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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
最終章 僕がずっと死にたかったのは

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僕がずっと死にたかったのは・4

川は海へとひろがる 人は死へと溢れる

やり尽くしたかって西陽が責めてくる

かなしみを金にして 怒りで花を咲かせて

その全てが愛に基づいて蠢いている

 本心で話した後の帰路は、少しだけ綺麗な息を吸えている気がしていた。なぜか清々しくて、自分の中で何かが固まった証拠でもあるのだろう。


 本当の茉姫奈を見つける。そして、僕の力で茉姫奈を救い出す。単純だけど、これが僕に与えられた使命のようなものだと感じていた。


 夜風が吹く街の景色は、僕からはとても退廃的に見えた。


 どんなに同じ景色を見上げて見て見ても、どこか寂しそうで、街の喧騒はどこか偽物の感じがする。マフラーをずらして口を出して大きく息を吸っても、街独特の息苦しさにすぐ咳が出た。


 携帯を見ると、もう七時前だった。


 那由さんのラインも未読にしたままだったし、那由さんの返信をしようと思った刹那に、携帯が鳴り出した。


 宛先は姉さんだった。


 僕は姉さんに何かあったのかと思って、急いで電話に出る。


「もしもし····姉さん、どうしたの?」


『玲依!』


 姉さんは心なしか、少し焦っているような声色だった。少し圧のある焦燥が電波越しからも伝わるような声、一体何があったのだと手から冷や汗が漏れた。


 姉さんは今、病状があまり良くなく、1日1日定期的に医者が見に来るほど衰弱している日とそうでない日が顕著に分かれているほど、姉さんの体調バランスが悪い。だから、電話をしてきた用件より先に、そんな声を出した姉さんの心配の方が勝ってしまった。


「姉さん、そんな大きな声出して大丈夫なの」


『そんな問題じゃないの! 茉姫奈ちゃんが····』


 茉姫奈の名前を出されて、心臓が跳ねた。


「茉姫奈が? どうかしたの?」






『茉姫奈ちゃん──これから自殺しに行くって』







 言霊は確実に存在する。


 何気ない言葉が、とある人にとってはとてつもない絶望に押し潰される言葉になったり、心臓が破裂するくらい鼓動を早くさせるようなナイフに変えていく。


 簡単な電波越しから流れた言葉も、言霊となり、理解し難い現実へと誘っていく····姉さんの言葉を聞いた数秒間は時が止まった感覚があった。


 だが、実際には時は止まっていないし、僕が放心状態で頭の理解が追いついていないだけなのだ。本当に人間は焦ると、鼓動が早くなるのと同時に指先までが心臓になったみたいに痛いくらい震えて動かなくなるし、全身から鳥肌が立って頭の中が失望感で埋め尽くされて何も考えられなくなってしまう。


 まさに今、僕はその状態に陥っていた。


 寒さも感じないし、息をしているのも分からなくなった。


 劈くような衝撃が、身体を貫いて、重すぎる言葉に言い表せることの出来ない何かが身体にのしかかっている感覚がした。もはやその数秒間のうちに、自分が上手く話せる人間なのかすら猜疑するくらいに。


