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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
第2章 白き夏、黒き影

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白き夏、黒き影・10

覚悟と、言霊

 とてつもなく、嬉しかった。


 込み上げる何かが、溢れそうで怖かった。


 嘘偽りのない、正真正銘の言葉が、僕の身体に浸透して伝播する。

 それが熱になって込み上げて、今すぐ彼女の所に駆け寄りたかった。


 こんな感情初めてて、こんなにも嬉しいっていう感情が溢れるなんて。


 嬉しい事、というのは何回かはあったけれど──言葉で自分を肯定してくれるっていうのが、1番僕にとって救いのような物に近かったのかもしれなかった。


「アンタがそうやって、玲依に嫉妬してあることないこと陰口を言ってんのは、それはあんたが玲依よりよっぽど日陰にいて、玲依よりよっぽど後ろに立っているからでしょ!」


「──てめぇ茉姫奈、黙って聞いてれば好き勝手言いやがって····!」


「ほら、そうやって都合の悪いことは手出して解決しようとするじゃん!」


「んだと」


「図星じゃないなら、言い返してみなよ! 一番弱虫で、相手を認めれないダサい人間はアンタだよ!」


 そこから、しんとして少し静寂が流れる。


 その静寂を切り裂くように、金城くんは茉姫奈に言った。


「お前、桜山のことどう思ってんだ?」


「······えっ?」


 瞬間、金城くんが茉姫奈との距離を詰めて、片方の手首を手で抑えた。


 茉姫奈もそれに動揺したのか、一瞬で頭が冷えて恐怖の色で支配される。強く掴まれた手首は、茉姫奈が抵抗しても全く解けず、そのまま彼は茉姫奈の制服の襟を掴んだ。


 後ろの壁に勢いよく茉姫奈はぶつかって、鈍痛に堪えるように喘ぎを漏らした。


「あんなに啖呵切っといて、お前もそれ相応のことされる覚悟あんだろうな?」


 がっちり掴まれて、茉姫奈は苦しそうに抵抗しているが、金城くんも離れる気配がしなかった。


 なぜか、金城くんの方が息が荒くて。


「やめてっ····離して!」


 脳裏に浮かんで、思い出した出会いの日。


 悲鳴に近いその声が聞こえて、僕が彼女を助けた時、ほとんど同じ言葉を発していた。


 自分勝手──緊迫した今の状況でも、彼女が教えてくれた意思が僕の原動力になった。


 別に、今に至るまで自分勝手で何かをしたことは無いし、あの時だけだと思っていた。


 自分勝手と言って、お互いがお互いの事を助け合って、出来た友情に近い何か。


 何故か、二度とこの声は聞きたくなかった。


 傷つくような姿も想像したくなかった。


 自分勝手の考えだけど。


 ──ほら、また出た。自分勝手。


 自分勝手に何かをしたら、圧力で全部抑圧されて、虐げられて、無意味だ無意味だと声を揃えて歌いたがる人間とは違って、彼女は彼女の、そして僕の自分勝手を赦してくれた。


 それが僕の生きる道の救いになっているかどうかは分からない。

 でも、僕はわかる。


 でも、生きる意味····それを教えてくれたのは──確かに茉姫奈だと。


 ありふれた日々を教えてくれて、彼女も探しているありふれた幸せを教えてくれて。

 足りない僕の頭でもたどり着いた結論だった。


 ただの偶然だったのかもしれない。


 僕が彼女がいる日に休んで、彼女が僕のいる日にたまたま休んでいただけなのかもしれないけど。


 でも彼女は、今、僕の事を守る為に抵抗している。


 自分はどうなってもいいと、そう思っていた。


 断言出来る。


 なぜなら、後悔の色は見えなかった。


 何かあっても大丈夫な覚悟がある気がした。


 何故か、いつでも死ねるような覚悟があるような。


 何故か僕の考えている希死念慮を全て理解してくれて、その死に対する考えを僕以上に持っていたりしたのは····それ程彼女は後悔しないように生きているからだろうか。


 生きる理由を何も見えない道で探している自分が、それこそ馬鹿みたいだ。


 死にたいと言って生きている僕が、酷く惨めに感じた。


 もうこれ以上惨めになりたくないと思った。

 でも、何故かその時にも思い浮かんだのは。


 日常的に僕に見せてくれた彼女のありふれた笑顔だった。


「今! ····お前をこの場でレイプして、俺の連れに桜山を呼び出させて、お前がレイプされている所を見せながらボコボコにしてやってもいいんだぜ!? ここなんて誰も来ねえからよ!」


