第22話「東京湾侵略編④ 炎上する湾岸」
西暦2055年4月15日 0時37分。
東京湾沿岸に、地獄が降り立った。
それは“侵略”と呼ぶにはあまりに静かで、
“戦争”と呼ぶにはあまりに異質だった。
黒い影——異形の兵器群が、音もなく上陸を開始。
四肢のような脚部が湾岸構造物を踏み潰し、滑るように進行していく。
人類が持ついかなる兵器体系にも当てはまらないその“存在”は、
それでも確かに“敵”だった。
◆
東京都・有明。
湾岸施設に近い区画では、すでに建物の倒壊が始まっていた。
——爆音。
港湾倉庫がひとつ、押し潰された。
その瓦礫の向こうに、巨大な鋼の影が現れる。
「う、うそだろ……」
自衛隊員が震える声を漏らす。
構えていた89式小銃を握る手が汗で滑り、装填レバーが外れる音さえ生々しく響いた。
「前衛部隊、迎撃開始! ここで止めるぞ!」
中隊長の怒号とともに、
10式戦車部隊と装甲車が一斉に砲火を解き放った。
——ドォンッ!
砲弾が火花を散らし、直撃。
爆煙の中に敵影が飲み込まれる。
「命中確認! 反応、減速——いや、まだ来る!」
煙の奥から、再び“それ”は現れた。
外殻がわずかに焦げている程度で、構造そのものには損傷がない。
「効いてない……だと……!?」
次の瞬間、敵兵器の“腕”が振るわれた。
巨大な構造体のような突起が、ビル壁面をなぎ払う。
まるで紙細工のように崩れる建材。
衝撃波が地を揺らし、避難しきれなかった車両が数メートルも吹き飛ばされる。
◆
湾岸の混乱は、瞬く間に隣接区へと波及していた。
豊洲・晴海・芝浦……
「避難完了率、区によっては未だ30%以下です!」
「道が封鎖されています! 歩いて逃げる市民も混在していて……!」
現場指揮車両の中、警察と消防、自衛隊の通信が交錯する。
逃げる市民。
助けを求める声。
怒号。悲鳴。割れるガラス。
それらすべてをかき消すように、
遠くで爆発音が上がった。
◆
「敵、第4目標群が市街地南端に到達。速度上昇中!」
「対応部隊、砲撃継続中! ですが……被害が抑えきれません!」
防衛省地下指令室のホログラムには、赤く光る都市構造マップ。
その半数近くに“侵攻済”の印が点灯していた。
東郷官房長官はモニターを睨みながら言う。
「……市民を守る。第一優先は変えるな」
「はい!」
吉岡圭吾総理も、拳を強く握っていた。
(なぜ……ここまで正面から来る……?)
敵の意図が読めない。
空爆でもなく、通信妨害もなく、ただ“真っ直ぐ”にやってくる。
それは、まるで——見せつけるように。
◆
午後0時48分。
炎が、都市を包み始めていた。
燃え上がる住宅街。黒煙。赤く照らされた空。
避難しきれなかった人々の叫び。
火災の熱で街路樹が枯れ、電柱が倒れる。
「退避! 退避しろッ!!」
自衛隊の通信車両が焼かれ、通信網の一部がダウンする。
陸上からの砲撃が敵に集中するも、全体数の“進行”は止まらない。
——そして、ついに。
一体の敵兵器が、都心方向に進路を取り始めた。
その動きは明らかに“目的”を持っていた。
「敵兵器、A6ルートを北上! 目標、都心部!」
その報告は、冷たく響いた。