「····なんで、姉さんに?」


 震える声で、姉さんに問い質した。


『理由は分からない。でも、最後の挨拶に来たって言ってそのまま····』


「どこに行くとも?」


『うん····教えてくれなかった』


「····なんで、今日なの?」


『······クリスマスイブ······なにか、茉姫奈ちゃんに意味がある日なのかも』


 ああ確かに、見たことがある。


 クリスマスイブは、世界で1番セックス多く、愛情、他人が愛情を確かめ合う日であると。


 クリスマスイブからの午後9時から実際のクリスマスの6時間にかけて性の6時間というものが存在し、その時間帯が世界で1番セックスが行われている時間であると。


 僕も嫌で仕方がなかったクリスマスの時期も、これも少し関係あるのかなと思った。


 そしてそれに比例して、世界で1番では無いけれど、自殺者が多くなる傾向もクリスマスイブにはあるそうだ。


 考えれば、単純な答えだった。


 その日に自殺する人の感情なんて、かなり絞られる。


 茉姫奈は、きっと。


「僕、行くよ」


『えっ?』


「茉姫奈を見つける」


『····もう、手遅れかもしれないよ?』


「それでも、一縷の可能性に縋れるなら」


 “かもしれない”は、手遅れだと決まった訳じゃない。


 まだ、間に合うなら。


 心にずっと溜まっていた燃料が少しずつ燃え上がっていく感覚がする。


 今なら、なんでも出来る気がした。


「茉姫奈を救えるのは、僕だけなんだ」


『····うん、ねぇ玲依』


「····何?」


『後悔ないようにね』


「うん、わかってる」


『私の事は心配しないで』


「········わかった」


 姉さんなりの1番の優しさだったんだろう。


 気がついた時には、自分から電話を切って、リュック道端に捨てて走り出していた。


 結露した息がマフラーを濡らして、気持ち悪くなってマフラーも投げ捨てる、重いはずの制服も、今はその重さも感じなかった。


 闇雲に走っているわけではなかった。茉姫奈を探しながら走っている訳じゃなかった。


 茉姫奈が向かっている場所は、多分分かった。


 だから、そこに向かって走り出している。


 この寒さで走るのは、運動なんてしてこなかった僕には、かなり堪えるものがあった。肩と鎖骨の間の中途半端な場所が傷んで、拍車をかけるように冬風を肺が取り込んで喉を凍らせていく。


 だけど、負けたくなかった。


 変な表現かもしれないけど、この程度の痛みで自分に屈したくなかった。1歩1歩踏み出す度に、死に向かって行く感覚が体を蝕んでいく。


 心臓の鼓動が身体全体に響いて、生命を少しずつ削っている音が煩いくらいに耳に入った。


 世界は、きっと何の為に僕がこんなに走っているかなんて気にしない、僕を覗く満月が嘲笑っているかのように明るく世界を照らして、少しずつだけど雪も降り出した。


 大粒の雪が、行き先を邪魔をするように僕を周りを覆う、コンクリートに横たわっている水分を含んだ雪が靴にこびり付いてすこし滑りかけた。


 だけど、すぐ体勢を立て直して走り出す。


 夢中で走っていたら、茉姫奈と帰った河川敷に居た。歩く事はしないでずっと走り続けて、河川敷で歩いて帰った茉姫奈との思い出を少しだけ思い出していた。


 綺麗なコンクリートの道も、辺りに生えていた綺麗な草原は、雪で白く染まっていた。


 息が詰まりそうで、1度大きく息を吐き出した。


 今思えば、茉姫奈や茉莉花さんの発言は変なものが多かったような気もする。




『君の名前って可愛いよね。レイレイよりやっぱり玲依の方がしっくりくるや』

 



『改めてこんにちは玲依君』




 茉姫奈は、僕の事を知っていながら、隠し続けていた。無論茉莉花さんも。


 気を使ってくれていたんだ。


 僕以上に死にたい気持ちを押さえ込んで僕に言葉を投げかけてくれて、その気持ちに気づくのも今になって遅すぎたのに、ずっと彼女は笑顔で居てくれた。


 傷ついているのは僕じゃなくて茉姫奈だったんだ。



 ──なんて、惨めなんだ。



 もういいだろう、と言わんばかりの眩い満月が笑う様に蠢いている。今この瞬間は、自分に介入する全てが鬱陶しく感じた。


 気を抜けば息が切れて、胃の中の物も、内蔵全部を吐き出してしまいそうなくらい苦しい。


 でも、それでも。


 茉姫奈を失いたくなかった。


 今ここで世界が終わるより、僕がもたついている内に茉姫奈が居なくなる方が僕にとっては、耐えられないことだった。


 こんな自分でも大切な存在と言ってくれた。体裁も、過去も、境遇も、全部とっぱらって本当の僕を見てくれた人は、姉さんを除いたら──彼女が初めてだった。


 だから、今は死んでも止まれない。



 いや、死んでたまるか。



 冬なのに汗が溢れ出て、血反吐を吐き出しそうなくらい口の中が血の味がする。


 ふと、雪が降り頻る河川敷の細い川に目線を変えた。


 河川敷の川も、結局は海に拡がっていく。人間も同じように、死という概念が海だったとしたら、ゆくゆくは人間も海に流れて、死で溢れかえる。


 結局そう決まってるけど、今は····今だけは。


 茉姫奈だけは、死から引きずり出したかった。


 必死に走り続けて、河川敷の突き当たりの道路を左に曲がって、信号がない交差点に入る。


 その入った瞬間に、自分に迫る光が見えた。




「───────あ······」




 それが車だと認識した瞬間に、疲労で動けなかったのか、受身を取ろうとせずに見つめるだけだった。


 刹那、鈍くて大きい音が響いて、僕の意識は真っ暗になった。


前書きは、大森靖子さんの『死神』という歌です

このシーンは死神という曲をイメージして書いています

サンプリングさせて頂いた感じですね

色々言語化するのは難しいですが、この絶妙な思想が自分の鬱時代に刺さりました

もっとこの曲が知れ渡って欲しい、この曲で救われた人も沢山いる、だからこの歌詞を前書きに掲載させて頂き、情景を浮かぶような文章にしました

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