第14話:決断の時
――内閣官房地下シェルター、特別戦略会議室。
ホログラムの円卓に、各省庁の高官が映し出されていた。
その中央に立つのは、日本国第103代内閣総理大臣――吉岡圭吾。
「旧式兵器を頼りにせざるを得ないのか……。この国の“今”が、それほどまでに追い詰められているとは……」
重く沈んだ言葉が、誰の口からも否定されることはなかった。
「F-35は、確かに機動性と攻撃性能に優れています。しかし、敵はすでに学習を始めています。
最も最新の兵器ほど、敵のアルゴリズムに取り込まれる速度も早いと考えられます」
そう述べたのは、作戦統括の東郷誠一郎。
元航空幕僚長にして、現在は特別防衛顧問の立場にある。
「皮肉な話だな。最先端の兵器が“先に潰される”時代が来るとは」
「だからこそ、敵が解析していない“旧型機”の投入が必要なのです。
AIにも戦術予測にも記録されていない、不確定な一撃。
それが、突破口になり得ます」
吉岡はしばし沈黙し、テーブルに両手を置いた。
「……日本は、過去を捨てない。
必要なのは“勝利”だ。プライドではない。各部隊に通達を。旧式機の再配備、認可する」
◇
格納庫21。
“あの機体”は、ようやく仮起動のフェーズに入っていた。
「補助電源、安定。油圧ライン、開放完了。反応制御系、スタンバイ……」
澪が静かに頷く。
数週間にわたる手作業と調整の末、ついに中枢ユニットの起動を試みる段階に達したのだ。
「いきます……起動プロセス、開始!」
整備士たちが見守るなか、F-14Dのコックピット計器がゆっくりと光を帯びていく。
一つ、また一つと点灯していくLED表示に、澪の目も期待を宿す。
──しかし。
突如、警報音が鳴り響いた。
【ERROR:FLIGHT CONTROL PROCESSOR FAILURE】
【SYSTEM OVERRIDE HALTED】
「……なに? フライトコントロール……?」
整備主任が青ざめた表情でモニターを確認し、叫んだ。
「……中枢フライトコントロール・プロセッサが完全にやられてる!
これじゃ“飛行そのもの”が制御できねぇ!」
「制御プロセッサって……機体の“脳”ですよね……?」
「そうだ。これがなきゃ、エンジンも、姿勢制御も全部止まる。
予備は……国内にはもう存在しない。
あれの生産ラインは15年前に完全閉鎖された。しかも海外の型だ」
整備士たちが絶句する。
澪の目から、静かに光が消えていった。
「やっと……ここまで来たのに……」
希望は手に届きかけていた。
それだけに、失われた感覚は、なおさら深く胸を抉った。
◇
一方、作戦司令部には新たな報告が届いていた。
「東シナ海北部にて、F-35編隊が迎撃成功。敵機3機を撃墜。損害なし」
しかし、モニターに映し出された戦闘ログを見た真壁の表情は険しかった。
「……反応が変わってきている。行動パターンが、昨日までとは違う。
こいつら、もう“観察期間”を終えたな」
東郷も深く頷く。
「今度は“狩る側”として動いてくる」
そして、彼は遠く格納庫21の方角を見やった。
「間に合うか……“旧き力”が」
◇
演習空域。鳴瀬隼也は、模擬戦訓練の終盤に差し掛かっていた。
スピア2として、編隊行動・僚機支援をこなす日々が続いている。
「スピア2、回避旋回良好。接近タイミング、完璧だったぞ」
『ありがとうございます。……僚機のカバーが的確だったおかげです』
無線の向こうから僚機パイロットの軽い笑い声が聞こえた。
「調子いいな、鳴瀬。少しは“チーム”を意識し始めたか?」
『まだまだです。でも、そう在れるようには努力してます』
訓練後、格納庫に戻る鳴瀬に、澪が短く声をかけた。
「お疲れさま。動き、よかったよ」
「ありがとう。……機体の調子は?」
「ほぼ完璧だった。操縦も……問題なかったと思う」
「そっか。じゃあ、何が“完璧じゃなかった”のか、あとで聞くから」
わざとらしくない、柔らかな笑みだった。
鳴瀬は、軽くうなずいた。
◇
──敵母艦、司令区画。
ザ・アークの幹部たちが淡々と進行状況を確認していた。
「地球側航空兵器における“主型反応”の解析完了。
F-35型、戦術データ蓄積完了。反応AI群、第七戦術型に最適化移行中」
「戦術遅延の必要性は、もはや失われた。
次段階、投入可能」
ひとつのホログラフィック映像が切り替わる。
そこに表示されたのは、新型戦術機群のシルエットだった。
「“模倣”は、終わった。
次は、“制圧”だ」
◇
指令室では、一本の通達が届いていた。
「首相官邸より通達。吉岡総理の承認をもって──
旧式航空機の再配備、および実戦仕様への再整備、正式承認」
静まり返った空間に、誰かがぽつりと呟いた。
「……過去が、再び空を飛ぶのか」
だが、そこには皮肉ではなく、祈りに近い想いが滲んでいた。
物語は、いよいよ新たな段階へと突入していく。




