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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
第2章 白き夏、黒き影

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白き夏、黒き影・6

抒情

「その言葉の通りに、人生を送ること。僕の場合は、意味もない人生だろうと思ってたけど、最近は違うように感じてる····それが何なのかは、まだ分からないけど」


 哲学的な問題だ。


 人それぞれその生きる事について考え方は違うと思うし、多種多様な考え方が存在していると思う。


 だが、僕の言った生きる事と、茉姫奈が思っている生きる事は必ず違う。それが同じ人という人は居ないだろう。大枠は合っているかもしれないけれど、細かい所を見ていくと違っていたり、全てがあっていることなんて天文学的な確率だ。


 僕のようにずっと死にたい、消えたい、でも死にたくないという矛盾した感情が、その生きる上でずっと付き纏っていたり、あの2人のように過去や現状、境遇と向き合って、それを乗り越えて今を生きている人もいる。


 那由さんや茉姫奈が僕の世界を少しでも変えるきっかけになったのは、その2人が生きる事について僕以上に考えていたからだ。


「じゃあ、質問を変えるかな。なんで人は死にたいって思って、結局死を選んじゃうんだと思う?」


 それは、恐らく単純かつ簡単な答えだ。


「····死にたいから、なんじゃないかな」


「まあそれはそうなんだけど、それをもっと敷衍して言って欲しいな」


 その理由を敷衍した所で、その死んだ人の理由は死んだ人にしか分からないし、筆者の考えを予想する事が出来ないようにに、死を選んでしまう人の気持ちがあまり分からなかった。


 僕は、色々なことが重なってそう思うようになったし、あの頃の僕は、多分何かと死にたいという感情に理由をつけたがっていた。


 前までは毎日死について考えたり、生きる事とか、それこそ那由さんに死んではいけないと忠告をされたし。


 その時自分は····生きる術を考えた所で、僕には道標にすらならない事だ、と蓋をして、灰被りのシンデレラの様に塞ぎ込んだ。


 勇気もなくて、死ねるはずなんて無いのに。


「····ごめん、分からない」


 僕は、チラッと茉姫奈の方を見て謝る。


 茉姫奈は、心で訴えかけるような目をしていた。


「いいんだよ。気にしないでよ····多分ね、本気で死にたいとか、本気で追い込まれてる人って、簡単な事で死にたくなると思うの、少し躓いたりしたら死にたくなるし、ごめんねって言ったら死にたくなるし、ただ自分の物が落ちたり、他にも色々あると思うけど、でも多分、そういう理由で死んだ人も沢山いると思う」


 かなりリリシズムに偏った回答だと感じた。


 まあそれもそうかと、僕はすぐ納得する。


 僕達の通っている高校では死について深く考える講演会や授業なども実施されていたり、授業の一環で倫理のコマも組み込まれていた。


 付近の高校と比べると偏差値はかなり高い方であり、それに随伴して茉姫奈もギャルの格好をしているが、茉姫奈自身もかなり頭がいい。


 遊んでそうな格好をしているが普段は真面目に勉強していて、それ故にこのような、適当ではない、真面目な答えを導き出せる人間だと僕は思った。


「やっぱり、頭いいね」


「授業はちゃんと受けてるからねぇ、こんな格好だけど」


 突然、誰かの携帯が鳴って、音の方向的に僕の携帯ではないのはわかった。


 茉姫奈が目配せして、那由さんが携帯を見て確認をする。


 すると、突然那由さんは「あー!」と大きな声を上げて、急いだ様に僕と茉姫奈に言う。


「あーごめん! 今日日直なの忘れてた、私もう走っていくから後でね!」


 そう言いながら、那由さんは僕たちのあとを去っていった。漸次遠くなるその背中を見て、茉姫奈に少し、頬を膨らませながら僕の制服の裾を引っ張ってきて、僕も歩き出す。


 意識していなかった事が情報として僕のもとに入ってくる──やけに、日差しが強くて、あまり暑くは無いのに初夏のような日差しにジリジリ照らされている。もう散っている桜の木を見て、もう季節は移ろっていくと改めて実感した。


「····話の、続きしてもいい?」


「うん、全然いいよ」


 ずっと茉姫奈達といるからか、最初の方に見えていた色がたまに見えなくなったりする。常時見える訳じゃないけれど、眼鏡越しでも目を凝らすと浮かび上がってくるものが、見えたり見えなかったりする。


 それも、自分の生活の変化に繋がるのか、とも感じたが、そんな難しい事は考えたくなかったからか、僕はすぐに忘れることにした。


「それで、良くなんか色んな人が、自殺するのは人生から逃げたんだー、とか言ってるけど、多分そうじゃないんだと私は思う」


 刹那、茉姫奈は僕の手を両手で握った。


 それで僕も突飛な出来事で一瞬立ち止まって、時間が止まった感覚がした。


 さざ波のように風が揺れる。


 強くなる日差しが、茉姫奈の影を長くした。


 対照的に、僕の影は短くなって、茉姫奈の影が伸びて僕の影と重なる。


 一瞬、影と重なって茉姫奈の顔が見えなかった。


 目が影に適応して、両目のファインダーでしっかり映し出しているのは、真剣な目で語りかけるあの時の目。


 僕の持っていた価値観を全て壊した、あの茉姫奈の目。


 僕は茉姫奈の表情や、仕草や、揺れる金髪に夢中で、差し込む光なんて気にならなかった。


 喧騒も、流れていく人々もかき消すほどの力を持つ彼女の言葉と表情は、僕に感情の色を見せる事すらも忘れさせた。




「自分で死を選んじゃった人って、言う人に言わせたら『逃げた』って言われるじゃん。だけどさ、そうじゃないと思うんだ。『逃げた』んじゃなくて、逃げようとしても結局『逃げられなかった』人だって····必死に逃げようとしたって結局逃げる場所なんてなかった人達なんだって····そう私は感じてるんだ」




 茉姫奈が、代弁者のようにも感じた。


「····確かに、僕もその通りだと思う」


 納得する事しか出来なかった。


 まるで彼女がいつもそのような事を考えているかのような、説得力しか感じない答えだった。


 逃げ道なんてないから、自分で死に場所を選んでしまう。


 僕も、多分それに似たような感覚を持っていた。


 死にたくなんてないのに、なぜかベランダに居たり、包丁を持ってたり、マンションの屋上に上がって景色をずっと見下ろしていたりもしたし、酷い時は家族をどうやって手にかけてしまおうか考えていたりもしたこともあった。


 今はこの空間という逃げ場所があるけれど、姉さんが守ってくれた場所も、息が苦しくて仕方なかった。


 だけど、違う。


 それでも、生きてる。


 だから自分で死のうと飛び降りたり、人を巻き込んで死ぬ人は──僕以上に重いものを背負った人間なのだ。


 僕が、偽善者みたいだった。


 死にたいと思いながら生きて、結局1歩下がる。


「まあ、私の考えだから、それ以上でも以下でも無いとは思うんだけどね。気にしなくていいと思うし、頭の片隅くらいに入れといてよ」



 そう言うと、また茉姫奈は歩き出した。


 自分のスピードだと、離れていく彼女に追いつけない気がした。


 それに追いつくように僕も早足で歩き出して、学校に向かった。


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