3:超高性能センサー
『不出来な自分を直視する勇気、それを持つものが勇者だ』
★
(ステラステラステラ、ステラはどこだ?)
ラルフ達と一緒にメインアジトから逃げ出した後、ユウはステラ達を探して市場に来ていた。
買い出しのパーティはちょうど三つ。
なのでそれぞれが一つずつパーティを見つけてメインアジトに戻るのを止めればいいことになる。
もしもここで見つけることが出来なければ、その時は味方に犠牲が出ることになるだろう。
だが幸いにして彼女達がどこに立ち寄るかはわかっている。
ユウは最後に立ち寄った干し肉を売っている辺りで待ち伏せすることにした。
(お、来た!)
ユウの超高性能ステラセンサーがこちらに向かってくるステラとその他二名を発見した。
ちなみにその他二名というのはロトとナルヴィだ。
「妹と離れてもシスコンは発症しないんだな。」
ユウは思わず呟いた。
前は気が付かなかったが、思っていたよりも彼のシスコンは軽症らしい。
(実の妹がストライクゾーンとか……、やっぱりないな。)
ステラの部屋の空気を満喫していたユウも変態度に関しては中々のモノなのだが、それはそれだ。
「ステラ!」
ユウは手を降って彼女達に向かって走り始めた。
向こうもすぐに気がついたらしく、ステラが手を振って呼びかけに答えてくれた。
「ユウくん、大丈夫だった? ナルヴィがやりすぎたから心配したんだよ?」
後ろにいたナルヴィがギクリと反応する。
気まずそうに無言で視線を横に逸らした。
どうやら本人もやりすぎたとは感じているらしい。
以前のループの時はこんな態度を取らなかったことから考えると、どうやらその間に閾値があるようだ。
「でも、なんでこんなところにいるの?」
「あ、そうだ。ステラ達を探してたんだ。」
ステラ”達”ではなくステラを探していたと言えばよかっただろうかと一瞬後悔したが、あまりふざけていられる状況でもないのでこれまでのことを簡単に説明した。
「嘘……」
「あそこが見つかったのか? それは痛いな」
「十人以上投入してきたってことは前々から狙われてたってことよね? 全然気が付かなかったわ」
唖然としているステラに対し、他の二人の態度は言葉以上に淡々としている。
同じ世界で生まれ育ったとはいえ、仮にも貴族の子女であるステラとそうでないナルヴィの違い。
拠点を失ったことに対するナルヴィとロトの温度差もまた同じような理屈で説明できるだろう。
「それで、とりあえずサブアジトに行こうってことになったんだ。」
この時点でユウはまだその場所を知らないことになっている。
なので面倒だと思いながらもそういう演技を心掛けた。
「仕方がないな。さっさと買って行くか。……ダリアも心配だし」
(ダリア……、も?)
(他に何か心配事があるのか?)
ロトの言葉に二人がそれぞれ違う方向から疑問符を付けた。
ニュアンスはナルヴィとユウで少し違ったようだが。
(……?)
ステラだけはよくわからず二人の顔を交互に見比べて頭の上に疑問符を浮かべている。
ロトが手早く残りの買い物を済ませると、四人は急いでサブアジトへと向かった。
ユウ達がサブアジトに到着すると既に他の二つのグループも到着していた。
ラルフもバーノンも無事に彼らを見つけたらしい。
「遅かったな。まさかと思って心配したぞ。俺はエル・グリーゼのリーダーをやってるブレッドだ。よろしくな」
入り口にはクリスティと一緒にブレッドがいた。
エル・グリーゼのリーダーである彼もこの事態には少々苦慮しているようだ。
彼の視点で言えば、王都でゴーストロッド破壊に失敗した数週間後にこの街のメインアジトまで失ったのだから無理もない。
ちなみにここでもユウは彼と初対面ということになるので無難に挨拶しておいた。
「どうすんのメインアジト。取り返しに行く?」
ナルヴィが今後の方針をブレッドに尋ねた。
本人としては取り敢えず聞いてみたといった様子で、あまり積極的にそうしたいようには見えない。
「今、ラルフとバーノンに確認に行かせてる。それ次第だな。いつでも動けるように待機しててくれ」
「影薄いコンビに行かせたわけ? まあ一番見つかりにくいんだろうけど」
そう言って頭の上で手を組みながら、彼女は奥へ行ってしまった。
「ユウくん、私達も行こう?」
「うん。」
「そうだ、俺もダリアのところに行かないと」
ユウ達を追い抜いてロトが早足で奥へと進んでいく。
向かう方向には一片の迷いも見られない。
「ロトはダリアがどこにいてもわかるらしいの」
「それは……、色々すごいな……。」
ステラが小さな声でユウに耳打ちしてくれた。
珍しく真顔、というか腫れ物を見るような目をしている。
彼女の吐息が耳にかかるのを密かに楽しみながら、ユウもロトの後ろ姿を見送った。
……同類の後ろ姿を。
「ダリア! 無事だったか!」
「げっ! お兄ちゃん!」
奥の方から二人の声が聞こえてきた。
(すっげー嫌そうにされてる……。)
それに比べれば自分はまだ希望がありそうだとユウは少し安心した。
ステラが内心でどう思っているかはわからないが、少なくとも露骨に拒否されてはいない。
二人で数十メートルの距離を歩いて行く。
ユウの心の中はちょっとしたデート気分だ。
「ステラ、無事だったか」
「うん、大丈夫」
奥の部屋に行くとリアとラプラスがいた。
特にやることも無かったのか、二人でお茶を飲んで時間を潰していたらしい。
確かにラルフ達が戻ってくるまではやることがない。
彼らが戻ってくるまでの間、ユウ達もお茶を飲みながら一緒に待機することになった。
戻ってきたラルフ達の話を聞いたブレッドが動かないという判断をしたのはそれから一時間以上後、お昼前になってからだ。
「私達は一度戻るか。ステラはどうする?」
状況が一段落したと見たのか、リアがレッドノート邸に戻ると言い出した。
ラプラスはもちろんのこと、ユウもリアの下に付いている以上は彼女と一緒に行動することになる。
どうするか決まっていないのはステラだけだ。
「私はこっちに残るよ」
「え……。」
ユウは彼女の言葉を聞いて内心で少し落胆した。
一緒に来てくれるものと心の何処かで期待していたからだ。
だがそれも何か考えがあってのことだろうとすぐに思い直す。
なにせホーリーウインドにメインアジトを襲われたばかりだ。
生き残るために合理的な行動を心掛けなければならないだろう。
あるいは単にレッドノート家に負担をかけたくなかっただけかもしれないが。
ステラと離れることに対する不満は表に出さないように心掛けて、ユウはリア達と一緒にサブアジトを出た。




