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第23話「東京湾侵略編⑤ 戦場と化す都市」

西暦2055年4月15日 午前1時02分。


東京都・港区。


新橋駅前にある、再開発途中の高層ビル群。

その一角が、真っ赤な炎に包まれていた。


——爆発音。

地響きのような衝撃と共に、街の構造が崩れていく。


自動車が押し潰され、歩道は割れ、避難途中の市民が散乱する瓦礫に阻まれていた。


「このままじゃ挟み撃ちになる! 第2班、そっちから回れッ!」


陸上自衛隊の隊員が、ヘルメットの下で汗を飛ばしながら指示を飛ばす。


しかし、声が届くより先に——黒い影が、建物の上から降ってきた。


「——っ! 回避——!」


叫びと同時に、地面が抉れる。


敵兵器。


巨大な外殻。柔軟かつ質量のある四肢。

動きはまるで“生きている”かのようにしなやかで、反応が早すぎた。


 



東京都・芝浦。


避難中の市民たちが、封鎖された湾岸道路で立ち往生していた。

後方には黒煙。前方には無数の車列。

逃げ場が、ない。


「……誰か、助けて……」


老夫婦の声が、夜の騒音にかき消される。


その時。


轟音。


上空を低空で通過する輸送ヘリが、サーチライトを照らす。


「この場にとどまってください! 救援部隊が到着します!」


機内から吊り下ろされた拡声器の声が響く。

だが、その下——ビルの隙間から現れた“影”が、光を跳ね返した。


敵兵器。


今度は複数。


湾岸沿いの入り組んだルートを、獲物を探すように進んでくる。


 



東京第7防衛区域——訓練施設。


鳴瀬隼也は、格納庫の前で立ち尽くしていた。


彼の視線の先、滑走路のはるか向こうに、空が赤く染まっていた。


「まさか……ここまで来るとはな」


訓練基地の副官が、吐き捨てるように言った。


「湾岸部はすでに突破された。こっちの施設も避難対象になるだろう」


「避難、ね……」


鳴瀬は、握った拳をほどかずに言葉を返す。


「どこに逃げたところで、あいつらの進軍を止められなきゃ意味ねぇだろ」


「……お前、まさか」


「まさかもクソもあるか。俺たち、“航空宇宙軍”って名前ついてるんだぜ?」


誰かが笑うような、あるいは諦めたような息を漏らした。


 



市ヶ谷・防衛省。


地下指令室では、すでに最終防衛ラインの見直しが始まっていた。


「都心南部の一部区域、すでに戦闘区域と認定。住民避難率、50%未満」


「被害規模は想定以上。敵兵器の装甲が従来兵器の火力を上回っている……」


ホログラム地図に、東京全域が赤く染まりつつあった。


東郷官房長官は、眉間に深くしわを寄せたまま言う。


「総理、これ以上の損害拡大を防ぐには、新たな戦力の投入を検討すべきかと」


吉岡圭吾総理は、無言で資料に目を通していたが——やがて、口を開いた。


「“旧式機再起動計画”——準備状況は?」


「現在、パーツ調達が80%。フレーム整備は完了。ただし——」


「間に合わないか」


「……はい。今の侵攻速度では、最低でも数日、時間が必要です」


 


吉岡は静かに、視線をモニターへと戻した。


「……ならば、その“数日”を稼げる者に、すべてを託すしかない」


 



品川。


炎の中、都市のひとつが戦場と化した。


残された警察、消防、そして陸自の小隊が、“時間”を買うためだけに戦い続けていた。


敵の目的は不明。

だが、その進軍に“迷い”はない。


人がいようと、いまいと。

建物だろうと、車だろうと。


すべてを踏み潰し、貫き、進む。


 


市民の声が消え。

戦車の砲声が消え。

ついには——通信までもが、寸断され始めた。


 


東京。


首都が、“陥落”の二文字を背中に感じた瞬間だった。

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