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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
最終章 僕がずっと死にたかったのは

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僕がずっと死にたかったのは・終

アンサー

 生命の価値は平等だ。


 どんな王様も、どんな偉い人間でも平等に生命には終わりが来る。それを自己嫌悪と境遇で生命を軽く見てしまうだけ。


 茉姫奈が教えてくれた。


 皆平等に幸せになれる権利があって、皆幸せになるために産まれてきた。


 茉姫奈が教えてくれた。


 君がが僕の事を頑張れ、ではなく頑張ったねって、認めてくれたから。


 やっと分かったんだ。


 きっと、茉姫奈も人生に幸せを感じていなかったのだろう、だから····僕も君も“幸せ”という言葉を使った記憶が無い。


『僕』の言葉と共に、思い出した。


 ずっと部屋の壁に張っていた張り紙。


 そこには、『幸せになる』とだけ書いてその言葉を呑み込まないまま生きてきた。


 幸せという言葉を漠然と書いて、幸せになろうと努力もしてこなかった。


 いや、その感情に気づかないフリをしてるだけだった。


 あの時、君と出会った瞬間から、ずっと幸せがそこにあったというのに、僕は幸せという感情の名前から逃げ続けていたんだ。


 茉姫奈、那由さんとの出会いが、閉じこもっていた僕に幸せというものを教えてくれた。



「僕も君も、幸せになる為に産まれてきたんだ。


 満たされるのと、幸せになるのは、きっと違う事だと僕は思うんだ。


 満たされるのは、一時的なもので、幸せは、壊れるきっかけがない限りずっと続くものだ。


 だから僕は、死にたかったんだって気づいたんだ。


 幸せっていう感情に名前をつけてこなかったから、ずっと僕も希死念慮を抱えて生きてきた」



 茉姫奈は、かなり混乱している様子だった。


 ハッとした様子で、屋上の柵に身体を預ける形で後ろに寄りかかった。


 ガシャン、と無機質な音が響いて、茉姫奈は俯いたままだった。


「だけど、僕はもう死にたくないんだ。


 死ぬのがもっと怖くなってしまったんだ。


 なぜなら、幸せというものを知ってしまったから。


 幸せになるってこういう事だったんだって感じてしまったから。


 そして、君に出逢ってしまったから、尚更生きたいって思うようになってしまったんだ。


 それこそ君と出会った時からきっと、幸せというものに溢れてた。


 あの時から、僕の中にある希死念慮はなくなっていってたんだって、今更気づいたんだ。


 君がいない世界なんて、僕はきっと耐えられない。


 いつか人は死ぬよ。


 けど、絶対に今じゃないと僕は思うんだ。


 あの世とか、死にたいとか関係ない。


 僕達は出逢えた、たったそれだけで僕は過去を全部帳消しに出来るんだ。


 そして君は、あの時ずっと待ってるって言った事があったよね。


 だけど気づいたんだ。待ってるだけじゃダメなんだって、自分から迎えに行かなきゃ、全部無駄になっちゃうって。


 だから言うよ、僕は──」




 感情が抑えられない。

 言葉が溢れて止まらない。

 僕は、本能のままに、茉姫奈へありのままの気持ちを叫んだ。




「僕は、君が好きだ!」




 言い切った時、僕は清々しかった。緊張なんて微塵も感じなかった。


