22:剣のように真っ直ぐに歩けたら
『自分らしくと言いながら他人が通った道を歩く。そんな貧相な覚悟で何が出来るというのか』
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キィンッ!
静かな倉庫の中に響く金属音。
ロト達三人とフォーエイト達二人の武器が激しくぶつかり合う。
「おらおら、どうしたどうしたぁっ!」
「ちっ!」
ロングアックスを構えるナルヴィに向けて、暴れ馬のようなニカラグの剣が襲いかかる。
軽いフットワークでヒットアンドアウェイを繰り返す相手に対し、ナルヴィは防戦一方だ。
「このっ!」
「おっとっ!」
相性の不利を察して援護に加わったロトが仕掛けるが、ニカラグの速度には追従しきれない。
剣よりも更に素早さで有利なはずのダガーであるにもかかわらずだ。
相手はまだ本気を出した素振りを一切見せていないというのに、ナルヴィとロトの二人がかりでも致命傷を受けないようにするのが精一杯だった。
そしてそれはフォーエイトと相対しているステラも同様だ。
「どうしました? 本気を出してくれていいんですよ?」
「……!」
安い挑発といたぶるような剣筋。
幸いにして意識のないユウを狙われてこそいないが、それでもやはり押されている。
早くユウを安全な場所に連れ出したい意図を嗤われている感じだ。
(こいつら……、なんで一気に決めに来ないわけ?)
ナルヴィはニカラグの攻撃を防ぎながら疑問に思った。
戦闘力は相手の方が間違いなく上。
決着をつけようと思えば今すぐにでも出来るはずだ。
それをしないということは……。
(遊ばれているのか? いや、違うな。そんな感じじゃない、何かある。……でも何が?)
ロトもまた同じことを考えたらしい。
しかしそれを探っている余裕はない。
一瞬を奪い合う攻防。
ロトと連携しつつ、ナルヴィは再びロングアックスを振り回した。
彼女としてはニカラグを早々に片付けてステラの援護に向かいたかったが、すんなり行かせて貰える雰囲気はない。
「ウインドキャノン!」
バンッ!
「――!」
突如、ニカラグの足元が爆ぜた。
風の弾丸が飛んできた方向を見れば、金髪が揺れている。
「みんな! 大丈夫?!」
魔法を放ったのはソフィアだった。
さらにはバーノンとジュリエッタもいる。
どうやらステラ達の組が時間どおりに戻ってこないので、何かあったと判断してここまで来たらしい。
「おや、お仲間ですか?」
フォーエイトはソフィア達の方を見たが、即座に攻撃を仕掛けるような素振りは見られない。
「バーノン! 私達はステラを援護するぞ!」
「わかった」
未だ放心状態のユウを守るように位置取っていたステラを、更に守るようにしてフォーエイトに向き合う二人。
ソフィアはその背後に周り、反対側のロトとナルヴィを援護する構えだ。
前と後ろの敵に警戒しつつ、ジュリエッタは横目でユウの様子を確認した。
まともな状態で無いのはひと目でわかる。
「ステラ、ユウはどうした? 何をされた?」
「わからない。私達が見つけたときにはもうこの状態だったの」
「拷問……、薬を盛られたか?」
「――! 嘘……」
腕の注射痕を見つけたバーノンの言葉で、ようやくその可能性に気がついたステラ。
彼女の表情が不安一色に染まる。
それは果たしてユウを心配しているのか、あるいは優と同じ姿をしているからなのか。
ここは素直に前者だと思っておくべきだろう。
彼女とて、ユウに対して少なくとも普通の友人程度の好感度は持っているのだから。
「貴様ら……!」
ジュリエッタは改めてフォーエイトを睨みつけた。
優とユウのどちらかを優先するかというのは、あくまでも味方の誰を優先するのかという話だ。
この場に優がいない以上、ここで彼女が味方であるユウを粗末に扱う必要はどこにも無い。
「うーむ。全部で六人、まあこんなところでしょうね。”当たり”がいるといいんですが……」
敵の数が一気に倍になったというのに、フォーエイトに焦る様子は無い。
それどころかこの事態を歓迎しているようにすら見える。
「もういいのか? だったら決めちまうぜ?」
ロトを蹴り飛ばした直後のニカラグが笑った。
(何か来る!)
ナルヴィは低い精度ながら相手の意図を理解した。
つまり彼らは待っていたのだ、獲物が集まるのを。
”当たり”が何を意味しているのかまではわからなかったが。
「ストレンジコンディション!」
「――!」
ニカラグの言葉を聞いた瞬間、ソフィアの血の気が引いた。
「これは?!」
ニカラグの体が薄い紫のオーラに包まれた直後、自分の心の奥まで全てを見透かされるような感覚がこの場にいた全員を襲う。
ロトも体を起こしながら、ダリアに対する感情が不自然に沸き起こってきたのを実感する。
まるで隠し事の一切を封じられたような、あるいは心の中に潜む本当の自分を引きずり出されるような気分だ。
「貰ったっ!」
大地を踏みしめて立ったままのニカラグの首筋に対し、ナルヴィが容赦無く刃を振り込む。
体重も十分に乗っている……、が――。
ガキンッ!