 言ってしまった、最悪の言葉。

 もはや脅迫だった。

 彼の欲の色が一層濃くなった気がした。

 やはり、それが彼の本当の目的だった。


 分かっていたけど、口に出されて、言葉にされたらその重みと絶望感が、圧倒的に違かった。


 一気に血の気が引いて、冷や汗が頬を冷たく伝う。


「嫌だろ? でもどうせこんな格好してるからビッチには変わりねえだろうけど、アイツがボコボコにされる所を想像したくねえだろ?」


「······」


「なんでお前みたいなギャルが、陰キャのアイツと仲良くしてんだよ」


「····全部、私の勝手でしょ」


 違う。

 違うよ。


 ねえ、金城くん。

 全部間違ってるよ。


 茉姫奈は、そんな軽薄な人間じゃない。


 僕の姉さんの事で顔を真っ赤に出来る程純粋で、真っ直ぐな感受性を持っている人間。


 心がとてつもなく綺麗で、そよ風のような、暖かい優しさを持っていて、それ故に言いたいことをハッキリ言える強さを持っている。


 金城くんは襟から茉姫奈胸ぐらを掴んで、太ももに手を回し始めた。


「····っ」


 茉姫奈は顔を青くしながら、力ない睥睨を金城くんに向けた。


 それを見て、吐き気がした。


 やめろ。

 茉姫奈に触れるな、って。

 そう、思った。



「そうだ、那由も呼んでやろうか? 2人して俺らにレイプされてる所を桜山に見せてやってもいいんだぜ?」



「····」


「ほら、なんか言えよ! ····そうだ。今ここでアイツの事嫌いって言えよ。そんで俺と付き合うって言ったら今の事全部にチャラにしてやるからさ」


 彼も、相当焦っているんだろう。


 早く茉姫奈を自分のものにしたくて、その為には手段すら厭わないような、そんな人間。


「······」


「言えよ! めちゃめちゃにされたくないなら! ほらっ!」


 凄い剣幕だ。


 こちらから見ても痺れる様な雰囲気だった。


 彼の圧力と、その行為に対する恐怖で形成が逆転された茉姫奈は、震えながら口をパクパクしていた。


 声も上手く出せないくらいに彼に支配されているのを見て、もう耐えられなかった。


 立ち上がろうとした時に那由さんに止められて、首を横に振られた。


「どうして──」


「多分まだ。我慢して──私が押したらそっち行ってあげて」


「でも──」


「信じて」


 唇を噛み締める。


 今は、那由さんを信じるしか無かった。


 ここには金城くんと茉姫奈と、部外者は僕と那由さんとスズさんしか居ない。


 5人だけの殺伐とした世界で、茉姫奈は戦っている。


 そこで信用できるのは、後者の3人だけ。


 スズさんはカメラを回して、そのレンズの先を永遠に見つめている。


 美化されているレンズの奥に見えるものは良く写りが汚く見えたり、偽りに見えたりするけど、確実に今携帯のレンズが映しているのは、人間の汚い本性、嫉妬、本能、強欲。


 美化しなくても、否応なしに汚く見えるものばかりが映っていた。


「ほら、 さあ言えよ! ほんとに襲っちまうぞ!?」


 怒号に近い金城くんの声が耳を劈く。


 耳鳴りがしそうなくらい大きな声で叫んだせいか、それを目の前で聞かされた茉姫奈の身体は少し震えながら跳ねた。


 そして、茉姫奈はゆっくり口を開いた。




「·········嫌い」




 すると、茉姫奈の目からは涙が溢れて、頬を伝って落ちていく。

 人間が作り出せる唯一の海、それが溢れて、洪水となり止まらなくなっていた。


 夕日に照らされて輝いた透明の雫は、止まることは無かった。


 茉姫奈が少しずつ声を上げて嗚咽を始めて、金城くんも行き場の無い獣のような感情に顔を歪め始めた。




「····大嫌い」




 その言葉を聞いて、すこし心臓が跳ねた。

 何故か、愕然とした気分にさせられる。


 言わされているのはわかっている。


 だけど──。

 それでも、胸が痛い。

 何故だろう。


 なぜ、胸が痛い?

 すると、か細い声で泣きじゃくる茉姫奈は、絞り出す様な声で、告げるように言った。




「······うそ、」




 どくん、と。



「············ぜんぶ、うそ」



 あぁ。


 まずいな、と思ってしまった。


 時間が、止まった気がした。


 聞こえていた木々が揺れる音も、心臓の音も、2人の呼吸も、茉姫奈の声も、金城くんの息の荒さも、全てが聞こえなくなった。


 微かに聞こえる放課後の喧騒も、全てが掻き消されて、僕も身体を動かすのも、息すらも一瞬忘れていた気がする。


 彼女の瞳と、涙だけが僕の目に映っていて、優しい赤い光に差し込まれた茶色い瞳と、その涙は。





「──だいすき」





 今までの人生で見たモノの中で、1番綺麗だった。


ずっと書きたかった名シーンです

これは自分でも書いててドキドキしてました

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