↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/23

3話 「孵化」

レオンたちとニーホの街へ向かっている途中、事件は起こってしまった。


というか、なんとなくそんな気はしていた。


……みんなもそう思っていただろう。


だよな?


そう。その通りだ。


俺は――初めて親になってしまった。


それも、竜の。


パキッ……パキパキッ。


その音が聞こえた瞬間、俺は察した。


嫌な予感が、見事に的中してしまったことを。


卵にはひびが入り、中から鋭い歯のようなものが覗く。


さらに、赤い体毛のようなものまで見えてきた。


「お、おい。これ、なんか出てきそうなんだけど」


「聞いてる話と違うんですけど?」


「ねぇ、レオンくん。どうしてくれんの?」


これじゃあ、高く売れねぇじゃねぇか。


「す、すいません……。まさか孵化するなんて」


レオンはかなり焦っているようだった。


それもそうだ。


だって、孵化しないって言ってたもんな。


絶対言ってたし。


ふざけんなよ。


「おい、ユウキ」


「なんだ? 今こっちは、こいつをどうしようか考えてんだよ。話しかけんな」


「いや、多分そいつ、お前のこと親だと思ってるぞ」


「……え?」


これまた聞いてねぇぞ。


どうなってんだよ。


「キュルル?」


そんな顔でこっち見るな!


く、くそ……。


売るにもどうしたらいいんだか。


「もう、いっそのこと飼っちゃえば? 竜は強いし、火力担当にもなれるぞ?」


「やかましいわ。黙れ、リスの分際で」


「飼うと言ったって、どうやって飼うんだよ」


「殺した魔物の肉でもあげとけば平気だろ」


あー、こいつ役に立たんな。


このヘボリスが。


……にしても、竜と言ってもまだ小さいな。


幼体だからか?


体は少し湿っていて、全体的に赤に近いオレンジ色をしている。


怖いとか、かっこいいというより――どちらかと言えば可愛い。


こんな竜が火力高いのか?


そんなふうには見えないんだが。


「殻とか売れないのか?」


「はい。売れるかと。ただ、やはり値段は下がると思います」


「でしょうね」


どいつもこいつもヘボしかいないんかよ。


これからが心配だぞ。


「ユウキ。そんなことは置いといて、先行くぞ」


「何がそんなことだよ。重要事項だろうが」


「はぁ……。仕方ない。飼ってやるか」


すると、竜は嬉しそうにこちらを向き、


「キュイーーン!」


と鳴いた。


……喜んでるのか?


