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第11話:F-35の刃

──出撃命令だ。鳴瀬、お前も行くぞ」


格納庫に響いた真壁颯士まかべ そうしの声に、鳴瀬隼也なるせ じゅんやの背筋が一瞬、強張る。

すぐに顔を引き締め、整備済みのF-35Aに目をやった。


「任務は南方洋上の偵察機撃墜。相手は単機のはずだが、油断するな。電子支援機は随行している。お前はイーグル2として僚機のサポートに徹しろ」


「了解、イーグル1。……ご指導、よろしくお願いします」


ぎこちなくも丁寧な返答に、真壁は少しだけ口元を緩めた。


「行けるか?」


「はい。飛べます」


 



「お守り──ってわけじゃないけど、整備リストに載ってない予備パーツ、載せといた」


出撃準備を終えた機体のそばで、神谷澪かみや みおが工具ケースを抱えながら言った。


「そのくらいのこと、言わなくてもやってくれてるって信じてたよ」


鳴瀬はふっと笑ってから、澪の目を見て言った。


「ありがとう、神谷」


「……無事に帰ってきて。それだけでいいから」


澪の声は、ほんの少し震えていた。

彼女の兄も、この空へ出たまま、戻ってきていない。


鳴瀬はそれ以上、何も言わずにコックピットへと乗り込んだ。


 



機体がゆっくりと滑走路へと移動していく。

眼下に広がる滑走路、遠ざかる整備士たちの姿。


真壁のF-35が先に滑走し、続けて鳴瀬機が動き出す。


「イーグル1、離陸。イーグル2、続け」


「イーグル2、了解。離陸する」


機体が地を離れた瞬間、鳴瀬の胸にひとつの感覚が蘇った。

初めて空を飛んだ日。命が機体と一体化するような、あの感触。


(俺は……この空に、もう一度立つために来た)


 



敵機との接触は、出撃からわずか18分後だった。

電子支援機のデータによれば、敵は一機。速度・航路ともに既知のタイプと一致。


「イーグル1、接敵。敵機は索敵範囲内。迎撃に入る」


真壁の声が冷静に響く。

だが敵は、以前と同じではなかった。


「動きが……変則的だ」


「イーグル2、下がれ。カバーに回れ」


鳴瀬は即座に反応し、真壁の背後へと回る。

敵機は巧みに高度を上下させながら、F-35のロックをかいくぐっていく。


「まるで……こちらの予測パターンを逆手に取ってるような……」


敵機は急旋回し、今度は鳴瀬に照準を向けてきた。

電子支援のジャミングが入るが、機体の挙動は落ち着きすぎていた。


「……これは偵察機じゃない。データと違う!」


真壁の声が鋭くなる。


「イーグル2、引くぞ──いや、待て。誘導機関のロックが入った!」


その瞬間、鳴瀬はわずかなチャンスを見つけた。

敵機が旋回に入った刹那、機体の死角が生まれた。


「──射撃管制、照準固定。ミサイル発射」


F-35の翼下から発射されたAAMが一直線に走る。

次の瞬間、空中で小さな閃光が弾けた。


「敵機、撃墜確認……!」


管制室からの声が、遅れて入った。


「イーグル2、帰還せよ。……よくやった」


真壁の声が、いつもより少しだけ柔らかかった。


 



帰還後の格納庫。

機体のハッチが開き、鳴瀬が静かに降り立つ。


澪が駆け寄ろうとするが、一瞬立ち止まり、少し距離を取って見つめた。


「……よく、帰ってきたね」


鳴瀬はヘルメットを脱ぎ、澪と目を合わせた。


「まだ、始まったばかりだよ」


その言葉に、澪も小さくうなずいた。


 



一方、司令区画の通信解析班。


「この信号、従来の敵機とは異なる……反応波形です」


「新型か?」


「詳細不明ですが……現行F-35では、解析困難かと」


データを受け取った東郷誠一郎とうごう せいいちろうは、無言でその数値を見つめていた。


「──来るぞ。次は、今までの比じゃない」


誰に言うでもなく、静かに呟いたその言葉は、

まるで嵐の前の鐘の音のように、静かに響いていた。

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