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僕がずっと死にたかったのは。  作者: 青山葵
第2章 白き夏、黒き影

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白き夏、黒き影・1

変化

 朝7時。



 今日は、悪夢は見なかった。幸いというか、なんというか。


 何故か、あまり言葉に出せなかった。


 途中まで騒がしかったけど、またいつも通り静寂が訪れる。時計の音が耳に焼き付いて、見ていた世界全部を呪った目が、ぼやけた視界が漸次世界を構築していく。


 実際何をしようにも何かがまとわりついた感覚になって、行動する気が起きない。いつもなら偶然襲われかけていた茉姫奈を助けずに、『偶然にも君が選ばれただけ』とだけ感じて逃げるように立ち去るだけのはずだった。


 あの時の自分が不思議でたまらなかった。


 別に高揚感が支配してもっと喧嘩をしたい、という訳でもないし、姉さんに連れられて齧っていた格闘技がが今になって活き、本当の自分には、実は韜晦していた才能がある、と自分に酔いしれている訳でもなかった。


 ただ、あの時なんで『自分勝手』でも茉姫奈を助けようとしたのかが、分からなかった。


 別に人を傷つけたりしたくはないけれど、ずっと復讐という言葉が頭からへばりついて離れなかった僕が、今までは考えられなかった選択をしていた。


 やっぱり、茉姫奈の言葉が効いてるのかな、とも思った。


 今まで抱えていた大き過ぎるくらいの負の感情が、少し霞んでいた。たぶん。昨日からそのような事をあまり考えなくなっていた。

 すこしだけ、重い身体が楽になった気が。


「ん····? 置き手紙か」


 茉姫奈からだった。


 綺麗な字で僕宛てに書かれていた。




『玲依へ

 昨日(今日)はありがと!玲依がいなかったらほんとに大変な事になってたね。本当にありがとう

 一足早く家に戻って、学校の準備とバイト先の店長にボロボロの制服の事とか謝りに行かなきゃ行けないから早めに帰らせてもらうね、Tシャツもほんとにありがとう。私の身に有り余るったらないけど、使わせてもらうね。

 じゃあまた、学校でね!』



 改めて、やっぱり律儀な人だなと思った。


 ちゃんと駄目なものは駄目だと否定できたり、自分が悪いと思えば謝れる素直さ、文面から滲み出る感謝の言葉が、僕の心に優しく解けていく。


 僕としても珍しく、しみじみとしてしまって、文章も拙くなく、それでもってあの容姿からはあまり想像が出来ないような律儀な手紙、茉姫奈もマメな人だな、と1人で思っていた。


 そう考えている内にハッとして時計を見る、もう5分程経過していて急いで朝食を作る。別にお腹に入ればいいので、パンとインスタントのコーンスープを食べて、制服に腕を通した。


 ふと、僕は姉さんの部屋を見上げる。


 姉さんはまだ寝ていて、ドアから出てくる気配はない。今はもう大学の単位もほとんどとっているから大学もあんまり行く必要もないと言っていた。


 就活とか、大学卒業したあとはどうするのかとかは、聞けてない。なんか聞いてはいけない気がした。


 身内の話にも、言っちゃいけないこととか、それを言葉に出してはいけないかもしれない、と思う時がある、他の家族は分からないけど。


 でもそれは、多分ほんとに聞いちゃいけないことで、僕の中の本能で感じ取っているものなのかもしれない。


 ただの自分任せの考えだけど、自分の周りに人が居ないのに共感を求めてどうするのか。


 自分の性格でわかる。気分屋なだけなんだ。



 いつも通りの時間に家を出て、同じ音楽を聴いて、学校に行き、普遍的ないつも通りの生活を送る、と思っていたけれど、茉姫奈に気に入られた(?)からそう簡単にはいかないとは思っていたが、想像以上だった。




