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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
第3章 秋、絡繰

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秋、絡繰・2

生きる資格

 

 耐えられなくなった。


 僕も反論してしまう。


「それは絶対に違う、誰でも生きる資格は持ってて、生きる意味が無い人間なんて居ないよ」


「昔の玲依なら、きっとそんな言葉でなかったよ」


 待ってよ。


 そういうことじゃないでしょ。


「····そういうことじゃない」


「やっぱり、茉姫奈ちゃんがきっかけなのかな」


「····」


 姉さんの色は、死に対する恐怖の色が滲み出ていた。


 死にたくないと願うのに。


 生きる意味なんてないって。


 なんでそんな悲しい事言うんだよ。


 ていうか。


 僕も死にたかったよね。


 ずっとずっと、そう思いながら惨めに生きてきたよね。


 死にたいなんてほざいときながら、他人には死なないでって願うのは、中途半端な道化師と一緒だ。


 唇を噛み締めて、ベッドのシーツを握りしめて、永遠に僕の頭を渦巻くのは、矛盾したエゴと、漸次膨れ上がる自責の念。


「····死にたくないなら、なんで治そうとしなかったの」


「死ぬの怖いけど、私早く死にたかったんだ」


「どうして」


「最初からきっと人生が間違ってて、可愛い弟が出来たと思ったら、小学生くらいから虐待されるようになって、何回もそれについてお父さんとお母さんと言い合いしても、話にすらならなかった」


 僕と、思っているところはだいたい同じだった。


 姉さんはそのまま僕の感傷を他所に言葉を吐き続けていく。


「お母さんが鬱になって部屋に引こもるようになって、私が玲依にいろんなことさせたよね、結局全部お父さんに無理やりやめさせられて、玲依のことなんて尊重しなかった」


 俯いていた姉さんが、僕の方を向いて言う。


「玲依····気付いてないでしょ? お父さん、玲依にずっと嫉妬してたんだよ」


「····嫉妬?」


「うん、嫉妬。お母さんとお父さんって自分達が絶対だと思ってて、プライド高くて、全部自分が優れていないとダメな人じゃん」


 初耳だった。


 僕が覚えていないだけかもしれないけれど。


 でも、姉さんは僕以上に父の事は見ていた。だから姉さんの言った事が僕の中での正解だった。


「玲依って勉強教えなくても勉強が出来たり、教えてもいないのに絵のコンテストとか、作文コンクールで賞とかとったりして、お父さんはそれが嫌でたまらなかったんだよ····でも、何かお父さんはずっと前から玲依の事を怖がっているようにも見えてたけど」


 確かにあった。


 でも、最初から人が出来ないような事や、姉さんに紹介された習い事は、練習しなくてもある程度は出来た。


 特に絵だったり、文章を書くことだったり、芸術的な事は好きだった。


 勉強は、よく分からないけど、何故か答えが解けた。


 運動もそれなりにそつなくこなせた方ではあると思う。


「だからそれから玲依を守ってきたつもりだったんだけど、結局玲依は虐げられるばっかりで、私がここに産まれた意味ってなんだろうって思うようになっちゃって」


 なんでそこまで思っちゃうんだよ。


 そんなこと思うのは、僕だけでよかったのに。


「暴力が無くなっても玲依はお金貰う代わりにお父さん達に無視されるようになってさ」


「それでも、僕は──」


「──それがずっと続けば、私だって死にたくなるでしょ?」


 乾いた笑顔で言う姉さんからは、死の恐怖の色などは消えていた。


 私怨で家族を恨んで、僕はどうなってもいいのに、姉さんが先に壊れてしまった。


 そこからはもう、言わなくてもわかる。


 何処からか分からない相手からエイズを貰って、気付いていないフリをしていた。


 厳密に言うと、僕にバレないように。


「····茉姫奈ちゃんって、私みたいな匂いがたまにするんだよなぁ」


 急に口走った言葉で、僕は姉さんの方を見る。


 何が言いたいのかと思った。


「なんか、きっかけ1つですぐ壊れちゃいそうな感じ····もしかしたら、もう壊れる寸前なのかもしれない感じ」


 こんな僕を掬い上げてくれて、ここまで希望をくれた彼女が、壊れそう?


 そう思うと、何故か心が傷んだ気がした。


「だから、茉姫奈ちゃんは、大切にしないとダメだよ。あの子、ちゃんと玲依の事を大切に想ってくれてる」


「····うん」


 そんなに喋れるなら、エイズなんて嘘でしたって言ってよ。


 何もかも嘘で、ドッキリの類だったら、どんなに楽だろうかと、何度も思っている。


「茉姫奈ちゃんには言ってないの?」


「言えてない、毎日登下校してるけど、言うのが怖くて」


 きっかけをくれたのも茉姫奈だし、僕の事を好きと言ってくれたのも彼女だ。


 でも、姉さんが倒れて、事態が変わりすぎてその答えを言えていない。


 ハッキリ言えるほど、僕にも自信が無い。


 何故か彼女と気まずくなっている気がして、僕から喋りかけることは少なくなった。


 今でも思う。


 あの時は、僕が見た幻想なのではないか、と。





「──なに、それ」





 聞き覚えのある声が、個室に響き渡る。


 僕が、それを切り出す勇気が無い時でも、彼女の存在に固執して、心の中で求めていたのかもしれない。


 もし、彼女がここに居たらどれだけ姉さんの心は楽になるだろうって。


 君の存在がどれだけ眩しかったか。


 彼女の声が聞こえた瞬間に、僕は歓喜と、申し訳なさで俯いたままだった。


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