 何か覚悟を決めた人間は、どんな状況でも自分の気持ちを貫き通せるんだと思った。


「大好きだ。


 愛してるって叫べるくらい好きだ。


 こんな感情初めてだったんだ。


 なんで、今更気づいちゃったんだって後悔してる。


 でも、僕が弱虫だからなんだ。


 気づかないフリをしてたんだ。


 分からないフリをしててごめん、分かろうとしてなくてごめん、君の大切な気持ちを踏みにじって、ずっと逃げてしまってごめん。


 だから、これからは君と一緒に手を繋ぎたい。


 どんな過去も、境遇も、引っ括めて一緒に愛し合っていきたいんだ。


 過去の僕は、幸せな人間が憎くてたまらなかった。


 でも、僕が虐げられているおかげで誰かが幸せなら、それでいいと思ってた。


 けど、違うんだ。


 僕は、幸せになりたい。


 その気持ちが溢れて止まらない。


 茉姫奈の様な、人の心に敏感で優しい人には、とてつもなく生きづらい世界かもしれない。


 だから、これからは僕が茉姫奈を守るから。


 もう、独りじゃないから。


 世界がどうとかなんて、もうどうでもいい。


 今は、今だけは那由さんとか、茉莉花さんとか、他の人は関係ない。


 今は僕たちの、僕たちだけの時間だから。


 僕は、君と一緒に生きたい。


 生きろって言っても、きっと死にたくなるだけだから。


 だからどうか、僕と一緒に生きて欲しい。


 その気持ちを、僕に預けて欲しい。


 幸せになる事をどうか怖がらないで欲しい。


 どれだけ惨めでも、生きてさえいれば、きっと最後は報われるはずだから。


 僕が君に救われたように、君の苦しみは僕が救いたい。


 だから気づいたんだ。


 やっと気づけたんだ。


 僕は、僕はきっと──!」


 茉姫奈は俯いたままだった。


 雪と夜の暗さで茉姫奈がどんな顔をしているか見えない、僕の言葉が茉姫奈の心に浸透しているのか、それとも弾き返されているのかどうかも分からなかった。


 今を抱きしめるように、ただ僕は言葉を紡ぐ。




「僕は、きっと····君と一緒にいることさえ出来たら、君と世界を生きれたら、それだけできっと笑顔で死ねる!」




 言い終えたところで、涙が出た。


 感情が止まらなくて、そのまま泣いてしまって、言葉が喉をつっかえて出なかった。


 絞り出そうとしても、声にならない声が屋上に響き渡って、そのまま消えていった。


「私はね、自分の人生なんて····どうでも良かったの」


 茉姫奈がやっと口を開いて、そのまま僕に向かって1歩だけ踏み出した。そのまま僕は、すこしぎょっとしてしまって、動くことが出来なかった。



「私は、ずっと死にたかった。


 どんなに生きても、満たされたら、希死念慮が大きくなってくばっかり。


 人生が、とてつもなく怖かった。


 でも、その気持ちを忘れさせてくれる存在が玲依だった。


 もちろん、那由だって、お母さんだってそう。


 2人は、とても大切な人。


 何にも変えれない、かけがえのない2人。


 でも、私にとって、玲依の存在が私の1番の生きる意味だったの。


 あの日、あの時····玲依が空は黒いって言ってくれて、なんか世界の本質に気づけた気がするんだ。


 理不尽で、綺麗なものばっかりじゃないんだって。


 けど、玲依の笑顔と言葉に、私はあの時からずっと玲依の事が好きなの。


 喜んで。


 怒って。


 哀しんで。


 楽しんで。


 無理をして世界を生きてた筈なのに、玲依といる時が、1番人間だった。


 那由も、お母さんも、今だけは関係ないって言ったよね?


