表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/23

第13話:兆しと疑念

オペレーションルームの天井から、薄いホログラムの光が揺れている。

演習空域、模擬戦、F-35×2機による交戦シミュレーション。

鳴瀬隼也なるせ じゅんやは、スピア2として指導機の真壁とともに出撃していた。


「スピア1よりスピア2、フォーメーションを維持してください。回りすぎです、鳴瀬」


『了解です。……修正します』


丁寧な口調を意識しつつも、若干の不満が声に滲んでいた。

完全な従順にはまだ程遠い。


敵機役のAI操縦機が急上昇する。真壁はすかさず誘導ミサイルをロックオン。

鳴瀬も反応するが、速度と軌道のズレで機を逸した。


(もう少し、見極めてから撃てばよかった)


僚機支援としての立ち回り。以前なら無視して独断で突っ込んでいたところだ。

だが今回は、真壁のカバーに徹していた。


訓練終了後、真壁は短く言った。


「以前よりは悪くない。だが、まだ“チーム”になりきれていないな」


「……承知しました」


やや悔しげな表情を見せながらも、言い訳はしなかった。

変わろうとしている自分と、それを見ている周囲。

ぎこちない歯車が、わずかに噛み合い始めていた。


 



格納庫21の一角。

F-14Dの主電源に繋がれた配線が、静かな起動音を発した。


「通電、確認。補助系、生きてます……!」


澪が声を漏らす。

サブモニターに微かに光が点り、古いシステムUIが読み込まれていく。


「主電源はまだ無理でも、これで機体各部のチェックが進められます」


傍で記録を取っていた一人の整備士が微笑む。


「澪ちゃん、やるじゃねぇか。元航空支援隊の誇りだな」


「でも、私だけの力じゃありません。皆さんがいてくれたからです」


「……そういう謙虚なところ、兄貴に似てないな」


その言葉に澪は一瞬だけ視線を落としたが、すぐに笑みを返した。


「“あの人”が見てても恥ずかしくないようにしたいんです」


F-14の金属フレームが、まるで眠りから目覚めたようにわずかに軋んだ。


 



指令室では、新たな戦況報告が届いていた。


「西太平洋域、F-35部隊が敵機2機を迎撃。損失なし。帰還済みです」


「以前に比べて、敵の回避率が下がってきている。

F-35の挙動に対応しきれていない可能性があります」


報告を受けた真壁が、慎重に言葉を選びながら東郷へ言った。


「ですが、敵の反応が“遅れている”のではなく、“観察している”ようにも見えます。

このまま同じ戦術を繰り返せば、学習される危険もあるかと」


東郷は、ホログラム越しに戦闘記録を見つめながら静かに頷いた。


「敵が戦術AIを使っているなら、遅れは学習の“前段階”だと考えるべきか」


「はい。“こちらの型”を完全に読まれる前に、変化をつけなければなりません」


「そのためのカードが、旧式機……というわけだな」


 



敵司令部。

複雑な幾何構造の中、幹部らしき存在が淡々と報告を行っていた。


「地球側のF-35、性能は確認済み。現在、個別戦術AIによる再解析中」


「人間による不規則行動が戦術判断に干渉。次フェーズでは抑制行動を優先せよ」


「了解。敵側の旧式機体群、起動の兆候あり。

一部地域にて電波・電源反応検知」


幹部は一瞬だけ沈黙し、やがて冷たい声を発した。


「過去に縋る意思も、排除対象に変わりはない。

記録も記憶も、戦場ごと消し去れ」


 



夜。

澪は再びF-14Dの横に座り、整備記録をまとめていた。


冷えたコックピットを見上げながら、静かに呟く。


「“飛ばす”準備は、少しずつ……進んでる」


その言葉が、誰に向けられたものかは彼女自身にも分からない。

だが、その声は確かに機体に届いていた。


 



司令室。

通信解析班から東郷に一報が入る。


「先ほど、地球衛星軌道上で一時的に“重力異常波形”が観測されました。

消失までの時間は1.6秒。現在、詳細を解析中です」


「敵母艦の新たな配置か、それとも別の何かか……」


ホログラムに浮かぶ、途切れた軌道の軌跡。


東郷はその光を見つめながら、小さく呟いた。


「……奴らの“何か”が、動き出したな」


その言葉と同時に、基地全体に静かな緊張が走る。


空は、また変わろうとしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