まあいい。


はぁ……。


餌とかやらんといけないんか。


ダル。


「俺様の言う通りにして損はなしだからな!」


「うるせぇ。お前の意見に従ったんじゃない。俺の意思で決めたんだ」


「へぇ〜。そんなこと言って、本当は僕を信頼してるんじゃないの?」


「そんなわけあるか!」


マジで黙ってほしいわ、こいつ。


マジうざい。


「お、お二人は仲がいいんですね」


「いや、よくねぇし。どこをどう見たら、こいつと仲良く見えるんだよ。お前の目、腐ってんのか?」


「す、すいません。でも、なんだか楽しそうだったので……」


「いや、楽しくないから。リスと楽しく喋れるわけないだろ」


「ひどいこと言うなよ」


「お前は黙ってろ!」


「泣いちゃうぞ?」


本当にめんどくさい、このクソリス。


……でも、グムといるとなんだか落ち着くんだよな。


いや、気のせいか。


「てか、街に行くんじゃなかったのか?」


「おっと、そうだった」


「いや、案内役が忘れてどうすんだよ」


「すまん、すまん」


「もう〜。早くしてよ。また魔物が来るじゃん」


「ちょっと待ってろ。えーっと……ミアだっけ?」


「そうよ。名前くらいちゃんと覚えなさいよ」


「こら、ミア。助けてもらった人たちに失礼なことを言うんじゃない」


「だってさぁ」


「すいません。うちのミアが。少し頑固というか、せっかちなもので」


「いや、全然少しじゃないけどな」


「すいません……」


レオンは見た感じ、仲間同士の喧嘩を仲裁する役らしい。


親みたいな立場なのかもしれない。


一方でミアは、気が強くて喧嘩っ早そうだ。


カイルは……さっきからずっと静かだな。


「グム、街には何しに行くんだ?」


「そりゃあ宿を取ったり、冒険者ギルドに行ったりだな。まずは、お前をこいつらのパーティに入れる」


「なるほどね」


「あと、一応お前の冒険者資格も作る」


「なんだそれ?」


「まあ、スキルやステータスが書かれたカードだ。それが冒険者資格になるから、なくすなよ」


「うーん、分かった」


「本当か?」


ニーホって街はどんなところなんだろうか。


もしかしたら、可愛いお姉さんがいっぱいいる店なんかもあったりして。


……うお、やばい。


今日まだエロいことが一つも起きてないからか、めっちゃマイブラザーがグッドモーニングしようとしてる。


いかん、いかん。


まずは街に着かなければ。


そこにいるかも分からんしな。


「おい、ユウキ。聞いてんのか? さっきからキモい顔しやがって」


「あー悪い。えっと……木はかじる時が一番最高なんだっけ?」


「違うわボケ。なんも理解しとらんやん。まさかエロいことでも考えてたんか?」


「ち、違うわ! 俺はそんな卑猥な男じゃない!」


「ふーん。まあいい。このことは一旦置いといて、次はちゃんと聞けよ」


「あいよ」


「ステータスには、攻撃力、防護力、機動力、運気、魔力量、スキル攻撃力、回復力、知力がある」


「あー、それお前が前に言ってたな。なんか、スキルを使うと上がるとかなんとか」


「ユウキさんは、どんなスキルをお持ちなんですか?」


「あ? 俺か? 俺は、なんか『強き者』っていうスキルらしい」


その言葉を聞いた瞬間、レオンたちの表情が一変した。


そんなにすごいのか?


そういえば、グムもかなり驚いてたな。


「つ、強き者なんですか!? それは心強いです。そのスキルは、世界でもごく一部の人しか扱えない最上級スキルなんですよ!」


そんなに強いのか?


「分かってなさそうな顔してるし、絶対うそだ! こんな変な奴がそんなスキル持ってるはずない!」


……てか、なんで俺ミアに嫌われてるんだ?


何かしたか?


いや、してないな。


こいつの勘違いだ。


それとも……俺のことが好きなのか?


……そういうことにしとこう。


「じゃあミア。さっきジャイアントシャークに吹き飛ばされた時も、ユウキさんは無傷だったぞ?」


「たまたまでしょ」


ミアはすぐ不貞腐れるな。


顔はいいんだが。


……てか、さっきのデカトカゲ、シャークっていうのか?


いや、サメやんそれ。


めっちゃ鱗あったし、どう見ても地上の生き物だろ。


たく、どうなってんだ。


「あのー、いいですかね。説明続けても。ユウキ、まだ何も知らないんで」


「グムさん、失礼しました。どうぞ続けてください。私たちは周りを警戒しておきます」


「ありがとう」


どうやらレオンはいい奴そうだな。


まあ、さっきからそんな気はしてたが。


この中じゃ一番まともだ。


その分、このヘンテコリスがますます可愛くなく見えてくる。


「えっとな。それでステータスは、一般的な人間の平均を五十として、それを基準に高いか低いかを判断する」


「なるほど」


ということは、平均より高ければ高いほど強いってことか。


……まあ、そりゃそうか。


「ただし、魔力量だけは違う」


「違うって何が?」


平均を基準にしてないとか?


「平均を基準にするんじゃなくて、普通の数値で表示される。ただ、基準がないだけで平均値はある」


よし。


予想が当たったぞ。


俺、天才すぎるだろ。


「おい、キモい笑み浮かべんな」


「はぁ……。で、その平均が百三十四だ。基本的に百五十を超えればまあまあ多い。二百あればかなり多い方だ」


「ふーん。なるほどねぇ」


「俺はどんくらいあるんだろうな」


「街に行きゃ分かる」


これで二百超えてたら、マジで最強じゃん。


他のステータスも八十超えとかだろうな。


ククク……笑いが止まらん。


(またユウキがキモい笑いしてんだけど。やめろよ。マジで口からモザイクかかるようなものが出てきそうになるわ)


「おい、グム」


「あ? なんだよ。こっちはお前の説明で疲れたんだよ」


「そりゃ悪かったな。てか、いつ着くんだ?」


「もうすぐ見えてくるはず……」


グムが急に立ち止まった。


「……おい、待て」


「なんだよ。急に声小さくしやがって」


「気配がする」


「何のだよ?」


こいつ、またインチキ言ってんのか?


「グムさん。すいません。私たちも補足できてないのですが……」


「いいから、みんな静かにしろ」


グムは低い声で言った。


「……こっちに来てるぞ」


そういえば、さっきから森が異様に静かだ。


鳥の鳴き声一つ聞こえない。


……俺、こういうの苦手なんだよ。


昔からそうだった。


よくお化け屋敷で腰を抜かしてたっけ。


……ハハハ。


思い出しても意味ねぇな。


過去は忘れよう。


今を生きなきゃ。


あいつに怒られる。


「来るぞ!」


グムが叫んだ瞬間だった。


バッ!


森の中から狼のような魔物が一体飛び出してきた。


続けて二体、三体――


四、五、六……


「七体!?」


嘘だろ。


七体もいんのかよ。


……まあ、こいつらがいるし、俺の負担は減るか。


「や、やばくない? レ、レオン……」


ミアの声が震えている。


「お、落ち着け、みんな! 今はユウキさんがついてる! きっと大丈夫だ!」


……いや。


俺は落ち着いてるんだが?


