13:魔族
『持てる者と持たざる者がわかりあえる事柄など無い。彼らは人間だ。だが我々は……、いったい何なんだろうな?』
★
倉庫を満たす死臭。
倒れているのは亜人、そしてU&Bの兵達。
受けた被害、倒れた者の数で言えば亜人側の方が確実に多い。
U&B内でBランクに位置付けされるエリート兵達の活躍によってその大半が殺されている。
だが個々の高い身体能力と物量差を前にU&B側も磨り潰された。
結果として立っているのはロドリゴとハウル達三人だけだ。
組織としては双方壊滅、相打ちと言うべきだろう。
だが……。
「全滅に変わりはないとて……、勝敗によって名誉は大きく違うのでな。上官が部下の名誉に傷をつけるわけにも行くまい」
部隊の長が自分の命惜しさに逃げ出したとなれば、部下達の死は霞むだろう。
戦場における死傷者の数など、その程度の意味しかない。
むしろ上官の敵前逃亡の方がよほど政治的な価値がある。
たとえそれが戦術的に適切な判断であったとしても、だ。
「そういうのは勝ってから言うんだな」
ハウルは刃を発射して柄だけになった剣を投げ捨てると、魔法袋から二本目を取り出して構えた。
一本目の刃は横に転がっている直剣の男の胸に突き刺さっている。
以前のループでラプラス達を追い込み、最後はユウによって相打ちに近い形で殺された男だ。
今回は周辺の亜人を殺しきってからロドリゴの援護に入った末に、ハウルの手で撃破された。
先程ロドリゴを助けに入って斬られた部下も既に動かない。
「仲間をみんな殺りやがって……」
アズが忌々しくロドリゴを睨みつける。
それは同族を殺された怒りに他ならない。
U&B側とは異なり、彼らは戦闘に関してあくまでも素人。
仲間を失うことには慣れていない。
それに関してはドルも同じで、動かなくなった仲間を視界に入れながら、ロドリゴに対し純粋な敵意を向けていた。
「ふん、最初に仕掛けたのはお前達だろう?」
ロドリゴも言い返す。
共にU&B内での不遇に耐えてきた者達。
彼らを全員失ったとなれば心中穏やかでなどいられるはずもない。
徴兵されて致し方無しとはいえ、元々軍人には向かない性格。
部下を一人失っただけですら夢の中で懺悔を繰り返す日々だったのだから。
「さて……、それはどうだったかな!」
アズに視線を向けた直後のロドリゴに対し、ハウルが再び正面から仕掛けた。
彼の視点から見れば先に仕掛けたのはロドリゴの方だ。
もちろんロドリゴ自身は覚えてなどいないが。
一瞬遅れてアズとドルが左右に散る。
(三方向から攻めるつもりか)
味方は既に全滅、そして援軍のアテはない。
本職は魔法使いであるロドリゴにとって、近距離で複数の方向から責められるというのは非常に不利な展開だ。
「エレクトロウォール!」
「くそっ!」
「またか!」
再び張られたロドリゴの雷の防御壁を前に、突っ込もうとしていたアズとドルは踏みとどまった。
二人共、ここまでこの壁には一切対応できていない。
彼らが知ることではなかったが、ロドリゴの実力が反映されているからなのか、その威力はエル・グリーゼのダリアが使うのそれよりも高い。
最初にハウルがやったように強行突破しようとした他の味方はあっさりと戦闘不能になり、そのままトドメを刺されている。
このまま突っ込んだとしてもその二の舞いとなるのは明白で、良くても一回程度の攻撃チャンスを得られるだけだろう。
二人に突破口を見いだせない焦りが浮かぶ。
「止まるな!」
ハウルが叫びながら先程と同じように正面から突っ込んだ。
(油断したさっきのようにはいかんぞ! カウンターで仕留める!)
「拭い去れぬ怨嗟よ、熱となりて爆ぜろ!」
ロドリゴはハウルが切り込んでくるタイミングに合わせてカースバーストを打ち込もうと待ち構えた。
ファイアボムの数段強力な魔法だ。
これならば、例え直撃しなくとも相手の防御の上から致命傷に近いダメージを与えることが出来る。
バチチチチチッ!
突き出されたハウルの剣が雷の壁に差し掛かった。
それにタイミングを合わせて、ロドリゴが左手の平に作り出した紅玉で迎え撃つ。
バチチチ……チッ……、パァンッ!
「――!」
ハウルに向かって先陣を切ったはずの雷達。
だが彼らは殺到した先の剣によって突如掻き消された。
(剣の付加効果か?! だがこのタイミングなら!)
ハウルの胴体まで、障害となるものはない。
目の前で殺られた部下の敵を取るべく、渾身の力で腕を突き出す。
「――まったく、肝を冷やしたぜ」
「だから人間は嫌いなんだよ」
両脇からアズとドルの声。
その距離は近い。
ドンッ!
「――!」
ハウルに一撃を叩き込むまで残りの距離は指先一つ分というところで、棍棒が腕ごとロドリゴを叩き落とした。
それをやったのはもちろんドルだ。
ロドリゴの攻撃がハウルに届く正に直前。
人間を数段上回る彼の身体能力が、このギリギリのタイミングでの攻撃を実現した。
「終わりだ!」
ガスッ!
「がっ……!」
撃ち落とされて地面に叩きつけられたロドリゴが立ち直るより早く、アズがうつ伏せの背中から心臓を突き刺す。
軍人として苦痛に耐える訓練を受けているとはいえ、このレベルの痛みになどそうそう耐えられるものではない。
仰け反ったロドリゴの視界に息絶えた部下達の姿が映った。
(すまん……。勝利を手土産に冥土で再開することは――)
ハウルの剣が躊躇いなく振り下ろされる。
――ザンッ!
声を出すこともままならない体で紡ごうとした部下への謝罪が完結することはなく、ロドリゴは首を落とされた。
★
アスクの街を突如襲った亜人の大群。
ロドリゴ達∪&B部隊は全滅し、この事態を察知したアナスタシアは即座にホーリーウインドを含む女神教戦力を街から撤退させた。
生まれ持った身体能力を武器に奇襲を仕掛けた亜人達に、残された街の警備隊の戦力だけで抗えるはずもない。
夜ということも相まって組織的な行動をほとんど取ることもできず、各個撃破されていった。
ユウ達エル・グリーゼも当初は応戦の構えを見せたものの、ロトの偵察によって敵との戦力差を把握した時点で身を潜める方針に切り替えた。
そして翌日の朝。
ピッ……、ガガガッ……。
街中に設置されたスピーカーからノイズが流れ始める。
まだ日の出直後の静かな街に男の声が響き渡った。
「この街の住民に告ぐ! この街は俺達……、魔族が占領した!!」




