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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
第2章 白き夏、黒き影

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白き夏、黒き影・5

自我

 桜が散り、少し気温も上がって来た頃。


 新学期が始まってから、2ヶ月半が経った。


 今でも那由さんと茉姫奈と3人で登下校を一緒にしていて、僕の家が丁度那由さんと茉姫奈がばったり会う所だったからか、毎日同じ時間に僕の家の前で待ち合わせして、学校にそのまま行っていた。


 一緒に学校に行くようになったその日に、ラインで3人のグループも作られてしまい、とうとう誤魔化しが効かなくなったと感じたのを覚えている。


 それまでは毎日イヤホンを着けて、現実から逃避していた僕が、数奇な運命かもしれないけど、毛嫌いしていた女性という人種と、こうやって一緒に学校に行くという状況には、改めて驚かされる。


「玲依、おはよう!」


 よく通る声が耳に入り、声の方向を向いた。


 少し着崩した制服を着て、変わらずの髪色、メイクはしないと言っていたが、メイクをした様な顔立ち。


 変わったはずなのに変わらない日常が流れていて。それこそ夢みたいな話だ。


 ずっと描いてきたのは、この様な普通の生活だった。描いても妄想で終わる事ばっかりな人生に、少し色がつき始めた。


 僕は、その世界に順応するかのように、彼女の挨拶に応えた。


「おはよう」


 茉姫奈がすぐそばまで来て、僕の肩を叩いた。


「待った?」


「待ってた、かな」


「もう少し早く行けたら、驚かせたかな」


「そんなことで驚いたりはしないよ」


「でもいつも私、那由より遅いからさ、成長したと思わない?」


「まあ、そうだね」


「そうだねって、もうちょっと褒めてくれてもいいのに」


 そう苦笑しながら言う茉姫奈。そこに介入する形で那由さんが待ち合わせ場所に到着した。


 茉姫奈の後ろから来ているはずなのに、茉姫奈は足音か気配か何かでいち早く気付いて、那由さんの方向に向かっていく。


 ブレザーの制服を揺らして話す2人は、僕には少し眩しすぎた。


「玲依、行こっ」


「うん」


 見慣れている光景なのに、まだ自分自身で幻を見ているのでは無いのかと錯覚してしまう。


 僕が女性と一緒に時間を過ごしている。


 でも他の人に話し掛けられたら気持ち悪い感覚になるのはまだ変わらず、やはり僕の中でこの2人には心を少しばかり許しているのかな、と思った。


「玲依君、すこし変わったよね」


 と、那由さんに唐突に言われた。


「え? ······そうかな」


「うん、すこし柔らかくなったって言うか、何か遠くを見るような事が無くなった」


「確かに!」


「そんな過剰に反応することかな」


「そんな小さな事だからこそだよ!」


「····なるほど?」


「あと、ずっと考え事してる様な表情も少なくなったよね」


「マッキーそれ私も言おうとしてた」


「だよね! 那由はよく人の事見てるねぇ」


 後、僕自身の中ですこし変化があった。


 毎日の様に見ていた殺される夢を2人と一緒に行動を共にした次の日から見なくなった。


 悪夢ではなく、普通の夢を見るようになって、感覚的に苦しい思いをせずに寝れるようになった。


 だけど、たまに僕を殺していた人が、夢に出ることがある。


 目の前に僕の前に現れて、何か言っている所で毎回終わるのだ。


 その場面が一気に切り替わって現実へと覚めていく。


 別に、夢など自分の考えている事や、深層心理の具現化にしか過ぎないし、そういうスピリチュアル的なものは、あまり信じてはいなかった。


 本を読んでいるから、その様な陰謀論や仮説などは嫌でも目に入るが、それは1種のエンターテインメントとしてしか僕は見ていない。


「まぁ、僕は元々こういうコミュニケーションを取るような人間でもないから」


「これから取っていけばいいんだよ」


「そうそう、玲依君も、やっと前みたいな危なっかしさが薄れてきたからさ」


 危なっかしさと言われて、僕は確かにそうだなと思ってしまった。

 過去を思い出しても何もならないけれど、ずっと消えたいと思っていた僕でも、ここまで今日を変えられた。


 春までのように、昨日も明日も同じ日々を過ごしていた自分を、立ち止まっていた自分を、弱さを認めて少しずつ歩き出せてきた気がしたから。


「····ありえないと思うけど、悪夢じゃない、普通の夢を見れるようになってきたんだ。そういう類のモノはあまり信じていなかったんだけど」


 だけど、“あまり”と言うのには理由があった。


 それはやはり、僕だけに相手の様々な感情や考えが色になって見える事だった。



 何かきっかけがあったと言われても、よく分からない、突然見えるようになったからだ。


 それが見えるようになったのは小学生低学年の時、授業中にふと空を見てみると、真っ黒な空だった。“黒い蒼穹”がずっと続いていて、何故だか分からないけれど、空が死にそうで、泣いているような感じがした。


