第20話「東京湾侵略編② 警報鳴り響く都市」
西暦2055年4月14日 深夜——
東京湾沿岸。
警報音が、静かだった夜を完全に塗り替えていた。
赤く染まった避難誘導のホログラム表示。
自動走行車が制御を切り替え、避難用のルートを作り出す。
都市機能が“戦時”に移行した瞬間だった。
◆
東京都江東区・豊洲。
高層マンション街。
「ママ、なんで逃げるの?」
怯える幼い声。
母親は震える手で子供の手を引き、避難ルートへと駆け出していた。
周囲には同じように、スマートフォンから緊急アラートを受け取った人々が、戸惑いと混乱の中を移動していた。
「本当に……何が起きてるんだ……?」
誰かが呟く。
遠く、東京湾の方角。
その黒い海面から——不気味な低い“音”が響き始めていた。
風ではない。波でもない。
——圧力そのもののような“音”。
◆
東京都中央区・晴海。
「警察です! 指定避難ルートに従ってください! 慌てないで!」
警視庁の警察官たちが、混乱する市民に向けて叫ぶ。
消防隊も走り回り、高齢者や要支援者の誘導に奔走していた。
自衛隊の緊急派遣部隊も、誘導に加わっていた。
「湾岸エリアから離れてください! 車はそのまま自動走行に任せて!」
「くそっ……本当に敵が来るってのか……?」
現場の隊員たちも、その全容は知らされていない。
だが——
空気が違っていた。
都市に漂う、明らかに“敵意”の気配。
◆
市ヶ谷・防衛省地下指令室。
「敵飛翔体、東京湾内への侵入を確認」
「陸自・海自・空自、各部隊迎撃準備完了。防衛出動中」
東郷誠一郎官房長官は、低く息を吐いた。
「市民避難状況は?」
「現在、約50%が避難完了……しかし、道路渋滞と混乱で停滞しています」
「……仕方ない。時間を稼ぐしかない」
吉岡圭吾総理大臣は、ホログラム地図を見つめたまま、静かに呟いた。
「この国の空は……この国の海は……まだ、我々の手にある」
◆
東京湾・横須賀基地。
海上自衛隊の護衛艦群が、東京湾内に展開していた。
「対艦・対空迎撃準備完了」
護衛艦『いずも』を中心にした艦隊が、湾岸防衛ラインを形成する。
その遥か沖合。
海面に、異形の影が……複数、浮かび上がっていた。
「……あれが……奴らか……」
艦橋に立つ指揮官が、知らず呟いた。
◆
東京都江東区・有明。
避難途中の少年が、ふと——東京湾の方を振り返った。
海面から、音もなく立ち上がる黒い“何か”を。
それは、既存の兵器とも、自然現象とも異なる“異様な存在”。
「……なに、あれ……」
都市の夜景に、不気味な影が、浮かび上がっていた。




