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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
最終章 僕がずっと死にたかったのは

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僕がずっと死にたかったのは・5

PlayerとPrayer

 生命は永遠に続く訳では無いし、死ぬのが何十年後とも決まっている訳でもない、だから僕の不注意だ。焦った末のミスであって、これが結局僕の運命なんだろうと確信した。


 ──ぇ。


 きっと、こうなったら僕も助からない。


 呑気に、天国なんてあるのかななんて考え始めていた。天国には茉姫奈が待っていたりするのかななんて思い始めていて、受け入れる準備は出来ていた。


 ──ねぇ。


 僕のためにボロボロになってでも一緒に居てくれた茉姫奈に合わす顔なんてないだろうな、なんて思った。


 これからどうしようか、なんて事も頭によぎる。




『──起きて!』




 突然耳元で叫ばれたような気がして、目が覚めた。


 目が覚めた先は、真っ白な空間で、夢でよく見る光景によく似ていた。


 死ぬ直前に巡る走馬灯····とも言い難い、こんな経験はない。


 目が覚めていたら、既に僕は立ったままの状態ですこし怪訝に思った。しっかり四肢が動くし、明晰夢と言われてもリアルすぎる。


 これは、臨死体験なのか?


『──ねぇ、僕の事、解るでしょ?』


 声の主の方に目を向けると、『誰か』が居た。


 でも、顔が見えない訳じゃない、ちゃんと顔も、髪も、モヤがかかっていないし全部見える。


「──君は····」



 理解が追いつかなかった。

 その姿は。その声は。




「──────僕?」




 中学生の僕の姿そのものだった。



『死ねよ』


 死ねよ、と言った瞬間に銀色を構えて僕に突進してくる、僕は驚いて『僕』を避けて、そのまま距離を取った。


 だけどそのまま体を捻って銀色を振り上げて僕の制服を切り裂いた。妙にリアルな感覚に焦って足が躓いて後ろに尻もちをついてしまった。


 そのまま『僕』は僕の腹の上に乗って銀色を振り上げて突き立てた。


 でも、突き立てた先は、僕の心臓や身体じゃなくて、僕の顔の真横の白い世界だった。


 なぜ僕を刺さなかったのかと、その光景に面食らっていたら、『僕』は僕の胸ぐらを掴んで、涙を流しながら叫び始めた。



『なんで、なんで····向き合おうとしないんだ!』



 言われた意味が不透明で、何を返事していいか分からずにそのまま黙り込んでいたら、『僕』が絞り出す様な叫び声で僕に叫んだ。


『君が、1番現実を見ようとしてないじゃないか! 彼女の気持ちも気付かないふりをして、人生を諦めて、何もかも決めつけてて! ──そんな僕は、そんな弱虫な君を1番······』


 そのまま『僕』は、僕の胸にしがみついて嘔吐(えず)きながら泣きじゃくった。


 あぁ、そうか。


 ずっと分からなかった理由が今になってわかった。


 いや、分かりたくなくて、分からないふりをしていた僕が、1番『僕』のいう現実というものを見ようとしていなかったのかもしれない。


 死んでからやっと分からない感情に名前が付いてしまって、なんて僕は愚かなんだと、何度も思った。


 僕が、そして『僕』も本当に殺したかったのは。


 そして、『僕』が僕を何度も何度も殺していた理由は、きっと。


「1番殺したかったのは、ずっと逃げてないようで逃げてばっかの僕だったんだね」


『····わかったなら、素直に認めてよ』


「認めても、無理なんだ。もう僕は死んだんだし」


 すると、『僕』は首を横に振った。


『いや、君は生きてる。君が生きたいと望めば、目は絶対に覚める』


「それでも、茉姫奈はきっと····」


『──そうやってひねくれるなよ。僕の言葉を信じてよ』


 そう言われると、思わず口を噤んでしまった。


 ひねくれる。


 素直で誰にでも優しかった僕の性格は、今ではねじ曲がってぐちゃぐちゃなものになってしまった。


 自分でもひねくれていると感じている。でも、もう自分の中で素直になるとは、相手からしたら“都合のいい人間”だと思うようになったからだ。


 それすらも自分の被害妄想で、きっと本当は違うっていうのは分かってる。でも過去の暴力に嫉妬、反抗期すらも許されずに『お前の為』だなんて言われても、蓋を開ければ本当の意味なんて『自分の為』で、自分の面子を汚さない為に僕をずっと虐げてきた。


