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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
第2章 白き夏、黒き影

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白き夏、黒き影・9

本物

 考えただけでもゾッとした。


 もし、スズさんがその話に聞き耳を立てていなかったら、茉姫奈の全てが壊されていた可能性があったと思うと、鳥肌が立って今以上に足が震えそうで怖かった。


「それでもマッキーが抵抗するなら、電話してみんな呼ぶって言ってて」


「····それは、本当に言ってたの?」


 信じがたくて、聞き返してしまった。


「言ってた。今ここに2人がいることが1番の証明になると思う」


「──那由さん····」


「分かってる。玲依····分かってるから」


 彼女の感情は、憎悪に燃えていて、濃く見えるくらいに赤黒いドスの効いた色が那由さんの周りを取り巻いていた。


 いつもは玲依君と君をつけるのに、本能的に呼び捨てにしてしまう程、那由さんも頭に血が上っている。


 僕も、那由さんのこんな姿を見るのは初めて見た。あの時僕にみせた怒りの色は、哀しみや、僕の惨めな人生に対する寂寞も混ざっていたと、那由さんと関わる日々の中で気づいてはいた。


 時には冷静に的確な意見をくれる理性的な彼女が、今は怒りで感情を塗りつぶしていた。


「なぁ、頼むよ。ずっと言ってるだろ」


 金城くんの声が、やけに僕の耳に通った気がした。


「去年からずっと言ってるじゃねえか」


「私は興味ないって言ってるでしょ」


「そんなこと言わずによぉー、呑んでくれよ」


「嫌だ」


 静謐な空間に茉姫奈と金城くんの声が反響しては消える。それの繰り返しだった。


「なんで、この状況なのにお前はそんな強情でいれるんだよ」


「ずっと前から嫌だって言ってる! アンタだって、那由にも言われてたんじゃないの?」


「俺も今日は引かねえからな。那由もいねえし」


「勝手にしたら?」


 茉姫奈は強気な相手には強気に出る人なんだと思った。ずっと優しい彼女しか見ていなかっただろうか、芯の強さというか、ちゃんと信念は持っているのが感じ取れた。


「おい」


「····何」


「なんで俺にしねえの?」


「わ····私はアンタのことが好きじゃない、それだけ。何回も言ってる」


 よく見てみると、茉姫奈の足は震えている。


 何かされるかもしれない。


 乱暴されるかもしれない。


 もしかしたら、それ以上。


 その恐怖と戦いながら、今すぐ逃げ出したい気持ちを抑えながら、茉姫奈は真っ直ぐにぶつかっている。


 何度も考えてしまう。


 その考えが脳を焦がすくらい巡っては消える。


 でも、茉姫奈は僕達がいることは知らない。


 スズさんがあの時偶然居なかったら。


 多分茉姫奈は。


 心臓の音がうるさくて、彼らの会話に聞こえない。


 緊張と、最悪のケースが頭をよぎって冷や汗が垂れる。


「マッキー····いや、茉姫奈。なんでお前はよ」


 そのまま──恍惚に満ちた顔で金城くんは茉姫奈に言い放った。



「桜山みたいなクソだせぇ陰キャと一緒に居るんだよ」



 彼は、そこからタガが外れたように僕の悪口を吐いていく。


 いっそここまで来たら清々しいくらいだった。


 彼からは、噎せるくらいの嫉妬と、焦りと、嫌らしさと、茉姫奈に対する欲に満ちた色をしていたから。


「くだらねぇ人間、くだらねぇ人生、きっとあいつの為にそんな言葉はあるようなもんだろ」


「だせぇ以外の言葉しか言う事ねぇだろ、それよりイケててあいつより断然かっけえ俺と付き合えよ」


「俺はあんなだせぇ人間じゃねえし、あんな人間になるくらいなら死んだ方がマシだ」


「だって知ってるだろ? あいつの家死ぬ程金持ちらしいんだよ。絶対お前もそれ目当てだろ? アイツをカモれるだけカモってさ、最後は捨ててやろうぜ。そうだろ? 結局はお前も俺に惚れんだからよ、だから俺と付き合えよ茉姫奈!」


 吐けるだけ吐き出して、静寂が辺りを包む。


 僕も、金城くんの毒を飲み込んで、その通りだなと感じてしまう部分もあったのが、嫌だった。


 確かに、僕は彼よりもかっこいい人間ではない。彼が動いている感情が僕や那由さんに対する嫉妬とはいえ、それは切に感じる事だ。──人を選んでいる訳では無い、でも図星で、今この場に僕が居ても、言い返せる勇気がなかった。


 彼女と彼を第三者として俯瞰してみても、彼らには華があって、茉姫奈の意思はともかく、付き合ったら目立つだろう。


 だけど、茉姫奈は完全に拒絶していて、でもその拒絶と随伴するように彼女の身体は酷く震えている。


「おい、なんでお前震えてんだよ」


 茉姫奈の震えた手首を西村くんが掴んだ。


 茉姫奈は反射的に手を振り払って、距離をとる。


「やめて、触らないで」


 睥睨する瞳と、取り巻く感情はやけに恐怖と何かを悟っている色で。


 恐怖の中にも、何か肝が座っていた。


「怖いなら、さっさと受け入れろよ、茉姫奈」


「······」


 近づいてくる嫉妬。


「あんなだせぇ奴に執着すんなって。お前は俺と──」


 刹那、茉姫奈は金城くんの体を両手で力強く押して、西村くんは少し体制を崩して声を荒らげた。


「てめぇ····!」


 しかし。


「──アンタに何がわかるの!? 玲依の心も、那由の本心も、私の気持ちも!」


 彼女も声を荒らげて、金城くんを圧倒する。


「自己中心的な言葉と、玲依を貶めて私がアンタと付き合おうって思うと思った?」


 金城くんは面食らった様な顔で茉姫奈を見ていた。


 僕も角の所で見ていたけれど、彼女がこんなにも大きい声を出して怒りを顕にしていたのは初めて見た気がした。


 いつの間にか茉姫奈からは恐怖を塗り潰すくらいの怒りの色が浮き出ていた。


 このタイミングで、那由さんは携帯を取り出して握りしめた。スズさんはもう奥の2人にバレないように携帯のカメラを回していたみたいで、僕と目が合って軽めのアイコンタクトを取ってきた。


 僕は····ただ息を呑みながら見つめていた。


「そうやってさ、自分の価値観で人を測るなよ!」


「おい、茉姫奈──」


「そんなさ、どんな気持ちで玲依もお金持ちの家で生まれたか分からないじゃん、表面的な言葉と偏見で決めつけて、自分が上に立ったとでも思ったつもり?」


 慟哭にも近い何か。


「ずっと人見下してさ、私と付き合いたいのだって結局は見栄えでしょ? 本気で私の事が好きなら、他人を引き合いに出してダサいなんて言わないでしょ! 価値だけに囚われてブランド物に群がる中身がない奴らと一緒!」


 自分を守る為に声を出しているのもあるだろうし、怒りに任せているのもあるだろう。


「言ってる内容も全部玲依の嫉妬してばっかでさ! あることない事流してたのもアンタでしょ! ······だから、女々しいアンタに教えてあげる」


 でも、彼女の周りからは、嘘の色が見えなかった。


 全部が本当の、純粋な言霊。




 それが。



 それがなぜだか。




「誰かがカッコイイとか、誰かがダサいっていう薄っぺらいその言葉で人の価値を勝手に決めるアンタがいっちばんダサい!」




 とてつもなく、嬉しかった。

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