朝食が食べたい”と。……如何です? こんな細やか~なお礼しか出来ませんが、ここは一つワタクシにお任せいただけませんか?』
「つまり僕の代わりに朝食を作ってくれるの? でも……なんだか悪いよ」
『いえいえ。こちらはただの“お礼”なのですから。ノゾム君は気兼ねなく願うだけで良いのです』
するとノゾムは少し考えて、ゆっくりとどこか申し訳なさそうに頷く。
「分かった。じゃあ今日はお願いしようかな。行くよ……“美味しい朝食が食べたい”」
『その願い、叶えましょう!』
ぴかっ! ぼわんっ!
『ふふん! 如何ですご主人様』
一瞬星の輝きが強くなったかと思うとテーブルの上に突然煙が噴き出し、煙が晴れた後には立派な朝食が広がっていた。ただ、
「……なんか、ばらばらだねぇ」
焼きたてのトーストの上にほかほかのご飯と漬物。焼いた鮭の横にはサラダとスクランブルエッグ。味噌汁の反対側には濃い目のコーンスープ。おまけにデザートのヨーグルトに加えて湯呑みに入った熱々のほうじ茶。和風洋風ごちゃまぜであった。
『ありゃ? おっかしいですね? 世間一般的な朝食の筈なんですが、データに少々不備があったようです。少々手間ですがもう一度出し直して……ノゾム君?』
そこに、ノゾムはスッと席に着いていただきますと手を合わせると、そのままもしゃりとご飯を口に運ぶ。
味噌汁を飲んでサラダに。スクランブルエッグを食べて漬物に。コーンスープを飲んではまた白米に。一つずつ順々に食べていき、ふと気づいたように星に声をかける。
「ねぇ。スターも一緒に食べない? 僕一人だと少し多いから」
『ワタクシが食べても栄養にはならないんですけどねぇ。……でもまぁ味覚センサーはありますし、ご要望とあらばお付き合いいたしましょう』
「それが良いよ。こっちにどうぞ」
スターもノゾムに薦められた場所に降り、試しにとスクランブルエッグを一かけら取り込んでみる。
(………これは)
その後はノゾムもスターも何も言わず黙々と食べていき、最後に熱いお茶で一服する。だが、スターは内心結構へこんでいた。朝食がマズかったためだ。
(ミスったあああっ!? 栄養素はともかく全体的に味付けが滅茶苦茶じゃねぇですかっ!? 何この味噌汁っ!? 塩分過多で塩水みたいじゃんっ!? コーンスープに至ってはもう砂糖多過ぎでスイーツの域ですよこれっ!? 代わりにスクランブルエッグが無味一歩手前だし、ワタクシの物質生成プログラム墜落した拍子にガッタガタでヤダああああっ!?)
これでは契約者を満足させるなんてとてもとても。流石のスターも少し落ち込み、
「ありがとうスター」
思わぬ言葉に聴覚センサーを疑った。ノゾムはほんの僅かに苦笑し「正直あんまり美味しくは無かったけど」と前置きをした上で、
「うん。誰かにご飯を作ってもらって一緒に食べるなんて……本当に久しぶりだったよ。だから、美味しくはないけど良い朝食だった。ありがとう!」
『……っ!? そ、そうでしょうともっ! これからも何かありましたらこのスターに願っていただければ幸いですっ! ……ただ今日の昼食だけはプログラムの修理の為お許し願いますが』
目の前でにっこりと笑う契約者から流れ込む願い達成のエネルギーを感じながら、少々思惑と違う結末に何とも言えない言葉を返すスターであった。
スターは願いを叶えるモノですが、現段階では叶えられる願いにも精度や制限があります。エネルギー満タンの万全状態なら大抵の願いは普通に叶うんですけどね。




