18:白の使徒、女神教の天使
『親しいからこそ見せたくない自分というのもあるさ』
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青の本を拾った翌日の昼。
ユウはリリィを探して例のカフェへと来ていた。
アナスタシアがいたらどうしようかと考えつつ、リリィの姿を探す。
どちらも綺麗な金髪が陽の光で輝いているので見つけるのは容易いのだが、遠目に二人の区別をつけるのは案外難しい。
目印となるのは服装と纏っている雰囲気だろうか?
アナスタシアはホーリーウインドのローブを着ているし、結構良いとこのお嬢様っぽい感じだ。
それに対して、リリィはなんとなく行き遅れ感がある。
(おっ、いた!)
ユウの知らないことではあったが、魔族の襲撃の影響によりアナスタシアは現在この街にいない。
彼女は現在、女神教軍の指揮官として敗走する魔族軍の追撃戦に参加している。
はたしてそれが影響したのかどうかはわからないが、いつもの場所には今日も再びリリィがいた。
ホーリーウインドのアナスタシアがいなくなった影響でリリィがいる。
早々にそう結論づけたユウには、彼女がいるという事実そのものが、まるで”リリィが女神教関係者だ”という本の記述を肯定しているように思えてならなかった。
「あら、また来たの? でもサンドならあげないわよ?」
ユウは自分に気がついたリリィの言葉には答えること無く、無言で彼女の正面に座った。
「……?」
タマゴサンドをくわえながら少し怪訝な顔をするリリィ。
「……俺のことを教えてくれ。」
「何よそれ。……もしかして新手のナンパ? でもイマイチだと思うわよ?」
リリィに動じる気配はなく、軽く流されてしまった。
しかし一晩かけて例の青い本を読み込んだユウにとっては想定の範囲内。
「違うって。」
とりあえず否定だけはしておく。
ユウはあくまでもステラ一筋。
いくら美人とはいえ、彼女になびくつもりはない。
付き合う相手が年上のサンドイッチジャンキーというのも楽しそうではあるが。
「それじゃあロゼッタストーンのことを教えてくれ。」
福音『ロゼッタストーン』。
青い本によれば、それはユウの出生に関係する福音らしい。
当然のことながら、青い本無しでは現時点のユウが知り得る情報ではない。
……いや、ここはもっと直接に言った方がいいだろう。
『ロゼッタストーン』は私を生み出した福音だ。
そして『イグジスタンス』の能力無しで私がその事実を知ることは……、おそらく無かったと思っている。
「ロゼッタストーン? 知らないわよそんなの。名前からして福音かマジックアイテムみたいだけど、私だって全種類知ってるわけじゃないわ」
しかしこれに対してもリリィは動じる気配を見せない。
もちろんユウもロゼッタストーンについては詳しく知らないので、これ以上は何も言えない。
「じゃあ……、『勢力戦』の現状を教えてくれ。」
青い本には、どうしてもダメな時はこれを言えばいいと書いてあった。
ただしできれば使わない方がいい、とも。
いったい『勢力戦』というのが何を指しているのか、それは今のユウにはわからない。
が、その言葉を聞いたリリィの瞳孔がついに大きく開いたのだけは、はっきりとわかった。
「……誰に聞いたの? オリヴィエ? それともカサンドラ?」
殺気か怒気か。
いずれにせよ、これまでとは一変したリリィの態度。
突如として彼女から放たれた攻撃的なオーラによって周囲の空気が一気に冷える。
声のトーンも一段低い。
予想外の反応にユウの背筋が凍りついた。
「いや……。」
ユウは思わず言い淀んだ。
正直に青の本のことを言うべきか否か。
この段階になって初めて、ユウは彼女が侮ってはいけない存在であることを理解した。
いつもサンドイッチを食べながら相談相手になってくれるだけの残念美人……、ではなかった。
これまでユウの命を脅かし、そして刈り取ってきた強者達。
目の前にいるのは間違いなくそれと同種の存在だ。
いや、もしかしたらそれ以上の――。
これまで何度も死を経験してきた本能が悟る。
ここで下手を打てば即座に殺られる、と。
ユウは体を動かさないまま一回だけ深呼吸すると、魔法袋から青い本を取り出してリリィの前に差し出した。
「これに書いてあった。」
「これは……?」
何も書かれていない青一色の表紙を見たリリィの威圧感が思わず収まる。
差し出された本の意味が理解できなかった彼女は、口に手を当てて数秒ほど考え込んだ。
(これってまさか……、青の預言書?)
その可能性に至ったリリィは、慌てて青い本を手にとった。
もしもこれが彼女の推測通りの物であったとしたら、対立する陣営の貴重な情報を手に入れたことになるからだ。
だがしかし、パラパラとめくってみても、白紙しかない。
最初から最後まで確認し終えたリリィは、眉を寄せてユウを睨んだ。
とはいえ、先程のような本気さは無い。
「ちょっと、真っ白じゃないのよコレ」
「え?」
ユウは水を差されたような表情をしたリリィの隣までいって、一緒に本を覗き込んだ。
(大丈夫だ、ちゃんと書いてある。)
覗き込んだページにはユートピアに関する情報が書き込まれていた。
それが彼女には見えないということは、つまりこの本は本当に書き込んだ人間にしか読めないということだ。
「これ、書いた人間にしか読めないらしいんだ。」
「……」
ガシッ!
「――!」
リリィは無言でユウの頭を掴んだ。
そのまま人間とは思えない握力でギリギリ締め付ける。
頭蓋骨ごと脳を握りつぶされてしまいそうだ。
「嘘言ってるんじゃないでしょうね?」
正面を向いたまま、横目でユウを睨みつけるリリィ。
「いでででで、言ってない。本当だって!」
「……はぁ」
リリィは溜息と共に手を離した。
同時に彼女の敵対的かつ攻撃的なオーラが完全に収まる。
「話が進まないから信じてあげるわ」
どうやら根を詰めて対応するだけ無駄だと判断したらしい。
脅威が去ったという意味では歓迎すべきことだが、果たしてユウの尊厳的な意味では如何なものか。
「頭痛え……。」
掴まれた所がズキズキする。
「男の子なんだから我慢しなさい。ほら、ハムサンドあげるから」
両手で頭を抱えるようにしてマッサージし始めたユウに対し、リリィは隣の椅子を引いて小皿に乗せたハムサンドをその前に差し出した。
一応、彼女的にはこれが詫びと買収のつもりらしい。
というか発言がやけにお母さんっぽい。
ユウは母親がいないのでその辺りの感覚に気がつくことはなかったが……。




