20話 「捜索」
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何分経ったのだろうか。
瓦礫の中を探しても、大声で名前を呼んでも誰も見つけられない。ただ、時間と体力、そして気力だけが少しずつ失われていく。
いつの間にか空には厚い雲が広がり、辺りは薄暗くなっていた。
「なんで……俺ばっかりこんな思いをしないといけねぇんだよ……。おかしいだろ……」
(なんか、俺は悪いことでもしたか……? いや、悪いことばっかりしてるか……)
ユウキは心が折れそうになっても、無数の瓦礫の山を必死にかき分け、喉が枯れようとも仲間の名前を呼び続けた。
「レオン! ミア! カイル! エレミア! どこだぁ! 聞こえてるなら返事をしてくれぇ!」
返ってくるのは、風が瓦礫の隙間を吹き抜ける音だけ。それでもユウキは諦めることなく瓦礫をどかし続けた。
「頼む……返事をしてくれ……」
カラ……ガラガラガラッ。
瓦礫の向こうから足音が聞こえた。
ユウキは弾かれたように顔を上げる。そこには、顔を泥で汚し、服はあちこち破れ、全身に無数の擦り傷を負った男が立っていた。痛々しい姿だったが、その顔には見覚えがあった。
「カ、カイル……? カイルなのか?」
「何言ってんだ。当たり前だろ」
聞き慣れた声だった。
瓦礫の向こうに立っていたのは、紛れもなくカイルだった。まるで夢でも見ているようだった。
「幻覚じゃないよな……? 現実だよな?」
「あぁ。本物だ」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れた。視界が滲み、目元が熱くなる。
「よかった……」
ユウキはカイルのもとへ駆け寄り、そのまま強く抱きついた。
「よかったぁ……! カイルが無事でぇ……!」
「本当に……よかったぁ……!」
「……おい」
カイルは一瞬だけ黙ったまま立ち尽くした。
「苦しい」
それでもユウキはしばらく離れようとしない。
「……もういいだろ」
「ご、ごめん……」
ユウキは目元を拭いながら体を離した。カイルはユウキを一瞥すると、すぐに周囲へ視線を向けた。
「俺は無事だ」
「それより、まだ全員見つかってないんだろ」
ユウキは小さく頷いた。
「ああ……」
「なら探すぞ」
「……ああ!」
二人は瓦礫へ向き直った。
「どうやって探すんだ?」
「手当たり次第に探すさ」
「それじゃ時間がかかるだろ」
「でも他に方法が──」
「魔力探知は?」
魔力探知。その言葉を聞いた瞬間、グムとの会話が脳裏によみがえった。
(そうだ……そんな方法があった。)
グムは「みんな当たり前に使える」と言っていた。だが、俺はどうにも上手く扱えないんだよな。……まあ、試しにやってみるか。
「そうだな。やってみるか」
ユウキは目に魔力を込め始めた。意識を集中させるにつれ、視界が少しずつ変わっていく。しかし、中々上手くいかない。ようやく隣に立つカイルの魔力がぼんやりと見え始めた。
(よし。このままレオンとミアとエレミアを探そう。)
ユウキは辺りを見回した。しかし、見えたのはカイルとデュラ、そして少し離れた場所で休んでいるグムの魔力だけだった。
「くそ……なんで見えねぇんだよ」
「それなら俺がやろう」
カイルはそう言うと、静かに辺りへ視線を巡らせた。
「どうだ? いそうか?」
「……今のところは感じ取れない」
「そうか……」
ユウキは再び瓦礫へ手を伸ばそうとした。
「ユウキ。そういえば、俺とデュラ以外は誰か見つかったのか?」
「え? グムはいるけど……。なんで?」
「いや、普通に気になっただけだ。それより、グムは大丈夫なのか?」
「うん。喋れはするけど、まだ動けなさそうだったから向こうで休ませてる」
ユウキはグムがいる方向を指差した。
「そうか。でも、一人にしておくのは危ないだろ。魔物に襲われたらどうする」
「でも、動けなさそうだったし……」
カイルは僅かに眉をひそめた。
(そんなにグムのことが心配なのか? ……いや、確かに一人にしておくのは危険か。)
「そうだな。じゃあ、カイルはグムのところにいてくれ」
「いや、みんなで探した方がいい。安心しろ。グムは俺が運ぶ」
「わ、わかった」
ユウキたちはグムを休ませていた場所へ向かった。
「おい、グム」
しかし、さっきまでいた場所にグムの姿はなかった。返事も聞こえてこない。
(まさか、本当に魔物にやられたのか……!?)