 僕が席につこうとした時に彼女は突然僕の前に躍り出た。

「おはよう! 玲依が私の前の席ってやっぱり運命だよね!」




 僕が移動教室の準備をしていると。

「玲依! 移動教室一緒に行こうよ!」




 僕が昼ご飯を買いに購買に行こうとしたら。

「玲依!一緒にご飯食べよ!」



 極めつけには、帰りのホームルームで背中をさすられた。何か文字を書かれたような気もしたが、そちらの方を向くと、耳元まで彼女は顔を持ってきて悪戯に。


「玲依! 一緒に帰らない?」


 と、静かで、綺麗な声で僕に提案してきたのだ。




 学校で一番可愛いと噂(本当にされているらしい)の茉姫奈に、根暗でなんの魅力も感じないであろう僕に急に距離を詰めてきたのだ。


 もはやクラスの男子のみんなは問い詰めることも無く、1周回って口を半開きにしていた。


 でも、1人からは、かなりきつく睨まれた、名前は分からない。でも学校ではかなり名の通った不良だということはわかっている。


 それ以外は逆に奇怪がられて男子の人から問い詰められることもなかった。


 だけど僕を問い詰めて来たのは、茉姫奈と仲のいいクラスメイトの人だった。


 帰る前、茉姫奈は先生に呼び出されていたかららその間に口頭で呼び出された。


 あまり人が通らない廊下の隅に呼び出されて、今に至る。


「ねぇ、レイ君? なんでいきなりマッキーと仲良くなってるの?」


 茉姫奈と仲のいい人は、「こんなに仲良くなってる男子いたなんて聞いてないんですけど」と少しドスが効いた声で言われて、背筋が凍る。


 ぞわ、迫るものを感じた。殺意ではないが、なんかの感情が徐々に僕の首を縊るように締め付ける。刹那的な出来事だけれど、思わず頬から冷や汗が伝うほど内心焦っていた。


「あ····あの近いです」


「だから何」


 人気のない廊下に呼び出された僕は、ずいっと詰め寄られ、反射的に身を引きながら僕は言う。ここは嘘を言ってはぐらかすよりも本当のことを言って信じて貰えなくても言うべきだと感じた。


 下校時間が夕方なので、薄暗くて顔があまり見えなかった。だけど、茉姫奈の仲のいい人から発する甘い匂いに、クラっときて、少しだけ目眩がした。姉さんも良く同じ匂いがする香水を使っていたから、多分この甘い匂いは香水だとわかった。


 甘くて、倒れそうで、1度覚えたら忘れない様な、眩惑的な匂いだった。


そんなのが間近で来られると、意識がそちらに向くから、相手の会話も聞こえなくなったり、自分が出す言葉も、どんな筋書きで話したらいいか分からなくなりそうだ。


「いや、実は夜散歩してたら····」


「してたら、なに?」


 茉姫奈と仲の良い人が毒気が多めな声音で言った。女性不信なんだからそんなに刺すような感じで言わないで欲しい。


「茉姫奈がバイト中に不良の変な2人組に路地裏みたいなところに無理やり連れ込まれてて、助けてーって叫んでるの聞いたから、たまたま助けちゃったって感じです······」


「····ほんとに?」


「はい、ほんとです····なのであんまり詰め寄らないで欲しいです」


 すると茉姫奈と仲のいい人が一歩下がり。


「ほんとのほんとに?」


「はい、ほんとのほんとです」


「ほんとに? 信じてもいいの?」


「····そんな嘘ついてるように見えますか?」


 すこし僕が強めに言ったら、彼女はすぐ言った。


「わかった。そこまで真剣な瞳で言うなら信じるよ」


 認めた様に言われると、僕の中にあった微量の怒りは自然と静まり、何故こんなことで強く言ったのだろうと反省する。


 そんなあっさり信じてもいいのか、という問題もあるが。別に僕がなにかした訳でもないんだけど。


「あっさり、ですね」


「別に、まだ疑ってる」


 確かに、僕が茉姫奈と仲のいい人だったら、なにも音沙汰がなかった人と急に仲良くなってしまったのを見たりしてしまったら、今みたいに問い詰めると思う。


 それは普通の事で、逆に彼女の普通に焦燥を覚えた僕が変な人間だ。


 彼女に詰め寄られて逆にイラッときて、正当な理由で自分は問いつめられているのにもかかわらず、心の中では納得をしていない事ばかりだ。


 そのような事を考えている僕が1番その程度の人間なのだろうけど。


 茉姫奈と仲のいい人がちょっとやりすぎたと思ったのか、僕の眼前から一歩下がり、おもむろにボケットからあるものを取り出し、僕に押し付けた。


「んっ」


 それは、連絡先──というか、ラインのIDが綴られた紙だった。



 それを渡された瞬間に彼女の魂胆が少し分かった気がした。

新章突入です

僕を伸ばしてください(?)

よろしくお願いします

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