 でも日差しはあって、窓からは煌々とした光が僕に刺すように照らしていて。


 その時の僕は活発で、今のように自分を閉ざしてはいなかった。興奮と不安でいてもたってもいられなくなった僕は自由帳で真っ黒な空を書いて隣の人に見せた。


 今思えば、本当は嫌な顔をされながら「何を言っているんだ」と言われるようなシチュエーションだ。


 その人はすこし凝視したまま、「私は青く見えるけど、レイには、その空は黒く見えるんだね」と微笑みながら言われた。


 本当に黒いのに、と僕は思いもう一度空を見た。


 黒かった。本当に黒かったんだ。


 でも、知っていた。あの空は本当は青いんだって。


 天変地異でもないし、空は泣いているはずなんて無かった。


 黒い空は僕が瞬きを暫くすると徐々に青色に戻って、何事も無かったかのように動き出して、青を紡いだ。


 隣の子は、それでも「レイがそう見えてるのなら、きっと本当はそうなのかもね」と何故か肯定してくれた。


 その子と一瞬目が合って、その子ははにかんで、明るい色を淡く放った。


 その時、その色はその人が感情を持っているかとかだと分かった。

 その子とはすぐにてクラス替えで離れ離れになってしまったし、昔の事だからか、名前すら、顔すらも覚えてない。


 ただそのきっかけの記憶が断片的に残っているだけだった。


 その子が出した色の後は、色を知れば知る程、知りたくない事ばかりが降り掛かったが。



 2人をよく見ると、出会った時からずっと変わらない色をしている。幸せな色、感情が溢れていて、変わらぬ日常も幸せと確信している2人。


 何より、そこにこんな僕がいてもいいのか、とまで思ってしまう。

 学校でも、彼女達に比べたら僕は空気に等しく、学校内で誰とも話すこともなければ、茉姫奈と那由さんは色んな人と会話をしていて、時には男子とも会話をしている。


 僕は2人に話しかけられてやっと話せるくらいだ。


 3人で通学路を歩いている時も、この様にずっと同じことを考えている。


「茉姫奈達はさ、僕みたいな考えになったことは無いのかなって唐突に思っちゃったんだけど、どうなの?」


 僕みたいな考え、と言っても抽象的すぎて言った僕自身もあまり的を得てない発言だなと思い申し訳なく思った。


 僕みたいな考え、といっても女性不信や、死にたいと思ってしまう感情、言い出したらキリがないなと思った。


「んー······玲依が言ってるのは境遇とか、やられてきた事が重なって死にたいと思ってても死ねないっていう考え方かなって思っちゃったんだけど」


「あ、それ私も思った」


「やっぱり私たち以心伝心だね」


「····そのやり取り、ほとんど毎日見てる気がするんだけど····流石に飽きてくるよ」


「不満?」


「そういう訳じゃないけど、そのやり取りを毎回されると見飽きるというか」


「まあ····私たち可愛いし玲依としても眼福じゃない?」


 自信たっぷりの顔でそう言う茉姫奈だが、確かにそう自信を持って言われてもあまり反論出来ないくらいの顔立ちはしていた。

 茉姫奈も、那由さんも顔はいい。


 どれだけ僕が悪い所を見つけようとしても見つけられないくらいだ。


「んー、玲依のその心情は分からなくもない!」


 一瞬、茉姫奈の周りにモヤのような、透明な陽炎のようなものが見えた。


 僕は初めて見たそれに対して、特に意味は無いだろうと思い、茉姫奈の言葉に返答をする。


「····相当ふわっとしてるね」


「んーじゃあ、生きる事ってどういう事だと思う?」


 急に僕の質問と同等の難しさの質問を返されて、返事に困って少し狼狽してしまった。


 でも、自分の考えている事を口にすればいい。


 少し黙り込んだまま、僕は思った事を口に出した。

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