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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
最終章 僕がずっと死にたかったのは

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僕がずっと死にたかったのは・2

ズレていく

 結局、昼くらいに来た茉姫奈の感情の色に変化はなく、呆気なく放課後を迎えてしまった。


 僕に挨拶をして、前の席にいるクラスメイト達と普通に話をして、午後の授業も何事もなく真面目に受けた。


 僕も、普通に学校生活を送れてはいる。


 あれから金城くんに絡まれる事は無くなったし、露骨に僕の事を避けるようになった。別にああいう事があったから僕自身も気まずいし、当人も関わりたくないのなら自然の結果だ。


 放課後の喧騒にざわめいている廊下で、金城くん達のグループと鉢合わせたが、金城くん当人は苦虫を噛み潰したような顔をして僕を無視して通り過ぎて、仲間も何かを察したのか僕の前から通り過ぎた。


 毎回····彼と通りすがる度に僕の鼻を突くキツい香水の香りは、少し──頭を痛くさせる。


 外はもう少しだけ薄暗くなっていて、冬は夏に比べて日が落ちる時間がとても早く、すぐ暗くなって街灯が雪に反射して美しい夜の街が出来上がる。


 今も例外ではなく、街中の街灯は全部点灯していて、人々の往来が目紛しい。


 茉姫奈はこれからバイトだって言っていたし、茉姫奈には内緒で彼女の家に向かおうとしている途中で、那由さんからメッセージが来た。


『那由:結局マッキーの家ってどんな家なの?』


 僕は少し考えた後に、僕は「普通の家だよ」と返信をした。


 すぐ既読がついて『普通って、つまんない』と返信が来たが、自分の言葉でどうやって表現したらいいのか分からないと、嘆息を零した。


 そのまま未読して、氷で固まった歩道を音楽を聴きながら歩いていく。冬靴を履いていても気を抜いたらすぐに転んでしまいそうで、制服とコートで厚着していても手や顔には容赦なく冷たい風が襲ってくる。


 流れてくる音楽で気を紛らわせてはいたけど、雪が降っていなくてもこの寒さだ。吹雪や豪雪の時などは、とても歩けたものじゃない。


 寒さに耐えるように足元ばっかり見ていたら、茉姫奈の家の前まで着いた。


 いつも通りの平屋の家で、木造でとても古い。何度見てもここに茉姫奈と茉莉花さんが住んでいるのが不思議なくらいだ。


 表札も何も書いていない平屋のインターホンを押して、数秒待つ。すぐに茉莉花さんの声が聞こえて、自分の名前を名乗った。


 ドアが横に開いて、茉莉花さんが出てくる。少し驚いたような顔をしていて、無理もないなと思った。


 何度か遊びに行かせてもらった時は茉姫奈と一緒だったし、僕1人だけで茉姫奈の家に行く事が初めてだったから。


「玲依君、珍しい。どうしたの?」


 急に自分の中で緊張感が張りつめて、言葉ひとつひとつが詰まりそうで怖かった。


「少し、聞きたいことがあるので、お邪魔させてもらっても良いですか?」


「勿論よ。あがって」


 家の中はあまり変わっていなかった。リビングには灯油のストーブが置かれていて、季節が変わった事を改めて認識させられた。


 茉莉花さんは手際よく暖かいお茶を出してくれた。コップから湯気が上がるお茶は、僕の身体を酷く温めていく。


 そのままテーブルを隔てた椅子に座らせられて、正面には茉莉花さんが僕の顔を覗き込むように見つめている。


「聞きたいことって、何かしら?」


 少し怪訝な顔で聞いた茉莉花さんの感情は、すこし白くモヤがかかっていて、僕に向けてる感情通りの色が出ていた。


 少し疑っているような、「何を聞くのだろう」という猜疑にも近い感情。


「あの····」


「······?」


「なんて言うか····」


 “そっちの意味”じゃなくて、多分、自分の中で人生でトップレベルで緊張していて、気を抜いたらお茶を持っている手が震えそうだった。


 ただ聞くだけなのに、こんなに緊張するのは何故なのか。


 こんなに自分の喉が詰まるだろうか。


 こんなに言葉が出なかった事があったろうか。


「聞きたいことがあるなら、ハッキリ言ってごらん?」


 コップから手を離して、膝に手を置いた。


 寒い訳では無い、だけど身体が震えるのを膝に手を置くことで必死に我慢していた。


 このまま言わないではぐらかして乗り切れば、何か変わるのだろうか。


 でも、それなら本当の茉姫奈を見つけられない。


 僕は、茉姫奈を知りたい。

 本当の茉姫奈を知りたい。


 そんな感情初めてだった。


 言わないと、ずっと後悔したままだ。


 言うのは一瞬だ。言わないで茉姫奈が遠くに行ってしまったら、一生惨めのまま業を背負って歩いていくしかなくなる。


 僕は、意を決して口を開いた。



「本当の、茉姫奈の事を知りたくて」



 すこし驚いたような顔をした後、茉莉花さんは目に少し涙を溜めて笑顔になった。


 何故か、僕の質問を望んでいたかのような。


「やっぱり、玲依君には茉姫奈の事は筒抜けなのかな? ····それとも、那由ちゃんに言われた?」


「····両方です。言われたのは那由さんですけど、改めて気が付いたのはある程度自分で」


「やっぱり、分かっちゃうものなのかな?」


「····いや、僕は」


「玲依君、着いてきて」



 茉莉花さんは立ち上がって、茉姫奈の部屋に向かっていった。僕も流れるままに茉莉花さんについて行った。



 いや、着いていくしかなかった。



 静かな空間で刻まれる足音のビートは、僕の鼓膜を突き破るくらい、頭の中で反響を繰り返していた。



 リビングの隣にある茉姫奈の部屋に移動して、茉莉花さんは本棚の白いカーテンに手を伸ばした。



 1番下の段にあった、白いカーテンで仕切られた場所、僕もあまり気に止めていなかったけれど、今思えば不自然だったような気もした。



 カーテンをゆっくり開けていく度に心臓が大きく跳ねていく。

 全部開けた時に、僕は思い知った。



 なぜ彼女が僕の気持ちを全て理解してくれていたのか、僕の穢れた感情を、大きすぎた負を全部受け入れる程の器があったのか。





 隠された本棚にあったのは、完全自殺マニュアルや、僕が持っていた死に関する本よりもっと上の希死念慮に対しての本、死についての哲学──全てが死に直結するものばかりだった。

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