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第21話「東京湾侵略編③ 湾岸に現れた悪夢」

西暦2055年4月14日 深夜。

東京湾沿岸。


警報のサイレンが鳴り響いてから、すでに二十数分が経過していた。

だが、街に“秩序”が戻ることはなかった。


 


「ママ、こわいよ……」


男の子が、泣きそうな声で母親の手を強く握る。

その細い指が震えていた。


母親は言葉を返せなかった。何を言っても、この状況では嘘になる。


 


ベイエリア。

ライトアップされた高層ビル群が、赤く点滅する緊急警報の表示に染まっていた。

自動走行車両は避難者の搬送を優先し、主要道路には長い車列ができていた。


それは秩序のようで、混乱の象徴でもあった。


 


警察官、消防隊、自衛隊の先遣部隊が、叫ぶように声を張り上げていた。


「この先は立入禁止です! 速やかに避難を! 後方へ退避してください!」


「聞こえてるか!? 応答してくれ、A4地区が……」


「こっちの避難ルートが詰まってる! 誰か回せ!」


叫びが交差する。命令も、悲鳴も、混ざり合って都市の夜を焦がしていく。


 



その時。


東京湾——その沖合に、変化が起きた。


海面が、静かに“盛り上がる”。


波ではない。風でもない。

まるで、海そのものが“押し上げられて”いるように——


 


「……な、なんだ……あれ……」


湾岸施設の警備員が、言葉を詰まらせながら双眼鏡を下ろす。


水平線の彼方。


そこには、黒い“影”があった。


ビルのように巨大で、なのにほとんど波を立てず、海面を滑るように進んでくる。


それが複数。


いや、数えきれないほど。


 



市ヶ谷・防衛省地下指令室。


「敵影、視認確認されました。推定全長30メートル以上。艦船ではありません。……移動手段不明」


「こっちも映像入った。目視とドローンによる記録——」


大型ホログラムに投影されたそれは、

“兵器”とは言い難い異様な姿だった。


なめらかで、鋼のように硬質な外殻。

腕とも脚ともつかない形状を備え、下半身はまるで四肢を持った海洋生物のようにうねっていた。


だが、その異形は、明らかに“人工的な設計”を匂わせていた。


 


「迎撃は……可能か?」


吉岡圭吾・内閣総理大臣が言葉を絞り出す。


「可能です。既存の火器であれば、着弾はするはず——ただし、効果は未知数」


「……行け」


「了解。湾岸第1防衛ライン、交戦開始」


 



横須賀基地・陸上自衛隊第3特科群。


湾岸エリアの地上戦力が、敵影に向けて展開を始めていた。


「目標、複数。敵兵器、距離800、接近中」


「88式地対艦ミサイル、発射準備完了。目標ロック」


「撃て!」


 


轟音。


複数の地対艦ミサイルが、一斉に夜空を駆け抜けた。

白い噴煙の軌道が、美しくさえ見えた。


直撃。


海面が爆発する。高く舞う水柱。


 


……しかし、黒い影は——止まらなかった。


 


「……直撃確認、だが……撃破できていません!」


「なに……!? もう一斉射を——っ」


 


その時、敵影の一体が、上陸した。


巨大な影が、港湾倉庫のひとつを文字通り“押し潰す”。


ビルほどの重量が建造物を飲み込み、瓦礫が飛び、爆風が走る。


「うわあああああああっ!!」


近くにいた自衛隊員が吹き飛ばされ、警報が再び鳴り響く。


 


これは、“兵器”ではない。


“侵略そのもの”だ。


 


湾岸の夜に、最初の絶叫が響いた。

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