4:結局サンドイッチだった
『変わらないことが美徳というのは時と場合による』
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サブアジトを出発してしばらく歩いた後、ユウはリアに断って別行動を取ることにした。
レッドノート家に帰る前に行くところがあると考えたからだ。
(リリィいるかな?)
目的はリリィである。
ターニングポイントの残り回数がゼロにも関わらず、なぜ死に戻りが起こったのか。
ループを認識できる彼女であれば、何か知っているかもしれないとユウは考えていた。
だが、果たして彼女は以前と同じ場所にいてくれるだろうか?
ユウ同様にループを認識しているということは、毎回行動が変わってしかるべきである。
というか、毎回同じ時間に同じ場所でサンドイッチばかり食べている方がおかしい。
(タダでサンドイッチが食えてラッキーとか思ってないだろうな?)
ユウから見たリリィはそんな感じだ。
相当な美人であるにも関わらず、完全に三枚目扱いになっている。
(考えてみたら、あそこって結構重要な場所だよな。)
もう何度も歩いた道を、例のカフェ目指して進む。
リリィだけでなくアナスタシアともあの場所でコンタクトを取っていたことを考えると、確かにその通りだ。
だからどうということはないが。
(お、いたいた。)
店の外に並べられた椅子とテーブル。
ユウはいつもの場所にリリィを見つけた、見つけたのだが……。
(一緒に誰かいるし。)
同じテーブルの向かい側にもう一人女性が座っている。
短めの銀髪に黒い服を着た、知的なクールビューティーといった感じだ。
一緒にいるとなんとなくリリィのポンコツ度が強調されて見える気がするのは、きっとユウの先入観のせいに違いない。
(どうしよう。)
リリィはいいとして、もう一人の正体がわからない。
ユウはとりあえず謎の女性の後ろ、リリィの視界にだけ入る位置に座って様子を伺うことにした。
何も無いのも辺なのでホットミルクを買って来てから座る。
(何を話してるんだ?)
距離が近いので二人の会話はよく聞こえてくる。
ユウはミルクを飲みながら耳を澄ませた。
「本当なのそれ? 『青』の勢力なんて初めて聞いたわ」
(……『青』の勢力?)
ユウの耳はリリィの口から出た聞き慣れない単語を拾い上げた。
「私もよ。使徒の方には会ったけど、仮面を付けた不気味な男だったわ。確かジノーヴィーって言ったかしら?」
「……聞かない名前ね」
リリィが自分の記憶を探るように視線を左上に向けながらサンドイッチを口に入れた。
視線を動かす時に一瞬だけユウの方を見た気がする。
「もしかしたら他の世界群から流れてきたのかもしれないわ。神の方は降神した状態で始めたのが気になるけど」
「降神済みって……。何よそれ、完全に勝負を投げてるじゃない」
「どうかしら。使徒の方は顔も隠してたし、何か訳アリなのかもしれないわね。……今のアナタみたいに」
「うるさいわね……。私は単に上司と上司の間で板挟みになってるだけよ」
どうやらリリィは仕事のことで悩んでいるらしい。
(あれ? リリィってニートじゃないんだっけ? ……なんの仕事してるんだろ?)
まさか見栄を張って働いている振りをしているわけではあるまい。
(……いや、もしかしたら本当にそうかもしれない。)
そんなことを考えている内に、ちびちびと大事に飲んでいたホットミルクが無くなってしまった。
もう一杯買って来るかどうか、財布の中身を見ながら葛藤する。
「それじゃあ私はそろそろ行くわ。後ろの彼もお待ちかねみたいだしね?」
「……ん?」
謎の美女の言葉に気づいたユウは顔を上げた。
周囲を見渡してみると、”後ろの彼”というのに該当するのは自分だけ。
つまり聞き耳を立てていたのは彼女にしっかりバレていたというわけだ。
「若い男の子が会いに来てくれるなんて羨ましいわ」
「悪かったわね……。どうせ私は万年男日照りよ」
ユウから彼女の顔は見えないが、その声からはリリィを冷やかしている様子が伺える。
去り際の彼女と一瞬目が合った。
「オリヴィエよ。またどこかで会いましょ。……縁があればね」
「ど、どうも……。あ、ユウです。」
不意を突かれて慌てて自己紹介したユウに品良く手を振りながら、オリヴィエはどこかへと行ってしまった。
リリィは頬杖を突きながらその様子を少し不機嫌そうに見ている。
「いつまでオリヴィエの方に見とれてんのよ? 私に用があるんじゃなかったの?」
「いや、別に見とれてたわけじゃ、ないんだけど……、ってそうだ! 教えてくれリリィ!」
「何よ? っていうかなんで私の名前知ってるのよ?」
「……え? なんでって……」
予想外の言葉に、彼女の座ったテーブルに食いつく勢いだったユウは止まった。
ユウは自分がどうやってリリィの名前を知るに至ったのかを振り返った。
確か――。
「……いや、自分で言ってただろ! バッチリ自己紹介してたよ!」
最初に会ったところまで過去の記憶を遡る。
リリィと呼べと言ったのは間違いなく彼女自身だ。
今までだってずっとそう呼んでいたはずだ。
しかし何か違和感を感じる。
「してないわよ! そもそもこれが初対面でしょうが!」
「え? リリィ、まさか……。」
今さっき感じたばかりの違和感。
ユウは早々にその正体に辿り着いた。
「俺のこと……、覚えてないのか?」
「そりゃ覚えてないわよ、初めて会ったんだから。何? まさか本当にナンパとか言うんじゃないでしょうね?」
リリィが訝しげな視線を向けた。
とても演技とは思えない。
「本当に、本当に忘れたのか?!」
「だから忘れる以前の問題でしょ。頭に栄養行ってる? ほらコレあげるから」
「お、ありがとう。」
時間はそろそろ正午ぐらいだろうか?
小腹が空いてミルクだけでは物足りないと感じていたところだったので、ユウは喜んで差し出されたサンドイッチに手を伸ばした。
「ハムサンドか……、ってそうじゃない!」
「口を動かしながらじゃ説得力は無いわよ?」
リリィが安っぽいノリツッコミをするユウの様子を見て少し笑った。
どこか母性的な、直接的に言えば母親が子供を見るような笑みだ。
「まあとりあえず座りなさいな。何か飲む? お金無さそうだから奢ってあげるわよ?」
「え、マジで?」
「マジよ。サンドセットも付けてあげるわ」
どうやらユウが最安値のホットミルクだけで我慢していたのをしっかりと見ていたらしい。
ユウは彼女に連れられて、本格的な話をする前に店の中に入っていった。
まるで子供が母親に欲しいものを買ってもらうような、どこかそんな雰囲気だった。




