17:『厄災に―― 』
『屈強な戦士はその傷を誇りとする。傷つくことを恐れていては永遠に弱者のままだ』
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青い本に書かれた記述について、ユウはサブアジトの自室で頭を悩ませていた。
問題は”自分が本物の遠武優のコピーである”という記述の是非についてだ。
この世界には魔法が存在するのだから、確かに起こりえない話ではない。
あのヤンデレステラも福音の産物である疑いがある以上、それはつまり彼女の存在が実現可能な現象だということの証明になる。
……が、しかしだ。
(俺がコピー……? いやいや、無理があるだろ。)
当の本人としてはその実感は全く無い。
元の世界で寝たらいきなりこの世界に転移していた。
そしてそれ以降も記憶は途切れること無く続いている。
いったい自分のどこがコピー、つまり偽物だというのか。
(それよりもむしろ……。)
――この本の方にこそ何かあるのかもしれない。
ユウは久しぶりに記憶の中からラノベ――、もとい小説の知識を引っ張り出してきた。
(もしもこの本がマジックアイテムだったとすると、読む人間によって内容が変わるって可能性もある。それなら俺の名前が書いてあっても不思議じゃないし。)
しかしその推測が正しいとしたら、この本はいったい何なのだろうか?
人を惑わせる呪いのアイテム?
だがもしそうだとして、”詳細はリリィが知っている”というのはどういうことだ?
(聞きに行けってことか? 確かに色々と詳しいとは思ってたけど……。)
果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。
ユウの印象では悪人には見えないのだが、アイナの例もある。
美人補正で善人に見えている可能性を考えると油断はできない。
青の本にはアイナが女神教のスパイであることもちゃんと書かれていたのだから。
リリィがループを認識できる点も考慮すると、やはり迂闊な行動は危険だ。
毎回サンドイッチを食べている姿から想像するのは非常に困難だが、もしかしたら黒幕はリリィで、この本は彼女のところに人を誘導するために存在する可能性だってある。
(……いや、ないな。)
しかしユウはその考えを即座に否定した。
大事なことなので繰り返し強調しておこう。
毎回サンドイッチを食べている姿から、彼女が黒幕であると想像するのは非常に困難である。
(だからそもそもなんでリリィは毎回サンドイッチ食ってんだよ?)
自分がコピー、つまり偽物だという話だったはずが、焦点はどんどんサンドイッチの問題に移動していく。
そのこと気がついたユウは慌てて頭を振った。
(まあそれに関しては今度会った時にでも聞くとして、先に他のページも全部確認しておこう。)
女神教のこと、福音のこと、あるいは∪&Bのことやユートピアのこと。
書いてある内容にはユウが既に知っているものもそうでないものもあった。
だが少なくとも知っている分に関してはユウの認識と食い違いはない。
だとすると知らない分に関しても信用していいものだろうか?
中でも特に気になる記述が何箇所かあった。
”ステラにドッペルゲンガーを渡したのはリリィ。”
ドッペルゲンガー。
それはつまりステラを殺して入れ替わろうとしていた、あの偽物のステラを生み出す福音である。
現時点でユウの把握している情報では、福音の持ち主自身にとっての恩恵は皆無。
つまり本当にリリィがステラにドッペルゲンガーの福音を渡したのだとすれば、それはユウにとって最も大事な少女に対して害を与えたということに他ならない。
そしてそのドッペルゲンガーに関しても、ユウの知らない情報が書き込まれていた。
”ドッペルゲンガーは、ルーツを殺して入れ替わろうとするゴーストを生成する。”
”発動するのは毎月十七日から十八日に日付が変わる瞬間。”
”その時間を一人で過ごすとステラそっくりのゴーストが生み出される。”
そしてリリィが敵である可能性を強化するかのような文章は他にもあった。
”女神教の『天使』はリリィ”
ユウと同じ筆跡で書かれたこの文章が本当に事実を捉えているだとすれば、つまりリリィもまた女神教の関係者だということだ。
『天使』というのが女神教においてどのように位置づけられているのかをユウは知らなかったが、しかしそれならば彼女が女神教の事情に関してやけに詳しかったのも納得がいく。
(でもおかしいよな……? リリィはむしろ女神教よりも俺達に味方してないか?)
それは王都で出会った神官カタリーナが感じたのと同じ疑問だった。
リリィはまるでゴーストロッドの破壊を望んでいるかのような……?
(それに――。)
ユウは気になった記述の最後の一箇所を見た。
それはユウと同じ筆跡で記述されたページの中では最後。
ただでさえ汚くて読みにくい字だというのに、そのページだけはさらに走り書きのように乱雑に書かれている。
”厄災に”
時間が無い中で急いで書かれたと思われる文章は、明らかにその途中で途切れていた。