ユウキの額に冷や汗が滲む。
「ユウキ、いたぞ」
カイルの声に振り向き、その指差す方を見る。
そこには、こちらへ背を向けたまま立つグムの姿があった。
「グム? 何やってんだ?」
ユウキは駆け寄りながら声をかける。
「………」
グムは何かを小さな声でぶつぶつと呟いていた。
「おい、グム!」
ユウキは大きめの声で呼びかけた。しかし、喉はすでに枯れ始めており、思ったほど声は出なかった。
「え? ああ、ユウキか。……ってカイルじゃん。お前、大丈夫だったのか?」
「ああ。なんとかな」
「そうか。で、なんだ?」
さっきまで苦しそうにしていた様子はなく、グムはいつもの調子でこちらを見上げた。
「いや、一人だと危ないかなって思って、お前を呼びに来たんだよ」
「そうか。じゃあ、ついていくよ」
「怪我は大丈夫なのか?」
「少し痛むけど大丈夫だ。でも、肩に乗せてもらわないと動けないかも」
「いつも肩に乗ってるだろ」
グムは小さく肩をすくめた。
ユウキはカイルが無事だった安心感と、いつもと変わらないグムの調子、そしてデュラの愛らしい姿に、ほんの少しだけ今の状況の深刻さを忘れていた。気づけば捜索を始めてから20分は経っていた。
───50分前(爆発前30分)
「レオン、なんかここ不気味じゃない?」
「そうですね。何か嫌な気配を感じます」
レオンとミアは並んで遺跡の中を歩いていた。しばらく歩くと、突き当たりに他の部屋よりも一回り広い空間が現れた。
「何の部屋だろう?」
部屋の中には、見たことのない材質でできた装置のようなものが規則正しく並んでいた。二人は周囲を見回しながら、ゆっくりと部屋の中を歩いていく。
「レオン、ここになんかよく分からない文字が書いてあるよ」
ミアは装置に並ぶ小さな四角い部品の一つを指差した。その表面には、見たことのない文字が一文字だけ刻まれている。
レオンはその文字をじっと見つめた。
「何でしょうね。私には読めません」
「ここって、何の目的で作られたんだろうね」
二人は会話を交わしながら、部屋の中をゆっくり歩き続けた。
「よし、ここにも特には変異体の痕跡はありませんでしたね」
「そうね。じゃあ、戻る?」
「そうですね。でも、一応来た道ももう一度確認しておきましょう」
ミアとレオンは部屋を後にし、ユウキたちと別れた十字路へ戻り始めた。
⸻
──30分前(爆発前10分)
「ミアは最近楽しそうですね」
「え? そう?」
レオンはミアに優しく微笑みかけた。
「気になってる人でもいるのではないですか?」
「そ、それは……」
ミアは顔を少し赤らめ、下を向いた。
「図星みたいですね」
「別に気になる人がいたっていいでしょ」
「はい。別に否定はしてないですよ、ミア」
(なんで、いつもレオンは勘が鋭いのよ)
ミアとレオンが話しながら十字路へ向かっていた、その時だった。
──ガタガタ。
天井から砂が降り始める。遺跡全体がわずかに揺れた。
「なに!? 遺跡が揺れてる!?」
一瞬、辺りが静寂に包まれる。
しかし次の瞬間――。
ゴォォォォォッ!
「ミア! 危ない!」
レオンはミアをかばうように一歩前へ出た。
──ドッガァァァァンッ!
凄まじい爆風が遺跡全体を飲み込み、壁も天井も轟音とともに崩れ落ちていく。
⸻
(いてて……。ここは?)
ミアはゆっくりと目を開けた。
(確か……遺跡でレオンと話してて……。そうだ、急に遺跡が揺れて……)
そこまで思い出したところで、ミアは辺りを見回した。
(そういえば、レオンは……?)
レオンを探そうと体を動かした、その瞬間――。
「痛っ!」
下半身に鋭い痛みが走る。
恐る恐る視線を落とすと、大きな瓦礫が腰から下を押さえつけていた。
「う、嘘でしょ……」
ミアは必死に瓦礫から抜け出そうとした。しかし、瓦礫はびくとも動かない。動こうとするたびに下半身へ激痛が走る。
「誰か! レオン! ユウキ! 助けてぇ!」
ミアは声の限り叫んだ。
しかし、その声に応える者は誰もいない。
「誰か……助けて……」
力尽きたように呟くと、ミアの意識はゆっくりと闇へ沈んでいった。
⸻
──現在。
「レオン! ミア! エレミア!」
ユウキたちは今もなお、三人の行方を捜し続けていた。
「カイル、そっちにはいたか?」
「いや。誰も」
「そうか。グムは?」
「感じ取れない。よくわからんけど、この辺は魔力が遮断されてるみたいだ」
「わかった。じゃあ、場所を移すぞ」
ユウキたちは捜索場所を変えた。今までは西側を探してたが東側を探すことになった。
場所を移す際でも、ユウキたちは必死に仲間の名前を叫び続けた。