 そう思えば、世界の仕組みも、人生も、全部他人のせいにもしたくなるなと思った。


『人生は、誰かに敷かれて歩いていくものじゃない。自分で切り開いて歩いていくものだよ』


 侮蔑を1番受けていた中学生の頃の『僕』がそう言っているからか、説得力が違った。


『素直になったら、人生も上手くいく。全部が全部素直に従えって言ってるわけじゃない、時には自分で違うなと思ったら理不尽に異を唱えたらいいんだよ。僕も君も、絶対に世界で1番ひねくれた。だから、それを自分で認めて、今度は自分が持ってたもの、持ってなかったもの、失くしたもの、欲しかったものを与えれるような人間になろうよ』


 言葉が心臓に刺さる。


 言ってるのが紛れもない『僕』だから。


『いつか絶対に人は死ぬ。僕も死ぬし、君も死ぬ。そして彼女も。けど今じゃないでしょ、今は生きてる。生きてるんだよ』


 ──お前みたいな、アンタみたいな子なんて、産まなければよかった。


 何度、その台詞を言われただろう。


 その言葉を漠然と受け止めて、絶望していた。


 ずっと、死にたいと思って生きていた。


 その理由も分からないまま。


 いや、本気で分かろうとしてなかっただけ。


『どんなに惨めでも、どんなに苦しくても、どんなにみっともなくても、生きてさえいれば、それでいいんだよ。きっと今死んでしまったら、君の全部が無駄になってしまう』


 胸が熱くなった。


 茉姫奈から感じた熱さとはまた違う、心が熱くなって、気を抜けば涙が出てしまいそうな熱さ。


 この熱さがまだのこっているのなら、自分はまだ生きる資格があるのかもしれないと思った。


 死んだように生きるのが正解の今の世界で、人々が現在進行形で病んでいく今の世界で、何が出来るのか──今はまだ手探りだけど、きっと見つかるはずだ。


 そして、生命を絶とうとしている大切な人をどうやって救えるのか。


 そうだね。


『僕』の言う通りだ。


 言葉に出さないだけで答えは、もうほぼ決まっていた。


『失いたくないでしょ? 今ここで死んだら、彼女の声も、記憶も全部消えるし、君の“目標”も達成出来ないまま終わっちゃうよ?』


 ふと、思い出した張り紙。


 机の壁に書いてあった、目標の張り紙。


 中学生の頃に書いたものだから、憎しみで精神がおかしくなっていて、とてつもなく字は殴り書きで、世間から見たらお世辞にも綺麗とは言えない。


 でも、僕から見たら、1番生命を感じている字だった。心の奥底から出た言葉だから、ずっと飾ってあった。


 いまは見てもすぐ忘れてしまう程に、気にしなくなっていた。


 こうやって『僕』が思い出させてくれて良かったと思う。


 ようやく分かったと思う。


 ずっと僕が死にたかった理由は、きっと。


『····やっと分かった?』


「──うん、分かった」


『口に出してみて?』


「それは、茉姫奈の前で言いたいから」


『まだ、生きたいでしょ?』


「······まだ生きたい。言ってない事が山ほどある」


『····それでいい。それでいいんだよ』


 そう言うと、『僕』は僕の方を遠くを見るような目で見て、笑った。


 自分で自分を見ることは出来ない、だから中学生の頃の『僕』の笑顔は、酷く眩しく見えた。


『玲依』


『僕』が僕の名前を呼んだ。


 少し驚いて、返事を出来なかった。


 そして、『僕』はゆっくりと口を開いて言った。




『素敵に生きろ』




 そう言うと、世界は徐々に暗くなって、真っ暗な静寂が訪れた。


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