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第12話:再び始まる空

格納庫21。

ヘルメットを片手に、鳴瀬隼也なるせ じゅんやは静かにF-35を見上げていた。

無言で作業を続ける整備士たちの視線が、以前とはどこか違う。


それでも──

この空で、まだ俺は何も証明できちゃいない。


 



作戦司令区画。

ホログラムの戦闘ログが静かに再生される中、真壁颯士まかべ そうしは上官である東郷の指示を待っていた。


「F-35による撃墜、戦術評価は?」


東郷の問いに、真壁はやや緊張した面持ちで答える。


「撃墜自体は成功です。機体性能に依存せず、パイロットの判断が機能した結果と考えます。

ただし──敵機の挙動に従来とは異なる変化が見られました」


東郷はホログラムをじっと見つめたまま、静かに問う。


「対応された、というより“対応され始めた”……そう見るべきか?」


「その可能性は高いと考えています。ただ、現時点ではF-35は有効な戦力です。

継続投入は可能ですが、今後の対応スピード次第で有効性は急激に低下する恐れがあります」


東郷は短く頷いた。


「了解した。現状は現行機主軸での運用を継続する。ただし、他の戦力確保も進めろ。

例の“旧式機計画”──あちらの準備状況は?」


「整備班による点検・補修作業は進行中です。

機体フレームや一部電装系の生存確認は取れました。

今後、試験通電とパーツ収集の段階へ移行できます」


「正式に承認しよう。準備を急げ。過去の遺産が、再び役に立つ時が来るかもしれん」


 



通信解析班。

大型投影装置に浮かぶのは、敵機が発信していた通信信号の解析結果だった。


「──こちらが問題の信号です。古い通信プロトコルですが、形式が一致するものがありました」


「どこと?」


「火星コロニー“アエリウス”のものと、完全に一致します。

廃棄前に運用されていた地球側の衛星間通信プロトコルです」


報告を受けた解析主任は、重く呟く。


「……ということは、あれは“火星由来”だと?」


「直接の断定はできませんが、少なくとも過去に地球人類が関与していた何かが、あの敵機と繋がっているのは間違いありません」


この報告は、すぐに東郷の元へと上げられることになる。


 



地球上空。

敵母艦の作戦区画。


ホログラムに映し出された戦闘映像を前に、幹部の一人が淡々と報告を続ける。


「地球側、F-35による戦闘能力確認。ステルス性能および誘導兵器を有し、命中精度は中高度」


「記録せよ。戦術解析AIにフィードバック。回避アルゴリズムを更新する」


「加えて、戦場における“非合理な挙動”が確認されました。パイロットによる手動操作と判断」


「了解。次フェーズより、人間的行動特性に基づいた予測モデルを導入。

想定外要素を排除することで、戦場の制御を取り戻す」


幹部の声は冷ややかで、感情の色はなかった。

ただひとつ、“地球側の行動”を一手一手潰すためだけに存在している。


 



夜。

格納庫21では整備士たちが交代制で旧式機の作業に取りかかっていた。


みおは一人、F-14Dの補助電源系統をチェックしていた。

冷却管の圧、燃料ポンプ、シート配線……ひとつずつ、静かに点検を重ねていく。


背後から真壁がやってきて、工具棚にもたれながら尋ねた。


「進捗は?」


「補助系は生きてます。主電源系は、まだ点かないけど……無理じゃないです」


少しの間、整備場には二人の靴音と工具の音だけが響いた。


「もし……この機体が本当に飛べるなら」


澪が、ぽつりとつぶやく。


「“あの空”を取り戻せるかもしれない」


真壁は静かに言った。


「……なら、お前の手で飛ばしてやれ。アイツが、空へ戻る時のために」


澪は黙ってうなずき、再びスパナを握った。


 



一方その頃、訓練棟のログ室では鳴瀬が再生されたデータを見つめていた。


F-35による交戦記録。

敵の動きに対して、自分がとった回避と攻撃。


──何かがおかしい。


(あの瞬間……敵の挙動がわずかに緩んだ)


制御のミスか。あるいは迷いか。

戦闘機に迷いなどあるのか?


(いや……“あれ”も考えていた。俺たちと同じように)


気味の悪い直感だった。

だが、それは確かに戦場に存在していた。


 



整備場では、小さな電源テストが行われていた。

F-14の機体に微かな通電音が走り、メーターのひとつがかすかに点灯する。


それは、かつての空が“まだ死んでいない”という、微かな証明だった。


そしてその裏で──

敵もまた、次の一手を静かに準備していた。


“再び始まる空”

その言葉の意味が、ゆっくりと現実になろうとしていた。

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