「――なっ!」
斧の刃が叩き込まれたのはニカラグの皮膚である。
防具どころか服にすら覆われていない、肌に直接斧を叩き込んだはずだ。
にも関わらず、まるで金属にでもぶつかったような感触と共に、甲高い音が倉庫に響いた。
「おらよっ!」
渾身の一撃を耐えられたナルヴィを、ニカラグのショルダータックルが襲う。
彼女にとっては慣れた展開だ。
いつものように衝撃に備えて身構える。
(――!)
しかし直撃を食らったナルヴィはその感触に驚愕した。
(固い!)
鉄か鋼か。
その固さはどう考えても人間のそれではない。
まるで巨大なハンマーを叩き込まれたような衝撃に、ナルヴィの意識は一瞬で吹き飛ぶ寸前までいった。
……いや、食らった直後は確かに一瞬吹き飛んだ。
ロトが、受け身も取れずに無防備で地面に落ちそうになった彼女を慌てて受け止める。
「気を付けて! この二人、MAよ!」
フォーエイトに対して牽制の魔法を放った直後のソフィア言葉で、他の五人の表情が変わった。
ムーンアルミラージ、略してMA。
大小合わせて百以上の国家や部族、そして犯罪組織によって構成される、異世界ストラの二大陣営の内の一つ。
目の前の強者達がU&Bと双璧を成す巨大組織の人間であることを理解し、高まる納得感と緊張感。
「おや、僕達のことをご存知でしたか」
(ニカラグさんがストレンジコンディションを発動した直後に僕達がMAの人間だと気がついた……。この女、もしかしてストラ出身でしょうか?)
フォーエイトが先程までとは別の興味を惹かれたような視線でソフィア達を見た。
しかしその目に宿る警戒心は先程よりも明らかに増している。
負けるような相手とは思っていないが、しかし無防備でいいというほどでもない。
「通りで……。流石に刃が通らないとは思わなかったけどね」
体を起こし、再びニカラグと対峙し直したナルヴィが口から流れた血を拭う。
痛みから判断するに、どうやら唇を切ったらしい。
(さて、どうしようかな……)
ロングアックスによる攻撃が効かないとなると、彼女が敵に有効打を与える手段は一つしかない。
切り札として持っている、もう一つの大型アックスだ。
純粋な重量もさることながら、付加魔法による加速と魔法効果破壊によって高い威力を誇る。
が、しかし――。
(当たってはくれないよねぇ……)
攻撃自体は高速ではあるのだが、その武器の大きさと重量故にどうしても大振りな攻撃となってしまう。
多少速度に秀でていたとしても、狙いがわかりきっている攻撃など回避するのはそれほど難しくもない。
他の誰に隙を作ってもらうしかないかと思った矢先、後方に位置していたフォーエイトの声が聞こえた。
「ジェルダダイブ」
直後に背後から聞こえたのは、人が倒れる音。
「――え?」
思わず振り返ったナルヴィの視界に入ったのは、ニカラグに向き合っていた彼女の後方にいた四人が、意識を失って地面に倒れている姿だった。
その奥には、全身に青いオーラを纏ったフォーエイトが余裕の笑みを浮かべて立っている。
ステラと後から駆けつけた三人。
いずれも外傷は見当たらず、従って出血も見られない。
ナルヴィに続いてそのことに気がついたロトもまた目を見開いた。
(なんだ?! 何が起こった?!)
ロトとナルヴィは仲間の傷を癒やすような魔法が一切使えない。
よって仲間に外傷が無いというのは普段ならば歓迎すべきことだ。
が、この場面においてそれは、敵の手の内を覆い隠すというほぼ最悪の形で機能した。
放心状態のユウを守りながらとはいえ、こちらの戦力は六人。
それをいきなり四人無効化されて三分の一にされたのである。
これで数の上では二対二の同数。
しかし個々の戦力差を考えれば同等からは程遠い。
ナルヴィは慌てて魔法袋から切り札の大型アックスを取り出した。
入れ替わりにここまで使っていたロングアックスを投げ捨てる。
相手が素直に食らってくれるとは思えないが、こうなってはもうこれを使う以外に選択肢はないように思えたからだ。
フォーエイトを警戒しつつ、距離の近いニカラグを睨み直す。
(ロト……?)
ナルヴィは、視界に入ったロトもまたいつの間にか武器を変更していたことに気がついた。
いかにも高貴な装飾が施された直剣。
それに何かしらの魔法的な効果が付加されていることは明らかだ。
しかし、彼がそれを使うということがいったい何を意味しているのか、このリーンという世界の歴史を知らない彼女は気がつかなかった。