 なら、全部関係なく言うね。


 さっきは、嘘ついた····ごめんね。


 玲依と居る時の感情は、偽物なんかじゃない。


 あの時の気持ちも、期間限定じゃない。


 ずっと、子供の頃から抱いた君への気持ちは、想いは何も変わってない。


 中学生の時、私が死のうとしたのは、虚無感もそうだけど、玲依と会えないことに、1番絶望しちゃってたから。


 その気持ちが二度と起きないように、自殺未遂の後、玲依の進学先を調べて、そこに決めたの。


 君の姿を見るだけで、生きる活力になった。


 それでも、同じ時間を過ごしてく上で、ずっと心の中で根付いてた希死念慮が邪魔をした。


 だから、玲依を救ったら、区切りのいい日に死のうと思ったの。


 けど、玲依の言葉で私、少し気が変わっちゃった。


 知りたくなっちゃった。


 もっと惨めな思いをしてまで。


 こんな理解されない思いをこれからもずっと抱え続けてまで。


 君と居られたら、どれだけ幸せになれるのだろうって。


 だから。


 教えてよ、玲依」



 僕もだよ。


 君じゃないとダメなんだ。


 君が教えてくれた幸せだから、君と分け合いたい。


 君の存在が僕にとっての光になっていた。


 君に教わった感情は、本物だ。




「玲依のそんな必死な顔みたら····わたしの希死念慮なんてどうでも良くなっちゃった」




 1歩ずつ、茉姫奈は僕の方へと近づいていく。


 彼女が佇んでいた柵から、僕の方に近づいた。


 真っ暗な死が離れて、満月が少しだけ眩しい生に近づいていく。


 それに随伴するように漂っていた虚無感の陽炎も、少しずつ茉姫奈の周りから剥がれていった。


「もし、わたしがまた死のうとしたら、玲依はどうする?」



 茉姫奈は僕にそう言った。

 僕は、即答で答えた。



「そうさせない為に、僕は君と結婚する」


 我ながら、答えの意味が分からないと思った。


「あははっ! やっぱり玲依は面白いなぁ」


 笑いながらそう言う茉姫奈を見ていると、視界が変形した。走り過ぎたことの疲労、そして車に轢かれてしまった時の痛みや衝撃が今になって来たのだろうと感じた。僕の身体が少しふらついて後ろに倒れそうになった時、茉姫奈に身体を抱きしめられた。


 僕もその勢いに任せて、茉姫奈の後ろに手を回す。


 そのまま2人でへたり込む形で抱きしめあって、数秒間は動かなかった。


 茉姫奈の身体は温かくて、安心した。


 その瞬間に、茉姫奈の死の感情が、僕の愛に負けた事を証明したと実感して、涙が出てきた。



 そして、茉姫奈の方に感覚を傾けると、茉姫奈も涙を流して嗚咽しているのに気がついた。


「わたし、まだ世界に期待してもいいのかなぁ? 生きててもいいのかなぁ? こんなに惨めで、狂ってるわたしなんかが、玲依と幸せになってもっ····いいのかなぁ····?」


 そんな事か、と思った。


 答えなんか、茉姫奈にその問いを言われる前から決まっていた。


「うん、一緒に幸せになろう。それに、君は狂ってなんかない、素敵な人だよ」


 茉姫奈は涙で嗚咽しながら、僕の背中をギュッと握った。


「····そうやって、強引になんでもわたしを肯定する所、ほんっとに嫌い」


「嘘だよ、本当のこと言って欲しい」


 茉姫奈は抱きしめあっていた顔を離して、涙でボロボロになった僕の顔を見て、恥ずかしそうにして笑った。


「うん、嘘。好き、全部好き····玲依の事、だいすき」


 それに、僕も笑顔で応えた。


「僕も、茉姫奈の事····愛してる」


 この気持ちは、永遠に変わらない。


 変わってたまるものか。


「その言葉は、玲依の“自分勝手”?」


「いや、“本心”だよ」


 そのまま茉姫奈とまた抱きしめ合った。


 茉姫奈の心を触れる事が出来て、茉姫奈を救うことが出来て、自分は初めて報われたなと思う。


 言い表せない程の歓喜が、僕の身体中を駆け巡って、触媒となって涙に変えていく。こんなに自分が涙を流した事が初めてで、戸惑いもある。


 ちっぽけで何も無かったはずの人間。

 そんな人間が、ここまでなれたんだ。


 僕が生きたいと思うようになった理由は、君がいるから。


 僕が生きようと思うようになった理由は、今····たった今見せたその心が、この世界の何よりも綺麗だったから。


 ただそれだけで、僕は前に進める、生きていける。


 その幸せを抱きしめて、僕は君とずっと生きていたい。


「好きだよ、茉姫奈」


「うん、わたしも······玲依」


 感情の赴くままに、僕らはずっと愛を言葉にしていった。


 遠くから聞こえて、徐々に近くなっていく救急車のサイレンを他所に、痛みも全部忘れて僕は、茉姫奈と永遠に抱きしめ合っていた。


次が終章、エピローグに入っていきます

よろしくお願いします

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