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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
終章 幸せ

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幸せ・2

再会

 霊園を出て駐車場に出ると、タイミングを見計らったかのように黒塗りの外車が僕達の前に停車した。


 緊張感が走って少し後ろに下がったが、咄嗟に記憶を辿ると見覚えのある車である事に気がついた。


 重厚感のあるドアを勢いよく開けて車から出てきたのは、あの時僕を轢いた男だった。


 あの時と同じくずっとサングラスと黒いスーツを着ていて、本当に表の社会の人間では無いなという確信を毎回させられる。


「よう兄ちゃん! 久しぶりやのぉ!」


「あ、お久しぶりです」


「玲依、知り合い?」


「クリスマスイブの日に、僕を轢いた人だよ」


「えっ」


 一瞬、すこし怪訝な顔で茉姫奈は男を見ると、男は焦ったような面持ちですぐ茉姫奈の方に駆け寄って頭を下げた。


「あの時はすまん! 姉ちゃん、兄ちゃんの恋人やろ? ホンマに申し訳ないことしたわ、本当にすまん!」


 そんなに謝るかと言うくらい頭を下げて謝ってきたので、茉姫奈も混乱していた。


「いや、もう過ぎたことですので」


 僕が間に入って言うと、男は顔を上げて僕に抱きついてきた。


「兄ちゃんホンマにいい男やな!」


「いや、いきなり抱きつかれるのはちょっと」


 そのまま腕が解けて、思い出した様に男は僕達に向かって言った。


「そうや、今日は“お嬢”と“付き人”もお参りしに来てるんや」


 急ぐように車に駆け寄って後部座席のドアを開けると、思いがけない人物が2人、車から出てきた。


「茉姫奈! 久しぶり」


 車から出てきたのは、金城くんと、那由さんだった。


 那由さんは金属の逆三角のロゴがついたデニムジャケットとジーンズを着ていて、へそが出ている形の艶かしいファッションだった。


「那由!」


 茉姫奈が那由さんの方に駆け寄って抱きしめた。


 当たり前だろう、1年間近く会ってなかった茉姫奈の親友で、思いがけない再会だったはずだ。


 那由さんは、あの後からずっと茉姫奈の事をちゃんと茉姫奈と呼んでいる。


「会いたかった、茉姫奈」


「わたしも」


 その光景を後ろから金城くんは何も言わずに見ていた。


 金城くんは男の人と変わらずスーツだったが、紺色に太めのストライプが入った艶のあるスーツを着ていた。見るからに高級感があって、雰囲気といい威圧感といい、少し怖い。


 男の人の髪型や風貌も相まって、もはや裏社会の人間だと錯覚してしまう。


「那由さん、那由さんってもしや──」


 まずい、と思った。


 思わず口にしてしまった言葉で、那由さんは少し不機嫌な顔で僕を見た。


「ウチは“今はもう”普通の会社だから、勘違いしないで」


 茉姫奈に抱きつきながら、まるで茉姫奈を守る猫のように僕に向かって眼孔を鋭くする。


「う····うん、分かった」


「そんな心配すんな兄ちゃん! 血腥い事なんて過去も今も何にもあらへん!」


 あぁ、と少し分かってしまった気がした。


 客観的に見たら威圧感しか感じない僕を轢いた男は、指こそ全部残っているが手の甲からはびっしり入った刺青が見えた。


 あの時見えたものと同じだが、明るい時間帯で見てみると逆にそっちにしか目がいかなくなってしまう。


 急に引っ越した理由や、最初孤立気味だった理由、それを考えるのは、今更だし、野暮な気がしたからこれ以上考えるのはやめた。


「桜····いや、玲依」


 けど、何よりここに何故金城くんがいるのかが1番分からなかった。


 身長が高いのはそのままで、それ以上に前より筋骨隆々になった金城くんが僕の前に立った。


 前までは僕を苗字で呼んでたのに、名前で呼んでくれたことに少し驚いて身体が少し跳ねた。


「な、何かな」


 あの時から話していないし、何より気まずい。


 金城くんの方を見ようと思っても、僕は目を合わせる事が出来なかった。


「すまなかった。あの時から、ずっと、引き摺ってた」


 気まずかったのは、僕だけではなかったと思うと、少し嬉しくなった。


「もう気にしないで、金城くん」


「許して、くれるのか?」


「勿論だよ」


「良かったやんか! (がい)!」


 男は金城くんの肩を強く叩いて大きな声で笑った。


 ていうか、金城くんの名前って垓っていうのか。


 皆から名字でしか呼ばれてなかったから、彼の名前が知れたことに新鮮な気持ちになった。


「テツさん、暑苦しいっすよ」


「いいやないか、俺とお前さんの仲ってことで!」


「力強いんすよテツさん」


「兄ちゃん、過去は過去、今は今や。これからは垓と仲良くしてやってくれや」


 色が見えなくてもわかる。


 金城くんにはもう前のような狂気的な感情はなかった。不器用ながらにも優しさがあって、この人と出会って、那由さんと出会って更生したのだなと心から感じた。


「玲依君と茉姫奈の邪魔しちゃ悪いから、そろそろお参り行くよ、テツ、垓」


 那由さんがそう言うと、さっきまでの雰囲気が嘘のように無くなって、2人は那由さんの後をつけるように向かっていった。


「今行きますよお嬢! 俺が1番前や!」


「はいはい、垓、ほら早く!」


「那由、急ぎすぎだ」


 那由さんも金城くんの事を名前で呼んでいて、違和感しか無かった。


「那由っていつ金城と付き合ったのかな」


「あのテツさんって人が金城くんを付き人って言ってたから、それが理由じゃないのかな」


「いや、ほら見て」


 すこし遠くを見るような目で茉姫奈が2人の方を指を指すと、那由さんが金城くんの腕を手の甲で小突いて、金城くんは少しだけ短いような感じがする小指を差し出して、那由さんの小指だけを絡めた。


 2人はそのまま小指だけ繋いで、隣り合って歩いていた。


 僕から見たら、那由さんが右で、金城くんが左にいる。


「これは····愛だね!」


 茉姫奈が照れながら僕を見る。


 恥ずかしそうにしている茉姫奈を一瞥して、テツさんが先導してそのまま奥に歩いていく3人を見て、就中、那由さんと金城くんに少し違和感を感じた。


 それも小指を繋ぐところも1番根元まで小指を絡めて繋いでいて、よく見たら2人とも爪があるような長さをしていない。


 普通の人より、短い感じがしたのだ。


 同じ歩幅で歩き続けて少しずつ遠くなっていく2人を見て、僕はこの2人に言葉に言い表せない程の愛が芽生えたのだと、確信した。


 真意を聞こうとするのも違うし、僕が一瞬頭に過った事は茉姫奈に言わずに、自分の心の中に閉まっておこうと決めた。


「ねぇ玲依、色々ひと段落着いたし、いきなりだけど、これからどうしよっか」


 茉姫奈の言葉で我に返った。


 ここから、どうしようかと考えて、ふと行きたいと思ったところを思いついた。




「茉姫奈、ちょっと海に行かない?」


次で最終回です

最終回プラス、長いあとがきがあります

最後までお付き合い下さい

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