白き夏、黒き影・11
自我
茉姫奈の涙は、もはや僕が女性不信である事すらも忘れさせた。
自分の目で見た彼女の頬から零れる雫は、異常に遅く地面に落ちて、雫が音を立てて落ちるような、そんな音が聞こえた気がした。
「嘘、つけないよ」
横顔しか見えない茉姫奈の顔は、涙を浮かべたままの笑顔でそう言った。
「それは、1番····つけないよ」
手が震えていた。
どっちに対しての震えかどうか分からないけれど、暫くは手に力が入らない感覚があった。
するっと抜け落ちた様な、急に手に力が入らなくなる感覚。
淡白な表現かもしれない。
でも、そういう有り触れた言葉でしか今の僕を表現する事が出来なかった。
すると、那由さんに強く背中を叩かれる。
「行ってきなさい!」
行くしかない。
そう決意する。
僕の自分勝手。
茉姫奈を助けたい。
その気持ちがピークに達した時。
自然と足と手の震えは止まっていた。
僕は那由さんに言われるまま、全力でそこまで駆けて行く。
途中で金城くんは僕に気づいて、とてつもなく焦った顔をしていた。それに気を取られて茉姫奈を掴んでいた片方の手を外して僕のことを掴みにかかろうとした。
僕はその手を掴んで、手首を少し回して強めに握り締める。
金城くんはかなり悶絶していて、苦悶の声を上げて片膝をついた。
その時にはもう茉姫奈から完全に離れていて、茉姫奈も後退りながら「えっ? えっ?」って涙を流しながら困惑していた。
「····茉姫奈に謝って」
そう僕は言うと、彼は思いもしなかったことを言い始めた。
「なんの事だ! 俺は茉姫奈と──」
「そうシラを切ると思って、動画撮ってましたー」
スズさんが僕の後ろからすっと出てくる。
そしてスズさんは携帯の音量を最大に引き上げて、目の前で膝立ちになって僕に抑えられている金城くんに動画を大音量にして目の前で見せ始めた。
かなり酷い事をするなと思った。
普通映像や、音声だけでいいと思うのに、両方を見せるなんて──しかも、音量も金城くんの少し後ろにいるのにうるさいと感じるくらい大きく。
無理くり茉姫奈や那由さんとセックスをして、僕に対する暴行の宣言や、無理やり付き合わせようとさせた脅迫の内容、全てを飛ばし飛ばしだが会話の内容を見せていく。
最初から最後まで見られていたことを悟ったのか、僕の太ももをバックキックした。
太ももにかなり強く当たって、痛かった。
反応出来ずにすこし後ろに後ずさってそちらを見ると、彼の手がもう伸びていた。
青ざめた面持ちで、僕の手を自由だったもう片方の手で掴んで彼は、僕を激しく睨んだ。
「おい····お前、殺されたいのか?」
もはや逆上だった。
「彼女から、もう身を引くんだ。金城くん」
そう言うと、彼はもう片方の手を振り上げようとしていた。
一瞬でその腕に僕は手を伸ばして、振りあげようとした彼の手首を握り返す。
もう1回強く握ると、金城くんは、痛いのか顔を少し歪めた。
「駄目だよ。全部力で解決しようとしたら」
「うるせぇよ。お前が全部──」
「──これで分かったでしょ、金城」
那由さんが、毒のある感情で金城くんを読んだ。
僕は手を離す。
逆に握られていた手首を彼が離してくれた。
その瞬間に、金城くんは那由さんの方を見る。
「何がだよ」
「アンタがずっとストーカーみたいに粘着してたマッキーはアンタに微塵も興味がないの! だからもう二度とマッキーに近づかないで!」
彼女の叫びは、辺りの世界をしんとさせた。
金城くんは、顔中から冷や汗を垂らして口をパクパク動かして、何も訴えようとはしなかった。
「元々失望してたけど、もっと失望した」
彼の色は、ぐちゃぐちゃだった。
「ま、待ってくれ····」
「女の子を犯すとか言って、腹いせにレイ君も報復するって言うのは、言い逃れ出来ないよね?」
スズさんも追い打ちをかけるようにそう言った。
僕にヘイトは向いていないにしても、何故か僕にも言われているようにしか聞こえてたまらなかった。
なぜなら金城くんの真後ろにいるからだろうけど。
「ちがう、違うんだ」
茉姫奈が金城くんの眼前に出る。
その瞬間に、もう答えは決まっていたのだと思う。
「私、アンタの事──大っ嫌い」
次回が2章最終回です
よろしくお願いします