てか、え?


俺?


なんで?


他責?


ふざけんな。


俺に全部押し付ける気か?


マジか、こいつ。


マジかぁぁぁぁぁ!


「だがしかし、リーダー。こいつらは格上の魔物、ランクDだ。それが七体……」


「こうなると、全体ではC級くらいにはなりそうだ」


「確かにそうだな」


レオンは剣を構える。


「カイル。さっきのジャイアントシャークくらいの相手だ。でも、戦うしかない!」


……えーっと。


魔物ランクって何だ?


あのクソリス、説明してなかったな。


あとで覚えとけよ。


まあ、さっきのデカトカゲくらいってことだろ?


なら楽勝だ。


「よし! 行くぞ! レオン! ミア! カイル!」


……


……あれ?


誰も反応しない。


まさか俺、嫌われてる?


いやいや、そんなわけないだろ。


わざと無視してるなら普通に傷つくぞ?


俺、思春期真っ只中なんだからな?


「お、おい。みんな、何して――」


「ユ、ユウキ……あとは……ま、任せ……た……」


「って、おーーい!」


何、早速やられてやがるんだ!


死ぬ間際みたいなこと言うな!


……てか、あのリスどこ行きやがった?


あいつ、まさか逃げたんか?


あのクソリスめぇ!


くそ。


俺がやるしかないか。


もう一回、あのわけ分からん名前の魔法を使おう。


「おい、そこの犬っころども!」


「俺の最強の技でも食らいやがれ!」


よしよし。


なんか心なしか、狼どもも恐ろしがって後ずさりしてる気がするぞ。


このまま――


「炎魔法 ウォータークー……」


そこまで叫んだ瞬間だった。


まだ幼体の竜が、


「ガゴォォォォォォォッ!!」


突然、口から凄まじい炎を吐いた。


炎は一気に魔物たちを飲み込み、その姿を完全に覆い隠す。


「い、一体どうなったんだ……?」


やがて炎が収まり、煙が晴れる。


そこに残っていたのは――


灰と骨だけだった。


「う、嘘だろ……」


「まさか、この竜がやったのか?」


その時、後ろからグムの声が聞こえた。


「この威力は……」


なんだか焦っているようにも見える。


「なんだ? 何か分かったのか?」


「ああ」


グムは竜をじっと見つめる。


「こいつ……もしかしたら、デュゴンの一種かもしれん」


「グム、あとこいつらどうすんの?」


「ああ。ユウキも回復魔法なら持ってるはずだ」


「まさか、また変な名前じゃないだろうな?」


「安心しろ。普通に『ヒーリング』で発動する」


「なんでこれは普通なんだよ」


……にしても、こいつら弱すぎる。


一瞬でやられてたし。


もっと活躍しろよ。


「仕方ねぇ。『ヒーリング』!」


すると、緑色のもやのような光が現れた。


うわ。


これ、よく見るやつじゃん。


異世界ものあるあるだな。


「あ、ありがとうございます。ユウキさん。また助けていただいて」


「本当だよ。お前ら、ふざけんなよな」


「確かに治してもらったけど、倒したのは竜でしょ?」


……なんなんだ、この上から目線の女は。


うざ。


くそ。


俺が望む美女とは全然違う。


この場で火あぶりにしてぇ。


「ほら、ミア。そんなこと言うな。あとカイルも、感謝くらいしなさい」


「あざす」


……いや、雑やなこいつ。


こいつはこいつでムカつく。


はぁ。


「おい。てか、なんでお前いなかったんだ、クソリス」


「え? いや、その……」


「どうせリスだから逃げたんだろ? 弱っちいリスだからな!」


「え? あ、う、うん」


……なんかやけに素直だな。


こいつ。


何かあったのか?


まあいいか。


どうせこいつのことだ。


大したことじゃないだろ。


「不便だし、こいつにも名前つけるか」


「いいと思うぞ。グムみたいな、いい名前にしろよな」


「はいよ」


竜。


英語でドラゴン。


そして、こいつはデュゴン。


うーん……。


「よし、決まった」


「名前は――デュラ!」


……


あれ?


いまいちだったか?


俺はいいと思ったんだが。


「なるほど。デュゴンとドラゴンをかけたのか」


おお。


グムだけは反応してくれた。


そういうとこだけはいいんだよ、こいつ。


「そういうことだ、グム」


「よし! こいつの名前は今日からデュラな!」


「いいですね」


「いいんじゃない?」


「異議なし」


デュラも嬉しそうに鳴いている。


「キュイーン!」


「おい、みんな。街に着いたぞ!」


「おおー!」


「あそこに見えるのが街か。なかなかいい感じだな!」


こうして俺たちは、ようやくニーホの街へたどり着いた。


新たな仲間。


そして、新たな相棒となった竜・デュラ。


俺たちの冒険は、ここからさらに大きく動き始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。