14:悪魔という名の奴隷達
『天は人の下に人を作らなかったそうだ。……なるほど、つまり俺は人では無かったらしい』
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大陸の北東を領土とするノワルア王国の中でも、最北東に位置するガラハ自治区。
そこで事実上の奴隷として虐げられていた亜人達。
現代のリーンにおいては魔族と呼称されている彼らの占領により、アスクの人々は街の中に封じ込められた。
その戦力は総勢でおよそ二千五百。
軍事的な訓練は一切受けていないとはいえ、基礎能力では人間の上を行く彼らである。
ロドリゴ達∪&B部隊は昨日の夜に敗退し、アナスタシア達ホーリーウインドは物量差の不利を確認すると早々に街から撤退した。
そしてエル・グリーゼは魔族軍の戦力を確認した後に脱出の機会を伺いつつ様子見を決断。
これによって、魔族軍に対する軍事的脅威は一時的に消え去っていた。
「おい、これすげぇうめえぞ!」
「ホントだ! 人間はこんなうめぇもん食ってんのかよ!」
魔族達は街の広場で民家から奪った食料で腹を満たしていた。
彼らの身なりはお世辞にも良いとは言えず、さながらホームレスが群がっているかのようだ。
奪った食料とて別に高級食材というわけではなく、この街においては至って普通の庶民の食事である。
そのことからも、彼らがこれまでどのような環境で生活してきたのかが伺える。
「俺、動けなくなるまで飯を食うのが夢だったんだ。もう思い残すことはねえ、いつ死んでもいい!」
「バカ。それじゃあ残してきたみんなが何も食えないだろうが」
「あ、そうか」
周囲の男達がどっと笑い出した。
その横では別の男達が布の袋を覗き込んでいる。
「作物の種か……。持って帰って育てられねぇかな?」
「どうだろうな。なにせ土地が痩せてるからな」
「試すだけ試してみようぜ?」
明日にはどうなるかもわからない命だというのに、彼らの表情は一様に明るい。
栄光に慣れた者達にとっては取るに足らない一筋の光。
しかし彼らにとっては暗闇を照らす眩い希望だった。
明るい表情を浮かべる者達がいる一方で、別の広場には街の住民達が押しかけていた。
「お前達が恨んでるのは国だろう?! 俺達は関係ない、開放してくれ!」
「そうだぞ! 人の迷惑だと思わないのか?!」
腕を組んで仁王立ちしているリーダー格の魔族に向かって、人々が矢継ぎ早に言葉を繰り出す。
他の魔族達は不満そうな顔で人間達を睨んでいるが、彼が動かないので黙っていた。
その視線の先には抗議している男が身につけている腕輪が捉えられている。
ここまでに撃破した部隊から奪取した武器で武装した魔族達に比べ、街の人々は完全に無防備。
本来ならば下手に出ても良さそうな場面だが、価値観の根底に魔族への絶対的優位性を刷り込まれた人々にその発想は全くない。
「その腕輪……、デモナイトでできているな?」
「ん? な、なんだ、これが欲しいのか?! 所詮は金目の物が目当てか! 卑しい奴らめ!」
魔族達が反撃してこないと思った男は吐き捨てた。
結局のところ、魔族は人間よりも下であるという思考から彼らは抜け出せない。
「その腕輪の材料を誰が取ったか知っているか?」
「知るわけがないだろう、そんなもの!?」
「だろう……、な!」
ガシュ!
魔族のリーダーは即座に剣を抜くと、お世辞にも筋がいいとは言えない剣筋で強引に人間の男を斬り捨てた。
血が噴水のように宙を舞う。
「そのデモナイトを取ったのは俺達だ! お前達にいいように使われてな!」
希少金属デモナイト。
装飾品として使われるそれは大陸の北東、魔族達の居住地であるガラハ自治区からしか産出しない。
奴隷として使役した魔族に採掘させたデモナイトをタダ同然の値段で買い取る。
それがノワルア王国に安定した収入をもたらすと共に、長年に渡って魔族が奴隷で有り続けた理由である。
「きゃあああ!」
「嘘だろ!」
自分達に危害が加えられることはないと高をくくっていた人々が悲鳴を上げた。
同じように殺されては敵わないと、散り散りになって逃げ出していく。
「おっしゃ、そうでないとな!」
「先祖の墓にあいつらの首を捧げてやるぜ!」
静観していた魔族達も武器を持って彼らを追いかけ始めた。
「誰も逃がすんじゃねぇぞ! 今まで散々やられて来たんだ、俺達で恨みを全部晴らすつもりで行け!」
「言われなくても!」
武器を持たず、走る速度も魔族より遅い人々は次々と狩られていく。
魔族と人間。
奴隷と支配者。
この世界で長年に渡って崩れることのなかった両者の立場が、この街では完全に逆転していた。
そんな殺伐とした空気の中、二人の魔族が古本屋へと入っていく。
「すげぇ……、こんなに本があるぜ……」
一人が感嘆の溜息をついた。
別にこの手の店としてはそれほど規模が大きいわけではないのだが、魔族の集落には古い本が片手で数えるぐらいしかないので、それに比べれば圧倒的な量である。
「誰もいないみたいだな。袋もあるし、片っ端から貰ってこうぜ」
本を見る二人の目は、完全に宝の山を見つけた少年のそれだ。
手分けしてせっせと本を魔法袋に入れていく。
全体の三分の一程を袋に入れた頃、棚の一番上の本を纏めて取ろうとして一冊を床に落としてしまった。
「……?」
本の表紙は鮮やかな青。
しかし何も書かれていない。
開いて中を見てみたが、どうやら全てのページが白紙らしい。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
男はその本が妙に気になったので、それを他の本とは一緒にせず、腰に下げていた自分の魔法袋に入れた。
その行動が果たして誰の意志によるものだったのか。
あるいは誰の意図だったのか。
彼らがそれを知ることは、おそらく無いだろう。




